Sportiva注目若手アスリート「2023年の顔」
第4回:菅沼菜々(ゴルフ)/インタビュー後編

女子ゴルフ・菅沼菜々、アイドル好きな素顔。自身も「注目される...の画像はこちら >>
2022年シーズンにブレイクした菅沼菜々。女子ゴルフ界に新たに登場したヒロインの素顔に迫る――。

――菅沼プロは、広場恐怖症と闘っていることを公表しており、強い不安に襲われる公共交通機関を利用した移動ができない、というハンデを背負ってツアーを戦っています。通常、女子ツアーの開幕戦は沖縄で開催されていますが、一年のスタートをきるトーナメントに出場できないことで、忸怩たる思いがあるのではないですか。

「もちろん、開幕戦に出られないのは悔しいです。飛行機も、船も、新幹線をはじめとする電車での移動も難しいので、北海道、沖縄で行なわれる数試合には出場できません。ただ、それはプロになる前からわかっていたことですから、自分のなかでは納得しています。

 それでも、病気のことを知ってもらえるようになって、沖縄や北海道での試合に出られない時は激励のメッセージをいただいたりして、元気をもらっています。

また、同じ病気で悩んでおられる方々からも『(私も)がんばります』といった声が届いたりして、自分ががんばることでそういった方々の励みになっているのであれば、うれしいし、『プロになってよかったな』と思います」

――常時車での移動となると、体への負担が大きいでしょうね。

「運転は父がしてくれますが、疲労はどうしても溜まります。でも、それはもう慣れましたね。ずっとやってきたことなので」

――移動用の車にはベッドなどを設置していたりするのでしょうか。

「一応、後部座席をベッドにしていますけど、道路交通法では車を走らせている時は(シートベルト着用義務があり)ベッドで寝ることは許されていないので、サービスエリアなどで車を停めている間だけ、ベッドで横になっています。あと、そういう時はストレッチをしたりして、体をほぐしています。

 ツアーで一番大変な移動は、伊藤園レディスが行なわれる千葉から大王製紙エリエールレディスが開催される愛媛への移動ですね。先シーズンは、試合が終わった日曜日に静岡県の掛川まで父が運転して、翌朝、母が掛川まで新幹線で来てくれて、母の運転で松山まで向かいました。両親には本当に感謝です」

――菅沼プロにとって、ご自身が抱えている病気はツアーを戦ううえでかなりのハンデとなっていますか。

「出られない試合もありますけど、それは予選落ちと一緒と言えば、一緒じゃないですか。いい意味で、前向きに諦めています。出られる試合でベストを尽くす。

そう割り切るしかないと思っています。

 むしろ、無理して飛行機や新幹線に乗って試合に出ても、体調を悪くしたら元も子もないですから。その後の試合にも影響しますし」

――ところで、菅沼プロがゴルフを始めたきっかけは、お父さまの影響ですよね。

「はい。5歳の時でした。クラブに(ボールが)うまく当たった時、気持ちよく飛んでいったのが楽しかったと思うんですが、あまり覚えていないんですよね(笑)」

――そこから「プロになる」と決意したタイミングはいつ頃だったのでしょうか。

「私、プロ志向はぜんぜんなくて。(ゴルフの強豪)埼玉栄高校に進学したのも、プロになりたいから選んだわけではなかった。高校3年生の時に日本ジュニアで優勝した時でさえも、大学進学を考えていたぐらいですから。

 それが、優勝できた流れで翌年のプロテストに臨んだら、一発で合格して。プロゴルファーの大変さをあまり知らないまま、いつの間にかプロになっていて。そのままQTを通過して、気づいたら試合に出ていた(笑)。

こんなに試合数があることもわかっていませんでした」

――「親子鷹」というと、お父さんが娘に厳しく接するケースがあったりしますが、菅沼プロの場合はいかがですか。

「スパルタとは真逆の、ユルユルでした(笑)。私は、叱られて伸びるタイプじゃないことを父もわかっていたのではないでしょうか。練習も『やめたい』と言えば、やめさせてくれるし、『もっと練習しろ』と言われることもありませんでした」

――菅沼プロがゴルフに専念できるような雰囲気作り、環境作りを、お父さまがなさってこられたのでしょうか。

「その表現が最も的確かもしれません」

――ツアー中は、お父さまが毎試合帯同されているのですか。

「はい。

現在はキャディーをしていないので、試合中に話をすることはありませんが、朝の練習やラウンド後の練習の際には、ちょっとしたアドバイスをもらいます。自分では気づいていない、ちょっとしたズレにも気づいてくれる。修正点の指摘も的確です。

 ずっと一緒にいたら窮屈に思うこともあるかもしれませんが、ホテルの部屋は別だし、夕食も別にとることが多いですね。適度な距離感を保っているというか、(父が)いい距離感でいてくれるので、うまくいっているのかもしれません」

――菅沼プロは以前、JLPGA(日本女子プロゴルフ協会)の公式インスタグラムで、プロゴルファー以外になってみたい職業として「アイドル」と公言し、大きな反響がありました。

「ごめんなさい! そんなこと言っちゃって(苦笑)」

――ご自身の性格を「ぶりっこ」だと自ら言うのも珍しいケースだなと思いました。

「へへへ(笑)。素はぶりっこじゃないかもしれないですよ、作っているので(笑)」

――「作っている」というのは、菅沼プロなりのアイドル像を演じている、ということでしょうか。

「はい(笑)。私自身、舞台などでキラキラしているアイドルが好きなんです。乃木坂46が好きで、ツアーの合間やオフにはライブにも足を運んでいます。そういう憧れもあってか、"作っている"部分もあるかもしれません(笑)。

 そんなアイドルと同じように、プロゴルファーも優勝争いに絡んだりすれば、カメラマンさんやギャラリーの方も集まってきて、自分のことを見て、声援を送ってくれる人が増える。そうやって注目されることで、私はまた、力を出すことができます」

――まさに芝生の上のアイドルを、自ら演じている側面もあるのでしょうか。

「つまらないボギーを叩いてしまった時も、ファンの方の声援にはきちんと笑顔で応えるようにしています......というか、してはいるんですけど、本当につまらないミスをした時は、内面ではイライラして大変なことになっています(苦笑)。

 でも、ギャラリーの方も"推しメン"を見ているわけだから、推しが怒っている姿なんて見たくないと思うんですよ。だから、なるべく次の一打までにイライラを収めようとは努力しています」

――オフの日は何をしていることが多いですか。

「買い物に行くのは好きです。あっ、それと物件を見るのが好きです」

――物件? ですか。

「マンションとか、一戸建てとか、住宅展示場を見て歩くのが好きなんです。雑誌などで、マンションの間取りを眺めて過ごすのも好き。部屋の広さの単位とかは詳しくないんですけど、いろいろな間取りを見ながら、たまに『将来はこんな家に住みたいな』とか考えたりして。それが、いい気分転換になっているかもしれません」

――現在のツアーでは、菅沼プロよりも若い選手たちが続々とデビューし、勝利を挙げています。ご自身の立ち位置をどう考えていますか。

「まだまだ私だって、若いですよ!(笑)。でもほんと、自分の年齢はあまり気にしていません。初優勝まで時間がかかった選手でも、強い選手はたくさんいます。だから、早く勝ちたいからといって、焦りはあまりないんです」

――同い年の稲見萌寧プロは、ライバルといった存在ですか。

「私のことをイジってくれる存在です(笑)。『またぶりっこしてるよ』みたいなことを言って。でも、萌寧ちゃんも意外とぶりっこなんですよ。一緒に(手で)ハート作ったりしますから。そんな萌寧ちゃんは、ライバルではないかな。私のなかでライバルというような存在は作らないようにしています」

――2022年シーズン、大いなる飛躍を果たした菅沼プロ。2023年シーズンには、ツアーの「顔」としての活躍が期待されます。

「優勝はしたいですけど、まずは常に上位で戦っていたい。目標としては、2022年シーズンのメルセデス・ランキング(8位)よりも上を目指したい。そう思っています」

(おわり)

菅沼菜々(すがぬま・なな)
2000年2月10日生まれ。東京都出身。身長158㎝。血液型AB。あいおいニッセイ同和損保所属。埼玉栄高卒業後、2018年にプロテスト合格。2022年シーズンは、多くの試合で上位争いを演じてメルセデス・ランキング8位とブレイクした。2023年シーズンでは、より一層の活躍が期待される。