今年のドラフトは長かった。支配下選手のドラフトがスタートして、育成ドラフトの最後のひとりが終わるまで、およそ3時間20分。
長かった最大の理由は、巨人の育成ドラフトが延々と続いたせいだろう。今年の巨人は、育成ドラフト史上最多となる12人の選手を指名した。大量指名がいいとか悪いとか、指名された選手のレベルがどうこうとかではなく「巨人って変わったなぁ......」というのが率直な感想だ。
巨人から1位指名を受けた亜細亜大の平内龍太
巨人とドラフト──振り返れば、1978年に巨人入りを熱望していた江川卓を野球協約の盲点を突いた「空白の1日」を利用して契約。しかし、それが認められないとわかると、巨人はドラフトをボイコットした。
ドラフトには参加しなかったが、巨人は"ドラフト外"で10選手を獲得して、そのなかにはのちの巨人の守護神となる鹿取義隆(明治大)が入っていて、あらためて「ドラフトって奥が深いなぁ」と思い知らされた。
そうはいっても、その当時の巨人は"ドラフト"をあまり当てにしていない雰囲気があった。実際、チームづくりの根幹は、トレード、外国人選手......それに1993年以降はFAも加わり、ドラフトはあくまでも二次的手段というような時代が長く続いていた。
それがいつ頃からだろう......チームの方針が少しずつ変わり始めてきた。「育成の星」と呼ばれた山口鉄也、松本哲也が一軍の主力となり、近年では育成出身の山下航汰、増田大輝を一軍で登用し、ドラフト下位入団の左腕・中川皓太を勝ちゲームのリリーフとして起用するなど、選手の育成に力を入れるようになった。
今年も「育成の巨人」を象徴するようなシーズンとなった。2018年のドラフト6位・戸郷翔征が9勝を挙げ、2016年のドラフト6位・大江竜聖はサイドハンドにモデルチェンジしてリリーフ陣の一角を担った。
そしてドラフトだ。
支配下ドラフトで亜細亜大の右腕・平内龍太をはじめ、大学生中心に7人を指名。さらに育成ドラフトでも12人を指名した。ドラフトで指名するということは、つまり「獲って、育てます!」という宣言である。しかも、今年は育成ドラフトに阿部慎之助二軍監督が同席したという。
そもそも巨人は、それまではあえてチームの方針をわかりにくくしておくことで"球界の盟主"としての威厳を保っているように見えた。それが今回のドラフトでは"育成"という二文字がはっきりと表れていた。
あるアマチュアの指導者はこんなことを言っていた。
「以前は(巨人に)指名されても育たないんじゃないか、試合に出られないんじゃないかという声はありましたが、最近は育成に力を入れているのがすごくわかります。下位指名や育成出身の選手が一軍でプレーしているのを見ると、モチベーションは上がりますし、本当の意味での競争になる。
◆藤原、根尾を子ども扱いしていた高校時代の戸郷翔征>>
育成ドラフト1位で指名された岡本大翔(米子東)、同3位の笠島尚樹(敦賀気比)は当初、進学の可能性が高かったそうだが、交渉の際に育成システムについての話を聞き、入団を決断したという。"育成"という点において、今の巨人には選手たちにも伝わるしっかりとしたビジョンが描けているのだろう。
とはいえ、本当の勝負はこれからである。巨人の大塚淳弘球団副代表は「今年は発掘と育成の元年。3、4年後のドラフト1位を獲れた」と語っていたが、はたして指名した19人のうち何人の選手が一軍の戦力となることができるのか。
トレードやFAで獲得した大物選手も華やかでいいが、ファームから台頭してきた若い選手の活躍はファンにとってたまらないものである。
育てながら勝つ──本当の意味での「育成の巨人」が完成した時、とんでもなくすごいチームになっていくのではないだろうか。これからの巨人が楽しみでならない。