筒香嘉智(ピッツバーグ・パイレーツ)がついに戦列に復帰した。腰痛で負傷者リスト(IL)入りしていた筒香は、7月5日(現地時間:以下同)の本拠地でのニューヨーク・ヤンキース戦に「5番・一塁手」でスタメン出場し、3打数2安打とマルチ安打をマーク。

IL入り前に打率.177、2本塁打、15打点と低迷していたスラッガーは、復帰初戦から打撃をアピールして巻き返しを図っている。

戦列復帰も「筒香嘉智がレギュラーに座り続けることは難しい」。...の画像はこちら >>

7月5日に戦列復帰したパイレーツの筒香

 筒香の戦列復帰までの道は、決して平坦ではなかった。5月27日のIL入り時、筒香は「腰部の筋肉損傷」と診断された。パイレーツのデレク・シェルトン監督は「数日間の状態を見てまた判断する」とメディアに話し、長期離脱を否定。ILの日数も10日間となり、6月6日からのリハビリ開始も予定されていた。

 しかし、その後は音沙汰がなくなった。
米スポーツニュースサイト『ロト・ボーラー』は6月15日、メジャーのケガ人情報を伝える記事の中で、「筒香は7月上旬まで復帰しない見込みだ」と掲載し、復帰まで時間がかかると予想。実際、筒香がマイナーでのリハビリ実戦に出場できたのは6月21日で、IL入りから1カ月もかかっている。

 戦列を離れている間、現地メディアは筒香に厳しい評価を与えた。5月30日、パイレーツ専門メディア『ラム・バンター』は「筒香はサンクコスト(回収できる見込みのないコスト)だ」と表し、「若手選手の出場機会を奪う障害になっている」と痛烈に批判した。筒香は今季、パイレーツと1年400万ドル(約5億4370万円)で再契約している。それは、昨季にパイレーツでの43試合で8本塁打という成績を残したからだ。


 当然、今季もその打力が期待されていたわけだが、5月24日までの35試合出場で本塁打はわずか2本。二塁打も3本で長打率は.327。代わりに三振が31個と多くなった。パイレーツ専門メディア『バックス・ダグアウト』のジェイク・スルボドニック記者からは「スタメンに名前があれば、"自動的にアウトになるだろう"と思うようになりました」と言われるほど、現地メディアを失望させた。

離脱時に評価を上げたライバル

 しかし、筒香の打撃が悪かったのはケガの影響が大きい。筒香は「開幕3試合目から腰に違和感があった」と話し、治療薬を飲みながらプレーを続けていたことをメディアに明かしている。メジャー復帰までに42日を要したことが何よりの証拠だろう。

そのぐらい状態は悪かった。

 約1カ月も治療に専念した筒香は、パイレーツ傘下のインディアナポリス・インディアンズでの9試合で11安打2本塁打12打点9四球と見違えるような姿を見せた。特にメジャー復帰前の3試合(7月1日から3日)は、打率.455、出塁率.500、長打率1.091と高い数字をマーク。好成績の筒香に、『ラム・バンター』のマーティ・リープ記者は「リハビリ実戦でのヨシはボールをうまく打ち返し、四球を選んでの出塁も多かった」と評価。続けて、「(リハビリ実戦での活躍を見ていると)序盤の苦戦は理にかなっている」と、低迷にも納得を示した。

 とはいえ、マイナーでの成績だけではこれまでの評価を覆すことはできない。
筒香自身もマイナーでのリハビリ実戦前に「10試合。それぐらいが勝負になる」と話し、危機感があることを明かしている。

 著者は現地記者に、「もし筒香が不振から抜けられない場合、DFA(事実上の戦力外通告)を受けることはあるか?」と質問を投げたが、どの記者からも「可能性は低い」という返答があった。その理由について、『バックス・ダグアウト』のスルボドニック記者は「パイレーツはヨシにリハビリの期間を十分に与えています。もしDFAを検討していたなら、もっと前にそうしていたはずです」と分析し、しばらくはパイレーツでプレーすると予想。たしかに、パイレーツは筒香にかなりの時間を与えているため、この件はひとまず安心できそうだ。


 しかし、まったく危機がないわけではない。筒香が不在の間、パイレーツは1塁手にマイケル・チャビス、ダン・ボーゲルバック、ジョシュ・ヴァンミターなどを起用して"後釜"を探している。特にチャビスはこの期間で躍進し、現地メディアの間でも高く評価された。前出の『ラム・バンター』のリープ記者は「チャビスは強力な守備力があり、(バッティングでは)相手左腕を粉砕できる」と話し、『バックス・ダグアウト』のスルボドニック記者も「(いろいろな選手を起用したが)守備的には、チャビスが素晴らしかった。打撃にも光るものがある」と称賛する。

 さらに地元紙『ピッツバーグ・ポストガゼット』のジェイソン・マッキー記者も「チャビスは、パイレーツにとって最良の選択肢だった。

守備もうまく、打撃では左腕からかなり打っている」と話す。同記者は筒香のIL入りが発表された日に「筒香の代わりに誰が一塁手になるのか?」と題した記事を執筆し、その中でもチャビスを推していた。そして、どの記者も「復帰後の筒香が一塁手のレギュラーに座り続けることは難しい」と予想する。前述の通り、チャビスのほうが左腕に強いからだ。

 右打者のチャビスは対左投手に対し、87打席で25安打、スラッシュライン(打率/出塁率/長打率).287/.330/.540で、長打は2二塁打、1三塁打、6本塁打の成績を残している。一方、筒香の対左腕成績は、35打席で8安打、スラッシュラインは.229/.310/.343で、長打は1二塁打、1本塁打。この違いから、「今後は相手先発次第で両者が使い分けられる」と現地記者たちは予想する。実際、メジャー復帰初戦(5日)でも、8回にヤンキースの守護神の左腕アロルディス・チャップマンがマウンドに上がると、筒香の打席でチャビスが代打に送られている。まさに、パイレーツの方針がはっきりと出た場面だと言えよう。

貧打のパイレーツで存在感を示せるか

 それでも、筒香には十分にチャンスがある。パイレーツには打撃で筒香を脅かすような選手がいないからだ。前出の『ピッツバーグ・ポストガゼット』も、同じ記事の冒頭で「今季パイレーツの打撃陣が直面した事態はまったく笑えない」と嘆くほど、パイレーツは貧打に泣いている。

 著者は各記者に、「筒香がいない間、チーム打撃は改善したか?」とも質問したが、「まだ欠けている。いくつか本塁打を放っているが、全体的にはまだ十分ではない」(『ピッツバーグ・ポストガゼット』マッキー記者)、「ヨシが不在になる前と同じに見える。チームの打撃はまだ死んでいて、三振の多さにも悩まされている」(『バックス・ダグアウト』スルボドニック記者)と返答した。

 7月6日時点のパイレーツの打撃成績は、本塁打こそ88本とリーグ全体で14位タイだが、296得点と277打点はいずれも28位に沈んでいる。また、チーム平均の打率.222、出塁率.290、長打率.374、OPS.644もすべて28位で、ナ・リーグでは最下位と散々たるもの。もし、ここで筒香が打撃で貢献すれば、信頼を取り戻すことはできる。

 最後に筒香への期待を質問すると、「彼がチームの助けになれるか?彼が健康であれば、それはできるだろう」とマッキー記者。どの記者も「序盤の不振はケガによるもの」という認識があり、筒香への評価を一旦リセットさせている様子だった。

 一方で、「ヨシは何よりも、昨季の力を発揮する必要がある」と、昨年と同じ活躍を求めていることも明かした。筒香は、これから数試合の間に結果を出さなければならない。はたして自慢の打力は復活するだろうか。筒香の本当の勝負はここからだ。