中村憲剛×佐藤寿人
第14回「日本サッカー向上委員会」前編

 1980年生まれの中村憲剛と、1982年生まれの佐藤寿人。2020年シーズンかぎりでユニフォームを脱いだふたりのレジェンドは、現役時代から仲がいい。

気の置けない関係だから、彼らが交わすトークは本音ばかりだ。

 ならば、ふたりに日本サッカーについて語り合ってもらえれば、もっといい未来が見えてくるのではないか。飾らない言葉が飛び交う「日本サッカー向上委員会」──第14回は開幕した「Jリーグ2023」の注目ポイントと、新たなスタートを切る「森保ジャパン」について語り合う。

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中村憲剛と佐藤寿人がJリーグ序盤戦を斬る…好調ヴィッセルは「...の画像はこちら >>

一時帰国していたイニエスタがようやく神戸に合流

── 2023年最初の「日本サッカー向上委員会」開催になります。3年目となる今年も忌憚のない意見を期待しております。

 まずは、すでに開幕した2023シーズンのJリーグについてお話を聞かせてください。

3節まで終了しましたが(取材日=3月7日)、ここまでの各チームの印象をどう感じていますか?

寿人 いろんなチームの色が出ていますね。面白いのは、新潟かな。

憲剛 面白いね。特に伊藤涼太郎が面白い。

寿人 彼は作陽高出身なんですよ。それで僕が広島にいる時に、練習生として来てたんです。

その時はそんなに印象はなかったですし、浦和(2016年~2021年)でもなかなか試合に出られなかったですよね。その選手が今、新潟の攻撃を牽引するまでに成長を遂げたのは、すばらしいことですよ。

── アルビレックス新潟のサッカー自体はどう見ていますか。

寿人 ちょっとミシャ(ミハイロ・ペトロヴィッチ監督/現・北海道コンサドーレ札幌監督)のエッセンスを感じるというか。形は1トップ2シャドーではないですけど、くさびを入れて、コンビネーションで崩していくところが似ているなと。

 ただ、前に出ていく推進力は、ミシャのサッカーとは違っていて。

三戸(舜介)と太田(修介)の両翼が速いので、基本的にはつなぐサッカーですけど、前から来られたら飛ばすこともできる。そのバランスがいいと思います。

憲剛 去年、J2で多くの勝ちを経験して優勝していることが大きいと思います。スタイルも確立されているし、メンバーもほとんど抜けていない。そういう意味では、シーズン序盤に旋風を巻き起こす要素が備わっていますよね。

 逆に言うと、昇格組はそれがないと次第に難しくなる。

ここから研究されてくるはずだから。このままの勢いで前半戦を駆け抜けられれば、後半戦はその貯金で戦うことができるので、夏くらいまでの戦いがポイントになってくるのかなと。

 でも、やっぱり去年、自分たちのスタイルを貫いて勝ち上がってきたので、J1でもスタイルに自信を持ってプレーしているなと感じますよ。

寿人 たしかに、カテゴリーが違っても成功体験は大きいですよね。前線にもいい選手がいますし。鈴木(孝司)はボールが収まるし、谷口(海斗)も無理が効く選手なので。

憲剛 松橋(力蔵/2022年~新潟監督)さんはマリノスでやっていたから、そのエッセンスをちょっと感じますよね。ボールをしっかりとつなぎながら、「前へ」アタックする。前任者のアルベル監督(現・FC東京監督)がベースを築いたと言われていますけど、松橋さんの独自カラーはしっかりと出ているかなと。

── ヴィッセル神戸が開幕3連勝と、最高のスタートを切りましたね。

寿人 みんな、いいキャリアの時期を迎えていますからね。大迫(勇也)、(山口)蛍、(酒井)高徳、武藤(嘉紀)と主力が30代前半になって、今までの経験値がものを言う「一番いい時期」に来ていると思うんです。

 僕は31歳でMVPと得点王を獲って、憲剛くんも36歳でMVPを獲りましたから。30歳を過ぎても十分にいい時期は作れると思うので、それを考えた時、今の神戸のタレントはピークに来ているのかなと。

憲剛 もともと能力の高い選手は多いし、コレクティブにできていますからね。力はあるので、息切れせずにどこまで走れるかが、ポイントになると思います。

寿人 武藤がいると、守備のスイッチがしっかりと入るんですよね。ただ、ケガとかで武藤が出られなくなると、チームの強度が下がる可能性もある。

 あとは、イニエスタが帰ってきたらどうなるか。どうしても守備の強度は落ちてしまいますからね。ただ、そこをうまく担保できれば、このまま走る可能性もあると見ています。

── 湘南ベルマーレもいい形でスタートしています。

寿人 大橋(祐紀)と町野(修斗)の2トップですね。

憲剛 あと、小野瀬(康介)がいい。何でガンバは出してしまったのというくらい。

寿人 小野瀬自身も驚いたでしょうね。あれだけハードワークができて、ボールも扱えて、ミドルレンジからフィニッシュもできる選手ですから。

憲剛 アウトサイドのイメージが強いですけど、今はインサイドでフィットしている。彼がグッと攻守でスイッチを入れられるから、湘南の攻撃はうまく回っていると感じますね。(山口)智さん(2021年~湘南監督)は3年目になるよね?

寿人 そうです。これまでの積み上げがあるから、これまで以上に結果を出しやすいシーズンになるんじゃないでしょうか。

── 一方で昨年、上位にいたサンフレッチェ広島セレッソ大阪が開幕3戦未勝利と、苦しんでいる印象です。

憲剛 古巣はどうですか?

寿人 広島はそんなに悪くないですよ。セレッソのほうが心配ですね。今年は特に攻撃陣に手を加えましたけど、新戦力がまだフィットしきれていない。

 キヨ(清武弘嗣)が離脱したのも痛手ですよね。香川(真司/シント・トロイデン→)も含め、昨年のベースとはまた違った人材を組み合わせるなかで、まだチームが構築されていない印象です。

憲剛 昨年結果を残すと、今年もいいと思われがちだけど、実際は一度シーズンが終わっているわけだし、選手もスタッフも入れ替わる。昨年とまったく同じチームにはならないですし、そのうえ昨年、結果を出したことでマークもかなりされる。

 選手も人間ですから、常にいい調子でいられるわけでもないので、意外と最初につまずくことはあるんですよ。いいイメージで臨んでも微妙に感覚のズレがあったり、前年度の成績から期待値も含めハードルが上がっているので、特段悪くないのに「どうした?」って言われてしまう。

 それは可哀そうだし、現役時代に僕も感じていたこと。期待される年ほど、最初はきついんですよ。でも、それを跳ね返して結果を残すことも、またプロの務めとも言えますが。

寿人 選手が入れ替わるのは当然ですけど、個人的には真ん中のところはあんまりいじってほしくないと思っていて。そこが代わると、けっこう時間がかかる。セレッソはそこを代えてきているので、現状はうまくいっていないと感じますね。

憲剛 ただ、成功体験があるので、昨年みたいな状態に戻るのは意外と早いと思う。もちろん対策もされるでしょうけど、それを乗り越えると自分たちの形ができてきて、一気に上がっていくと思いますよ。

 もちろん、あまりにも結果が出ないと「あれ? 何かおかしいぞ」という不安も出てくるでしょうから、早い段階で結果はほしいとは思います。

── おふたりの同年代である岩政大樹監督率いる鹿島アントラーズはどうでしょう?

寿人 ボールを持ちたい、主導権を握りたい、というサッカーを目指しているとは思いますけど、実際はそこまでいっていないですよね。それでもポイントを積み上げているので、悪くはないと思います。ただ、フロンターレ戦(第2節/試合終了直前に2点を奪われて逆転負け)の最後がね。

憲剛 あそこは、苦手意識が出ちゃった感じ。フロンターレは鬼木(達)さんになってから、一度も鹿島に負けてないから。

寿人 ちょっと立場が逆転した感じですよね。昔は鹿島が勝負強くて、内容が悪くても勝ちきるチームでしたから。

憲剛 岩政監督のサッカーは、わかりやすく何をしたいかをあえて見せてないと思っています。攻守でいろんなことができるようにしたいんだろうなと。

 監督が提示しているものを選手も理解することができれば、チームとしてグッと上がっていきそうな気がします。タレントも十分揃っていますから。知念(慶/川崎→)も取って藤井(智也/広島→)も取って。あと佐野(海舟/FC町田ゼルビア→)がいい。

寿人 佐野はいいですね。

憲剛 J2からの移籍ですから、こういう形での活躍は、今J2にいる選手たちのモチベーションは上がりますよね。正しく分析して適所に配置すれば、J2の選手でも十分やれるというモデルケースになると思います。

鹿島もここからじゃないですか。勝ち星を拾いながら、岩政監督のやりたいことを体現できるタレントはいますから。監督自身も『新しい鹿島を作る』と言っているので、どうやって作り上げていくかに注目したいですね。

◆第14回・中編>>本音のJ1談義「宇佐美のインサイドもったいない」


【profile】
中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年10月31日生まれ、東京都小平市出身。久留米高校から中央大学に進学し、2003年にテスト生として参加していた川崎フロンターレに加入。2020年に現役を引退するまで移籍することなく18年間チームひと筋でプレーし、川崎に3度のJ1優勝(2017年、2018年、2020年)をもたらすなど黄金時代を築く。2016年にはJリーグMVPを受賞。日本代表・通算68試合6得点。ポジション=MF。身長175cm、体重65kg。

佐藤寿人(さとう・ひさと)
1982年3月12日生まれ、埼玉県春日部市出身。兄・勇人とそろってジェフユナイテッド市原(現・千葉)ジュニアユースに入団し、ユースを経て2000年にトップ昇格。その後、セレッソ大阪→ベガルタ仙台でプレーし、2005年から12年間サンフレッチェ広島に在籍。2012年にはJリーグMVPに輝く。2017年に名古屋グランパス、2019年に古巣のジェフ千葉に移籍し、2020年に現役を引退。Jリーグ通算220得点は歴代1位。日本代表・通算31試合4得点。ポジション=FW。身長170cm、体重71kg。