因縁の再戦が間近に迫っている。

 昨年12月、WBA世界スーパーフライ級王者のジョシュア・フランコ(アメリカ)とWBO同級王者だった井岡一翔(志成)は、2団体統一戦で拳を交えた。

しかし、引き分けで決着はつかなかった。

 その際の判定はフランコの1-0(115-113, 114-114が2人)。ファンの間でも「手数のフランコ」か「的確さの井岡」かで意見が分かれ、海外では「フランコに分があった」という見方も少なくなかった。

 この因縁に終止符を打つため、井岡はWBO1位の中谷潤人(MT)との指名戦を受けず、6度防衛したWBO王座を返上。6月24日の東京・大田区総合体育館で、挑戦者という形でフランコと再戦することを選択した。

 試合直前、フルトンとの第1戦のドーピング検査で、井岡から大麻成分が検出されたことが発表され物議を醸した。
前日計量ではフランコが3.1キロオーバーとなり、再計量を待っている状態だ。さまざまな波乱含みの一戦はどんな展開、結果になるのか。3人の米メディア関係者に6つの質問をぶつけ、ダイレクトリマッチの行方を占ってみた。

井岡一翔vsフランコ「因縁の再戦」を3人の米識者が予想。より...の画像はこちら >>

第1戦は微妙な判定で引き分けとなった井岡(左)とフランコ

【パネリスト】

●スティーブ・キム(元『ESPN.com』のメインライター。韓国系アメリカ人。業界内に幅広い人脈を持つ。

Twitter : @SteveKim323)

●ショーン・ジッテル(米専門メディア『FightHype.com』のレポーター。ラスベガス在住。全米を飛び回って取材し、著名選手からも信頼を得る。Twitter : @Sean_Zittel)

●エイブラハム・ゴンサレス(『NYFights.com』のエディター。ニューヨーク出身、ノースカロライナ在住 Twitter : @abeG718)

Q1.まず、フランコvs井岡の第1戦をどう見たか。

キム : フランコの手数と粘り強さが際立った戦いだった。
フランコはよく動き、積極的に攻め、多くのパンチを出していた。より精力的で、敵地での試合を制するという決意が感じられた。

ジッテル : 両選手がハイレベルの力を示し、非常に見応えのある接戦になった。メキシコ人(フランコはメキシコ系アメリカ人)と日本人のマッチアップはスタイル的に噛み合い、好試合が多いことは証明されているだけに、この2人の対戦がそうなったことも驚きではなかった。

 来月の井上尚弥(大橋)対スティーブン・フルトン(アメリカ)戦は"高速のチェスマッチ"と呼ばれるべき頭脳戦になると予想しているが、井岡vsフランコ戦はより攻撃的な戦いだった。判定は10回までほぼイーブン。
11、12回を力強く締めくくったフランコが上回ったと見た。酷い判定ではなかったが、個人的には「フランコが勝った」と思った。

ゴンサレス : 第1戦は、キャリア的に異なる地点にいる2人によるハイレベルな激突だった。フランコはフィジカル面でピークに近づいている。一方の井岡は全盛期を過ぎているかもしれないが、エリートレベルの選手に勝てるだけの力を保っていた。両選手が見せ場を作ったが、よりクリーンなパンチを当て、成功を収めたのはフランコに見えた。
際どい判定ではあったが、フランコの手が上がるべきだったと思う。

Q2.井岡が自身の持っていた世界タイトルを返上してまで、フランコとの再戦にこだわったことは驚いたか。

キム :とくに驚きはしなかった。第1戦は好試合でもあったから、即座のリマッチが組まれても問題ないと思う。

ジッテル : 指名挑戦者がスーパーフライ級で最も危険で、すでに階級最高の選手かもしれない中谷だったのであれば、タイトル返上は驚きではない。中谷は井岡を身長、若さで大きく上回っている。

井岡にとっては危険かつ困難な対戦であり、実現していたら、私は中谷が断然優位と予想するだろう。

 フランコが相手なら、井岡の勝機は大きくなる。第1戦が好ファイトだったため、再戦を求める声も多い。だとすれば、ダイレクトリマッチに向かうという選択は賢明だった。井岡がフランコとの再戦に勝ち、その後に中谷戦を組めば、日本人同士の統一戦はより大きなファイトになる。

ゴンサレス : 指名戦をこなすのではなく、タイトルを返上してまでフランコとの再戦に向かったことに当初は驚かされた。ただ、(驚く前に)その指名挑戦者が誰であったかを考慮しなければならなかった。中谷は大変な強者だけに、井岡はより与し易いフランコ戦に向かったのだろう。

Q3.井岡が再戦を制するためにやるべきことは?

キム : 序盤はよりアグレッシブに戦い、フランコのテンポ、ペースに対抗すること。井岡のほうがよりシャープなパンチャーだが、また手数で負け、ポイントを失うリスクを犯すべきではない。

ジッテル : 第1戦での井岡はいくつかのラウンドではよく戦えたが、十分ではなかった。どんなに打ち込んでも効かせるパンチには至らず、相手の勢いを止められなかった。再戦ではより俊敏なフットワークとハンドスピードを生かし、アウトボクシングを試みるべきだ。

 日本の他の"戦士"たちと同様、井岡も打ち合いを好むが、今戦ではより賢明に戦い、戦術面で優位に立って、コンビネーションを繰り出す機会を伺うのがいいだろう。連打の合間に的確なカウンターを打ち込むのも重要だし、ジャブも忘れてはいけない。

 ディフェンス面でもよりスマートに、これまで以上に動くのもいい。年齢では7歳も上であることをアドバンテージにし、激しく打ち合うよりも、より聡明に戦えた時に井岡の勝利が見えてくる。

ゴンサレス : 激闘のダイレクトリマッチを井岡が制するには、まずはフランコのリズムを崩すことが重要になる。接戦に持ち込めば勝機が見えてくるだろう。

Q4.逆に、フランコが勝つためにやるべきことは?

キム : 第1戦と同じく積極性を保ちつつ、状況によってシンプルに正確なパンチを打ちこめば優位に戦える。疑問なのは、初戦であれだけ自身を燃焼させたフランコが、再戦で同じことを繰り返す力が残っているかどうかだ。

ジッテル : 前戦のフランコは顔面を狙いすぎた感があったが、今回はボディブローを増やすのがいいだろう。井岡は顔面へのパンチを払うのがうまいが、ボディは空いている時間帯が見受けられた。メキシカン特有の左ボディを打ち込むことが、リマッチで"違い"を生み出すかもしれない。

 下の階級から上がってきた井岡と比べ、フランコの体はより大きく、若い。基本的に第1戦と同じように戦い、効果的なボディ打ちを加えれば、より支配的に戦える。その場合には明白な判定勝利が視界に入り、終盤のストップ勝ちも不可能ではない。

ゴンサレス : フランコは井岡にプレッシャーをかけ続け、相手の体重を後ろにかけさせることがポイントになる。第1戦でも、トレーナーのロベルト・ガルシア氏が「攻勢を続けろ」と指示するのが聞き取れた。それによって、井岡はカウンターを放つのが難しくなるはずだ。

Q5.試合の勝敗予想は?

キム : 第1戦から向上の余地があるとすれば、井岡のほうだと思う。激しい戦いの末、井岡が判定勝ちすると見る。

ジッテル : フランコが優位だと思う。リマッチで適切な対応ができるのは、だいたい若い選手のほうだ。第1戦をあらためて振り返っても、より大きく力強いフランコに対して、井岡はダメージを与えることができなかった。ハンドスピード、ハートの強さを持ち、もともとの適応力にも秀でた井岡が勝利の術を見つけるかもしれないが、やはり第1戦と同じく、フランコにやや分があると考えている。

ゴンサレス : 初戦とほぼ似たような流れになると予想する。その結果、フランコが勝利を手にし、防衛に成功するだろう。

Q6.今戦の勝者には、今後誰と戦ってほしいか。

キム : WBC王者のファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)は高く評価されている。統一戦となれば、エストラーダにとっても今回の勝者にとっても魅力的な選択肢になるだろうし、その対戦は興味深い。

ジッテル : どちらが勝っても、スーパーフライ級で最もエキサイティングな中谷と戦ってほしい。とくに井岡vs中谷の統一戦は、日本で"ビッグマネーファイト"になるはず。井岡にとってもリスクを犯す価値はあるはずだ。ただ、現時点でこの階級の「真の王者」と認識されているのはエストラーダ。ほぼ同じサイズ、同じ30代のエストラーダは井岡にとっても筋が通る相手と言える。

 一方で、メキシコ系アメリカ人のフランコが、メキシコの英雄であるエストラーダと統一戦を行なう場合、(メキシコと隣接する)テキサスで試合開催となったら、大観衆を集めるビッグイベントになるだろう。結論を言うと、個人的には今戦の勝者と中谷の絡みが見たいが、それぞれのマネージャーはエストラーダ戦を目指すのではないか。

ゴンサレス : どちらが勝ち残ろうと、次戦はエストラーダを標的にすべきだ。現時点では、中谷には近寄らないほうがいい。