近年、石川県の高校野球は星稜の”1強時代”が続いている。2018年春から2020年春(※)まで5季連続して甲子園出場を果たしており、昨年夏は準優勝に輝いた。


※今春のセンバツにも出場が決定していたが、新型コロナウイルスの影響により大会は中止となった

 いまや全国屈指の強豪校として存在感を示しているが、昨年夏の石川大会では星稜を苦しめたライバル校が多くあった。そのうちのひとつが遊学館だった。

 遊学館が1996年に女子校から共学となり、野球部は創部からわずか1年4カ月で甲子園を果たすなど、現在まで春1回、夏6回出場している。

奥川恭伸との投げ合いで大注目。遊学館・高田は最後の打倒・星稜...の画像はこちら >>

昨年夏、石川大会で星稜相手に好投した遊学館の高田竜星

 そんな遊学館に高田竜星という期待の投手がいる。地元・金沢の兼六中時代に軟式の全国大会でノーヒット・ノーランを達成し、ベスト8まで進んだ。遊学館に入学すると、すぐにチームの戦力となり、1年夏からベンチ入りを果たし、秋からはエースとなった。


 そんな高田の評価をさらに上げたのが、昨年夏の石川大会準々決勝での星稜戦。相手のマウンドには、言うまでもなくエースの奥川恭伸(現・ヤクルト)が立っていた。

 試合は初回に星稜が2番・有松和輝のソロアーチで先制。3回にも内野ゴロの間に2点目を挙げると、その後、二死一、二塁となった場面でマウンドに上がったのが高田だった。

 高田は躍動感のあるフォームからキレのあるストレート、変化球で星稜の好打者たちを面白いように打ち取っていく。結局、試合は1−2で敗れたが、高田は6回1/3を投げて無失点。

許した安打はわずか1本で、外野に打球が飛んだのも3本しかなかった。

 だが高田は好投したにもかかわらず、冷静に結果を受け止めていた。

「結果的に0点でしたが、自分としてはたまたま抑えられたという感じです。点差もほとんどなかったので、自分が抑えれば勝てると思っていました。ただ……自分が『ここぞ!』という場面で三振を取っていたら、流れが変わって攻撃につなげられたかもしれません。野手に助けられた場面も多かったですし……。
でも、あの試合は奥川さんと投げ合えて、とても楽しかったです」

 あの試合、高田は忘れられないシーンがあるという。5回表、二死走者なしの場面で奥川を打席に迎えた時だ。

「登板してからまだヒットを打たれていなかったし、相手が奥川さんなのでどうしても三振を取りたかったんです。でも、4球目に大きなファウルを打たれて『やばいな』と思って。結果はキャッチャーへのファウルフライだったのですが、あそこで三振を取れていたら……と思うんです」

 ピッチャー心理として、奥川から三振を奪って少しでもダメージを与えたかったが、目論見は外れた。とはいえ、遊学館は5回、6回の攻撃でいずれもスコアリングポジションにランナーを進めたが、無得点に終わっている。

だからこそ、「あの場面で三振が取れていたら」と高田は悔やむのだ。1点の重みをこれほど実感した試合はなかった。

「相手投手が奥川さんですし、1点がすごく重かった。いくら打線に自信があっても、いい投手からはなかなか打てないです。それに、初めて夏にエース番号を背負わせてもらったのに、自分が先発じゃなかったのは力がなかったから……」

 その結果を踏まえて秋の星稜との再戦について触れると、高田の口はさらに重くなった。

 昨年秋、遊学館は石川大会準々決勝で再び星稜と対戦し、高田は先発マウンドを任された。
勝てば北信越大会出場の大一番だったが、4回途中までに3安打7四球と荒れ、6失点でマウンドを降りた。試合も1−10(7回コールド)で敗れ、その時点で翌春のセンバツ出場は絶望となった。

「勝ちたいという気持ちが強すぎて、空回りしてしまいました。緊張もあったんですけど、それを自分で抑えられなかった」

 冬は追い込むための貴重な時間だったが、股関節を痛めた影響で走るメニューはこなせなかった。その代わり、上半身トレーニングに力を入れ、食トレも敢行した。

「もともと食は細いほうなんですけど、とにかく食べる回数を増やしました。

たとえば、お昼までにおにぎりとかを学校で食べて、練習後にパスタ、寝る前に餅を食べるとか……。ただ体重が増えすぎて、肩が回っていないんじゃないかとみんなに言われています」

 4月上旬の練習試合では制球が定まらず、「出来は6割くらい。全力で投げようと思えばできますが、まだ怖さもあるし、体のバランスがよくない。これからフォームを見直していきたい」と語っていた。

 そのため徐々にランメニューを本格化させ下半身をつくりながら上半身との連動性を意識し、夏に向けて仕上げていく予定だった。だがその直後、新型コロナウイルスの影響で学校が休校となり、野球部も活動休止。そして5月20日、夏の甲子園大会の中止が発表された。

 星稜にリベンジを果たしたい一心で練習に励んできた高田にとって、その無念さは計り知れない。しかし、甲子園にはつながらなくても、まだ「打倒・星稜」のチャンスはある。石川県高野連が独自のトーナメント大会を開催すると発表したのだ。その日を目標に、高田は今日もどこかで汗を流していることだろう。