風間八宏のサッカー深堀りSTYLE
独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、今季の欧州サッカーシーンで注目の選手やチームを分析する。今回は、今季公式戦無敗記録を継続中で話題沸騰のドイツのレバークーゼン。
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【ボールを受けることの連続性が特徴】
現在ヨーロッパで最も注目を浴びているチームが、ドイツ・ブンデスリーガで無敗優勝の偉業を成し遂げたレバークーゼンだ。
目下、公式戦46試合38勝8分(5月1日時点)で、公式戦の無敗記録としてはヨーロッパ5大リーグの史上最高記録を更新中。今シーズン開幕前から期待値の高いチームのひとつではあったが、これほどの無敵ぶりを発揮すると予想した人はいなかったのではないか。一体、レバークーゼンの何がすごいのか。ブンデスリーガやヨーロッパリーグで強豪チームとも対戦しながら、なぜ無敗の快進撃を続けることができるのか。
そのなかで、風間氏が最初に指摘してくれたのが、レバークーゼンのサッカーの柱となっている"原理原則"だった。
「強さの理由をひと言で表現するなら、チーム全体としてボールを"受ける"技術が高いということです。
ここで言う"受ける"の定義とは、ボールを持っている選手と受ける選手の間に誰も入れない、ということ。現在のレバークーゼンは、選手全員がそれを理解し、試合のなかで実行している。しかも、それを連続してできるのが強みと言えるでしょう。
たとえば、中盤の選手は相手の中盤の選手の前ではなく、後ろ側でボールを受けるためのポジションをとる。最前線の選手は、相手のDFラインの間で前向きで受けようとする。そうやって複数の選手がボールと自分を結ぶ線を作り続けることで、前方向に複数のパスコースを作る。レバークーゼンの試合を見ていると、攻撃が機能している時はおおよそ3本以上のパスコースを作り続けています。
だから、試合中に止まっている選手はほとんどいません。パスしたら、次の瞬間に自分が受け直す場所に移動する。
つまり、ボールを受けることの連続性こそが最大の特徴であり、強さの秘訣だと思います。その原理原則の徹底ぶりや浸透度は、特別なものがあります」
【攻撃し続ければ失点も少ない】
確かにレバークーゼンの試合を見ると、選手たちが流動的に動き続けることもあり、フォーメーションを判別するのに時間がかかる。一応、基本フォーメーションは3-4―2-1とされるが、4バックを採用する場合も含め、試合中はその数字どおりの位置に選手がいない時間が長い。それは、風間氏が説明してくれたように、選手たちが原理原則に沿ってボールを受けるための場所に移動し続けるからなのだろう。
「もちろん、各選手には与えられた基本ポジションはあると思いますが、それでサッカーをしているわけではなくて、ボールと自分の間に誰も入れず、その状況を連続させるという原理原則で成立しているサッカーです。
だから、サイドは少し固定されている感はありますが、それ以外の選手はボールを受ける場所がポジション、と表現するとわかりやすいかもしれません。要するに、局面局面で誰がいちばんよいポジションをとるか。それが目まぐるしく変化するので、単純に数字だけで説明するのが難しいサッカーです」
そんな特殊なスタイルのサッカーを披露するレバークーゼンだが、無敗を続ける要因のひとつとなっているのが、失点の少なさだ。流動的に選手が動けば、守備時に穴が開いて失点も増えそうだが、なぜレバークーゼンは高い守備力を誇っているのか。
「それは、攻撃し続けるからです。
当たり前の話ではありますが、実際にそれができるチームはほとんど存在しないというのが現実です。それを考えると、ものすごいチームが現れたなという印象ですね」
【シャビ・アロンソ監督には"伝える力"がある】
このサッカーを構築したのは、元スペイン代表の名ピボーテだったシャビ・アロンソ監督(42歳)だ。現役引退後、古巣レアル・マドリードの育成年代を指導したあと、自身が育ったレアル・ソシエダのBチームの監督に。
風間氏は、シャビ・アロンソ監督の手腕をどのように見ているのか。
「結局、このようなサッカーを実行するためには、選手たちにそれを理解させ、実行させるための能力、つまり伝える力がないとできません。そういう意味で、シャビ・アロンソは考え方だけでなく、その伝え方にも非凡なものがあると思います。
しかも、これだけ短期間でひとつの新しいサッカーを完成させた。チーム内でこれだけ多くの選手にそれを実行させるところまで作り上げたことも含め、シャビ・アロンソは新しいサッカーを作っていく監督だと思います。
作り手となれる監督は意外と少ないので、今後も楽しみな指導者ですね」
はたして、レバークーゼンとシャビ・アロンソ監督の快進撃はどこまで続くのか。三冠の行方はもちろん、その革新的サッカーの今後の進化についても、さらに注目が集まりそうだ。