絶対に失敗できないレース。

 2021年かぎりでのF1撤退を発表した直後のレースだけに、残る1年と7戦をこれまでと同じように全力で戦うためにも、チームからの信頼を失わないためにも、ホンダにとってアイフェルGPは絶対にミスの許されないレースだった。

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2013年以来のF1開催となったニュルブルクリンク

 それにもかかわらず、金曜のセッションは霧のためにすべてキャンセルとなり、土曜朝のわずか1時間のフリー走行のみで予選・決勝に臨まなければならなくなった。

 車体側のセットアップもさることながら、予選と決勝をひとつのモードで走らなければならなくなった今のパワーユニットにとっても、それは難しい挑戦になった。

 しかも、ニュルブルクリンクは2013年以来のF1開催であり、現行パワーユニットでは初めて。

「いつもよりテスト項目を減らすなど、あれこれ試す時間はあまりありませんでしたが、それは全チーム同じ条件。まずまずの形に収まったかなと思いますし、事前シミュレーションの精度もかなりよくできていました。基本的なプログラムは消化してセッティングを出せましたので、いつもと同様のレベルに仕上げることができました」(ホンダ・田辺豊治テクニカルディレクター)

 結果論からいえば、決勝ではメルセデスAMGがバルテリ・ボッタス車のMGU-H(※)にトラブルを抱え、ルノー勢もエステバン・オコンとランド・ノリスが同じようにパワーを失ってリタイアを強いられた。

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

 気温が10度を下回る異様な寒さもさることながら、データ不足によるセッティングの未成熟もトラブルの要因になった可能性は高い。そういう意味では、4台ともにパワーユニットにトラブルを出さなかったホンダはいい仕事をしたと言える。

 予選はマックス・フェルスタッペンがメルセデスAMGに対し、今季最少ギャップの0.293秒差で3位。そして決勝ではボッタスのリタイアを受けて、2位でフィニッシュしてみせた。

まさに、持てるパフォーマンスを最大限に出し切った結果だ。

 いつも冷静な田辺テクニカルディレクターも、レース後は安堵の表情を見せた。今までどおり全力で戦うだけだとは言いながらも、いつも以上に絶対に失敗は許されないというプレッシャーもあったのだろう。

「4台完走・4台入賞はなりませんでしたけど、自分たちのトラブルやミスでチームやドライバーの足を引っ張ることなく走れましたし、2日間開催というなかでもきっちりと仕事ができました。ポジションは2位でしたが、我々の持てるパフォーマンスを最大限に引き出した結果なのでよかったと思っています。

 撤退発表のあとですから、ボロボロになってしまうような結果だと、いろんな話も出てきてしまいますから。

1戦1戦、今までとまったく変わらず、きちんとやっていくということは変わりません」

 ニュルブルクリンクは回り込むような中高速コーナーがあり、アップダウンもあって鈴鹿サーキットのような雰囲気がある。各車とも最大ダウンフォースパッケージで走るサーキットであり、シーズン序盤戦にはレッドブルがマシン挙動の不安定さに苦しんだタイプのサーキットでもある。

 しかし、ロシアGPで試験投入したコンパクトなサイドポッドや、フロントウイング翼端板にも小改良を加え、マシン挙動はかなり改善されたようだ。FP3の走り始めから挙動はよく、むしろメルセデスAMGを上回るタイムを記録するほどだった。

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 フェルスタッペンも、その手応えを感じている。

「2位という結果自体はいいことだよ。

レースを通してルイス(・ハミルトン)を追いかけることはできたし、彼のほうが少し速かったけど、僕らとしてはレース週末全体がポジティブだった。

 新パーツを持ち込んで、マシンは間違いなくインプルーブした。さらにもっとこのクルマのことを学んで、マシンの理解を深めていかないとね。今週末は(走行時間が少なくて)少し短すぎたけど、今後さらに改善することはできると思う。次のレースではもっとトライしていくことになるね」

ホンダF1、失敗できないレースでいい仕事。悩みの「挙動変化」も改善

2位のフェルスタッペンはファステストラップも記録

 予選ではメルセデスAMG勢の間に割って入ることすら期待でき、フェルスタッペンも3位という結果に「もう少しいい結果を期待していただけに、少しガッカリでもある」と語るほどだった。

 レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は中速コーナーが連続するセクター1で速さを実感し、逆に低速のシケインではメルセデスAMGに負けていたと認める。

「今週末の我々は全体的にコンペティティブで、メルセデスAMGとのギャップは縮まっていた。このサーキットの特定の箇所ではメルセデスAMGよりも速かった。

 とくにセクター1がコンペティティブで、メルセデスAMGに対するゲインはすべてセクター1で稼いだものだ。逆にターン13~14は我々の弱点だったが、我々としては勇気づけられる結果だ。この流れを維持したままシーズン後半戦を終えたいし、RB16の抱えている問題をさらに詳しく理解し、来年型RB16Bのために問題解決に努力したいと思っている」

 セクター1でのアドバンテージは、メルセデスAMGがダウンフォースを削ったセットアップを施したことも無縁ではないだろう。シケインで後れを取ったのは、メカニカル性能でまだ差があるということだ。

 フェルスタッペンは最終周、ファステストラップを記録して1点を稼いだ。だがそれも、直前のセーフティカー導入時にタイヤを交換したばかりであったことや、ハミルトンに比べてバッテリーに蓄電するチャージラップをやりやすい状況下にあったことも影響している(前周は大きくペースを落としてチャージしている)。

 それでも、レッドブル自身がこれまで悩まされてきたコーナーの侵入からエイペックス(コーナー内側の頂点)までの突発的な挙動変化を改善できたことは大きな意味がある。今季型RB16の改良進化型となる2021年型マシンの開発を見定めるためにも、この時点で問題の原因と解決策をしっかりと掴んでおくことが重要だからだ。

 2021年かぎりでの撤退が明らかになった直後のアイフェルGPは、ホンダとしてもレッドブルとしても大きな意味のあるレースだった。そこで全力を出し切り、さらに来季に向けた光明の見えるレースができたことは、レッドブル・ホンダにとって大きな福音となったはずだ。