Jリーグ27年からチョイス!
『私のベストチーム』
第6回:2019年の横浜F・マリノス

 あなたの考えるJリーグ史上最強のチームは?

 実に難しい質問だ。

 30年近い歴史があれば、その間には強く印象に残っているチームはいくつもある。

そもそも異なる時代のチームを単純に比較などできない。

 また、得てして古い記憶は、時間とともに脳の中で美化されがちだ。「昔はよかった」とばかりに、「あのチームは強かった」という印象が強くなる。

 ならば、古い記憶を引っ張り出してまであれこれ悩むのはやめ、最も新鮮で強烈な記憶に従って答えを出そうと思う。

 人生で最も好きな映画は? と聞かれて、最新のアカデミー賞作品を挙げるようで、少々気恥ずかしさもあるが、それだけ記憶が鮮明なのだから仕方がない。

 昨季のJ1王者、横浜F・マリノスである。


 率直に言えば、昨季開幕当初の横浜FMには、好印象こそあったが、うならされるような強さは感じなかった。事実、常に上位争いをしていたとはいえ、夏場には優勝チームらしからぬ3連敗も喫しており、1シーズンを通して安定した強さを発揮したのか、と尋ねられれば、すぐに首を縦に振るのは難しい。

 そんなチームが"化けた"のは、シーズン最後の11試合だ。

 正直、この間の横浜FMは、怖いくらいに強かった。それは、「簡単には負けない」とか、「終わってみれば勝っている」といった類の勝負強さではなく、相手を蹂躙するような強さ。試合後には、負けた相手選手から、白旗を挙げるようなコメントを聞くことも少なくなかった。

 前述したように、昨季の横浜FMは第21~23節で3連敗し、当時首位に立っていたFC東京と勝ち点9差の5位にまで転落した。

 ところが、終わってみれば、逆に勝ち点6もの差をつけての優勝。つまり、第24節以降の11試合では、FC東京を勝ち点15も上回ったことになる。

 なかでも、ディフェンディングチャンピオンの川崎フロンターレを4-1、優勝争いのライバルであるFC東京を3-0で退けた、ラスト2試合は圧巻だった。10勝1分けの無敗で駆け抜けたラストスパートこそが、昨季の横浜FMを史上最強に推す最大の理由だと言ってもいい。

 つまり、厳密に言うなら、史上最強に推すのは"昨季の"横浜FMというより、"昨季ラスト11試合の"横浜FMである。



昨季の横浜F・マリノスは「史上最強」。的確な補強戦略で常識を...の画像はこちら >>
 なぜ昨季の横浜FMがこれほどの強さを実現できたのか、と言えば、そのスタイルに理由がある。

 現代サッカーにおいて、ボールポゼッションの是非は、常に議論の的になる。勝利のためには、必ずしもボールポゼッション率を高める必要はなく、むしろ一般的には、ボールポゼッション率が低いチームのほうが勝つ確率が高いことをデータは示している。

 しかしながら、ボールを保持しない限り、絶対に得点は生まれない以上、相手にボールを持つ機会を与えないことは、間違いなく勝利への確率を高めることにつながる。

 その意味で言えば、ボールポゼッションは勝利への道筋として、間違いなく是だ。

 ただし、勝利の確率を高めるためには、ボールポゼッションは、ボールを失った瞬間に、素早く、しかもできるだけ高い位置で、奪い返すこととセットでなければならない。



 その点において、横浜FMのサッカーは、現代サッカーにおけるひとつの理想形だった。従来のJリーグとは別次元のサッカーが展開された、とすら言える。

 とはいえ、ピッチ上でどんなサッカーが繰り広げられたかについては、改めて語る必要もないのだろう。

 何せ昨季の話である。誰の記憶にもまだ新しいはずだ。

 そこで、少し視点を変えるなら、昨季の横浜FMを最強に推す理由は、ピッチ外にもあるとつけ加えたい。


 一般的に言って、リーグ戦で優勝するチームというのは、メンバーが大きく入れ替わらないものだ。多くの負傷者を出すことなく、主力選手がシーズンを通してプレーするなかで、戦術的にも熟成されていく。

 ところが、昨季の横浜FMは、そんな常識から外れたチームだった。

 たとえば、昨季J1開幕戦と最終戦の先発メンバーを比較すると、その両方に名を連ねていたのは5人だけ。開幕当初は主力だったMF天野純、MF三好康児は、いずれも海外移籍で夏にチームを離れ、DF高野遼、FWエジガル・ジュニオは重傷を負い、長期離脱を余儀なくされた。

 なかでも、エジガル・ジュニオは、負傷前の直近8試合で4戦連発を含む8ゴールと、絶好調時のアクシデントだった。
その時点でチーム得点王の離脱は、とてつもなく大きな痛手。実際、夏場の3連敗は、その直後に起きている。

 しかし、長丁場のリーグ戦を戦うなかで、GK朴一圭、DF松原健、DFティーラトン、MF扇原貴宏らが、チーム内競争から台頭。また、FWエリキ、FWマテウスの新外国人選手の獲得だけでなく、DF和田拓也、MF渡辺皓太ら、自分たちのスタイルにかなった日本人選手もシーズン途中に加え、補強を図った。

 横浜FMは昨季、全部で8選手をシーズン途中に加えたが、そのなかでリーグ戦出場がなかったのはひとりだけ。出場試合数が少なかったGK中林洋次(1試合)、DF伊藤槙人(3試合)にしても、貴重なバックアッパーとしてベンチに入っており、ほとんど無駄なく有効活用していた。

 例年、Jリーグを見ていると、それが優勝争いのためか、残留争いのためかはともかく、シーズン途中で補強を図るクラブは珍しくない。だが、そこで獲得したはいいが、ほとんど使われないままにシーズンが終わってしまう選手もまた珍しくない。

 そんななか、横浜FMの補強戦略は実に的確だった。目指すサッカーをクラブ全体で共有し、フロントは現場が必要とする人材を正しく見定めていたということだろう。シーズン途中に主力の離脱が相次ぎながら、優勝できたことはもちろんだが、これだけ完成度の高いチームを作り上げたことは驚嘆に値する。

 ピッチ上で繰り広げられたパフォーマンスだけでなく、ピッチ外でのバックアップ体制も含め、クラブ全体で作り上げられた最強チームだった。