国際大会で侍ジャパン投手陣にアンダースローがいると、必ず脚光を浴びる。サブマリンと呼ばれる投球フォームが、現代野球で”希少種”であること。

なにより、彼らは大舞台で結果を残す。昨年のプレミア12でも、ソフトバンクの高橋礼が3試合に登板し2勝、防御率1.50と安定感を示した。

「とくに短期決戦の場合は、ハマったら強いんじゃないですかね。(アンダースローは)あまりいないので、相手からすれば攻略法がなかなかないというか、対応が難しいんじゃないですか? 自分は、そこまで意識していなかったですけど……」

牧田和久、MLB仕様からの脱却。「打たれたらしょうがない」の...の画像はこちら >>

3年ぶりに日本球界に復帰した牧田和久

 今季から楽天でプレーする牧田和久は、アンダースローの利点についてそう語る。

 自身も2013年と17年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)に出場し、第1回プレミア12でも日の丸を背負った。合計10試合に登板して防御率1.75。
サブマリンは、侍ジャパンのピースとしてハマった。

 牧田は「世界」を知る男だ。

 侍ジャパンの経験はもちろんだが、2018年にはサンディエゴ・パドレスへ移籍した。27試合に投げ、防御率5.40。2年目のシーズンは3Aと2Aのみの登板で、合計43試合で防御率3.33と、世界の最高峰で研鑽を積んだ一方で、マイナー生活という厳しい競争社会にも身を投じ、揉まれた。

 その牧田が新天地に楽天を選んだのは、「ずっと評価をしてくれたから」だった。
昨年初めに楽天からのオファーを一度は断ったが、マイナーリーグにいても自分の力を必要としてくれていた——その熱意が、牧田を新たな挑戦へと突き動かしたのである。

 今年で36歳。熟練のアンダースローに、周囲は「アメリカ仕込み」を期待する。だが、本人はアメリカでの2年間を切り離し、今季への準備に着手している。

 牧田が意欲的に取り組んだのが、再び日本のボールとマウンドに慣れる作業だった。

 久米島での春季キャンプ。

牧田は初日から2日連続でブルペンに入り、2日目には捕手を座らせ100球も投げ込んだ。理由は「納得するまでやりたかったから」だ。ベテランと呼ばれる選手にとっては、異例ともいえる追い込みではあるが、牧田に妥協はなかった。

「日本のボールはアメリカよりしっとりしているので、変化球が指にうまく引っかからない。マウンドもアメリカは固いから、しっかり足を踏み込めば体が勝手に回ってくれるイメージだけど、日本は柔らかい。マウンドでしっかり下半身を踏ん張らせないと上半身が前に突っ込んでしまう。
腕も遠回りしてしまうから、ボールに力が伝わらなくなる。やっぱり、2年も離れていたんで1球1球、そこを確かめながら。前の感覚を取り戻すためにはしっかり投げていかないと」

 投球術にしても、牧田は日本に適応するための準備を進める。

“フライボール革命”が起きているメジャーでは、アンダースローの特性を生かした、下から高めに浮き上がる軌道のハイボールで「面白いくらい空振りが取れた」と、牧田自身、武器としていた。そして、MLBの公式サイトでの選手投票で選出され、”魔球”と称されたカーブも効果的だった。

 それらはあくまで、パワー野球のメジャーで通用するのであって、日本人打者が同じ反応をするとは限らないと、牧田は言う。



「日本人バッターは、高めとか変化球に我慢できるじゃないですか。無理に打ちにいかないというか。そういう技術が高いんで、高めの真っすぐとかカーブは、頻繁に使っても通用しないんじゃないかなって思います」

 牧田は「低めや外角、内角に投げ切れるコントロールが重要」と分析する。ボールとマウンドに慣れるべくキャンプ序盤から精力的にブルペンに入っていたのは、同時に制球力を安定させるためでもあったわけだ。

 実績を誇ることなく、楽天で一からのスタートを切った。そんな牧田には、達観した思考がある。


「打たれたらしょうがない」

 準備を整え、自信を持ってマウンドに上がる。そこで打たれたら、また自己を見直す。高校時代にアンダースローとなってから、牧田はそうやって地道にキャリアを築いてきた。

「自分の体の仕組みがこうだから、アンダーとかサイドにしましょうって……理屈はわかるんですけど、結果が出なかったら意味ないじゃないですか。だから、僕はそこまで深くは考えていなかったような気がするんですよね、アンダースローにしたこととかも。なんか、『絶対に結果を残してやる』とか『抑えてやるから見とけよ!』って感じでマウンドに行くと、力んでしまって普段のパフォーマンスができないような気がするんですね。だから、自信を持って投げて、打たれたら相手が上。もしくは、自分の技術が足りなかったって納得するしかないですよね」

 歴戦のサブマリンは、3年ぶりとなる日本のマウンドでどんなパフォーマンスを見せてくれるのか。今から楽しみでならない。