近藤一樹インタビュー 前編

自らの去就について

「ヤクルトから戦力外通告を受けた時点で現役ではない」 201...の画像はこちら >>

オリックスでは先発、ヤクルトでは中継ぎとしてプレー。昨年12月、独立リーグ香川からの退団を発表した

【「現役を続けていこうという気持ちはあんまりないです」】

 2004年の近鉄バファローズ消滅時に所属した選手たちで構成されるLINEグループがある。昨年オフ、近藤一樹はかつてのチームメイトに向けて、自らの去就についてこんな投稿をした。



「このたび、香川オリーブガイナーズを辞めました。今後は何も決まっていません」

 これを受けて、昔の仲間たちからは「お疲れさま」「ご苦労さま」「ゆっくり休んでください」と返信がきた。決して「現役を引退します」とは書いていなかったけれど、仲間たちからのメッセージは「引退」を前提にした温かい言葉であふれていた。

(あぁ、みんなは「引退」だと捉えているんだな......)

 特に否定はしなかった。「みんながそう思うのならば、それでもいいや」。近藤の胸の内にはそんな思いがあったからだ。
同時に、自分でも現役続行に対する思いが少しずつ薄れていくことを感じていた。それから数カ月が経過した今、本人が静かに口を開いた。

「今も身体は動かしているけど、ボールを使った練習はほとんどしていません。正直に言うと、現役を続けていこうという気持ちはあんまり残っていないです。もちろん、NPBから『どうなんだ?』という獲得の意思があれば気持ちも変わるかもしれないけど、オープン戦が始まったこの段階ではそれも難しいと思うので、選手としては『僕はもう無理かな』っていう感じですね」

 昨年オフの段階で、「今後の去就は未定」と報じられていた。心のなかでは「まだまだできるはずだ」と考えながらも、「このまま独立リーグでプレーしていても、何も変わらないだろう」という思いもあった。
だからこそ、2年間所属した香川オリーブガイナーズを去ることを決めた。

「結果的に香川には2年間いました。でも、独立リーグならば、今の僕のレベルでも抑えることができる(2022年シーズン2勝6セーブ防御率0.00)。それぐらいの差は感じるんですけど、そういうところでもう1年現役を続けることに意味があるのかどうかと考えました。この間、上(NPB)からのオファーもないということは、それだけの評価なんだと思います。(39歳と)年齢的なこともあるし、やっぱりいろいろ考えないといけないのかなと思って決断しました」

 決断から2カ月以上が経過した。
彼は今、どんな思いを抱えているのだろうか?

【どこからもオファーがないこと、それが現実】

 近藤の口調は淡々としていて、冒頭で紹介したように、「どうしても現役続行を」というギラギラした思いは感じられない。どこか達観したような口調で、率直な思いを口にしている姿が印象的だった。では、現役続行は半ば断念しているにもかかわらず、自らの去就について積極的に発言しようとしないのはどうしてなのか。

「僕が、現役を続けるとか、もう引退するとか、それをわざわざ宣言する必要ってないと思いませんか?」

 本人による「現役続行宣言」があれば、戦力補強を考えている球団にとっては、獲得に向けての調査対象となるだろう。「引退宣言」があれば、指導者や評論家としての新たな分野でのオファーもあることだろう。そして、彼の雄姿に声援を送っていたファンとしては、「近藤選手の今後はどうなるのだろう?」とヤキモキしているに違いない。いずれにしても、「去就を表明すること」には何らかの意味があるのではないだろうか。



「なるほど、確かにそうかもしれないですね。僕も、『絶対に宣言しない』と決めているわけではないんです。ただ、『わざわざ表明する必要はないだろう』という思いは持っています。だって、僕は2020年オフにヤクルトから戦力外通告を受けているわけです。戦力外になった時点で、それはほとんど"引退"ということだと思うんです......」

 そして、近藤は意外なことを口にした。

「......たとえば、何も結果を残せずに高卒5年目で戦力外通告された選手は、わざわざ引退宣言なんてしないじゃないですか」

【「戦力外通告」の時点で、すでに「引退」だった】

 確かに彼の言うように、プロの世界で何も結果を残せなかった選手がわざわざ「引退宣言」をすることはないだろう。

しかし近藤は、今は存在しない近鉄バファローズに入団し、オリックス、ヤクルトと19年間のプロ生活をまっとうした。2018年には74試合に登板するなど獅子奮迅の大活躍を見せ、最優秀中継ぎ投手のタイトルまで獲得している。決して「何も結果を残せなかった選手」ではない。

「そう言ってもらえるのはありがたいですけど、たとえば引退セレモニーをやる選手は限られた人だけでいいと思うんです。でも、今はみんながみんなセレモニーをやっているじゃないですか。僕は、そういう場所にはあまり魅力を感じないですね。
引退を宣言することとセレモニーは、また違うかもしれないですけど......」

 2020年シーズンオフ、近藤はヤクルトから戦力外通告を受けた。望むと望まざるとにかかわらず、彼のなかではこの時点ですでに「引退」だったのだという。しかし、「まだ自分はプレーできる」という思いがあったからこそ、独立リーグで実戦感覚をキープしながら、くるべきオファーを待ち続けていたのだ。近藤は言う。

「正直、『独立リーグでプレーをすることが、本当に現役と言えるのだろうか?』と思っています。自分は独立リーグに所属したけれど、もし僕が第三者の立場だったとしたら、独立リーグでプレーすることを『現役だ』とは認めないと思うんです。僕はたまたま独立に所属していたから、独立リーガーとして現役で生きているみたいに思われているけど、ヤクルトから戦力外通告を受けた時点で、すでに僕は現役ではないんです」

 もちろん、NPBとは異なる別組織ではあるけれど、独立リーグもまた「プロ野球」である。しかし、近藤のなかでは「アルバイトをしなければ成立しない世界は本当のプロ野球ではない」という思いがある。

「独立リーグでプレーをしている間は、あくまでも現役を続けるための模索期間でした。僕の考えでは、NPBからのオファーがあって初めて『現役続行』と言えるんだと思っています。でも、オファーはこなかった。ということは、そのまま『引退』ということなんだと思っています。それをわざわざ宣言する必要もないんじゃないですかね......」

 その言葉を静かに噛み締める。しばしの沈黙を経て、近藤は最後に言った。

「別に、『絶対に宣言しないぞ』と決めているわけではないんです。そもそも、自分では『すでに現役ではない』と思っていたから口にしなかっただけで、その後もわざわざそれを口にするタイミングがなかっただけです。何となく、『いつ辞めても、いつやってもいいや』みたいな感覚になっちゃっていたので、だったら別に『わざわざ言わなくていいのかな?』みたいな思いでした。でも、全然言っても問題ないです、僕は」

 現在は、香川時代に出会った知人の紹介で子どもたちの指導もしている。近々、学生野球資格回復研修制度も受講する。今後については「何も決まってないので未定です」と語るが、第二の人生も野球とともに歩み続けることになりそうだ。もうすぐ不惑を迎える近藤一樹の第二章が、これから始まろうとしている――。

(インタビュー後編:勇退する恩師を語る 日大三高・小倉全由監督はセンバツで負けた日に「お前らなら全国でトップになれる」>>)