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トップレーサーのひとり、柳原真緒 2022年のガールズ最優秀選手賞も受賞した

矜持と情熱
~ミラクルボディを持つガールズたちの深層~
柳原真緒 インタビュー

【陸上の投てきから競輪へ転向】

 2022年の柳原真緒はまさにブレイクと呼ぶに相応しい活躍を見せた。

 早くからその才能を見込まれていた逸材が、特別レースのひとつである「ガールズケイリンコレクション2022いわき平ステージ」で優勝し、初のビッグタイトルを獲得。さらにガールズケイリン最高峰のレース、「ガールズグランプリ2022」で初出場、初優勝を飾った。

これらの実績が評価され、2022年ガールズ最優秀選手賞も受賞。秘めた能力を一気に開花させ、トップ選手の仲間入りを果たした。

「2年ほど前からトップに近づけている感覚はありましたが、そこから上になかなかいけずにいたんです。2022年に突き抜けられた要因はメンタル。自分のなかで勝てるメンタルの作り方をずっと模索していて、それがわかってきた感じがあります。今はビッグレースのほうが得意になりました」

 そう語る26歳の表情には女王としての貫禄も漂うようになった。

 スポーツの世界で生きていきたい。

 子どもの頃からずっとその思いを抱き続けてきたと柳原は言う。小学校ではソフトボールに取り組み、上野由岐子(北京・東京五輪金メダリスト、ビックカメラ高崎所属)のようにオリンピックで活躍することを夢見た。進んだ中学校にソフトボール部がなかったため、陸上の投てき種目に転向したが、ここでも非凡な才能を見せ、敦賀高校入学後は1年時から砲丸投げでインターハイに出場。3年時にはやり投げで国体4位の成績も収めている。だが、秋にひじの靭帯断裂というアクシデントに見舞われてしまった。

それが結果的に転機となった。

「通っているジムのトレーナーさんに競輪を勧められたことがきっかけです。もともと自転車が好きで、ロードバイクに乗っていました。ケガしたこともあって、スポーツを職業にしたいと考えた時、自分にとって陸上よりも自転車競技が現実的だったんです」

 決断するのに迷いはなかったと振り返る。自転車競技を始めると、そのポテンシャルの高さを発揮し、高校卒業の翌年2016年の都道府県対抗自転車競技大会500mタイムトライアル、チームスプリントで2位となるなど、いきなり日本のトップを争うまでになった。

【やり残したことのない状態を作る】

 そして2017年に日本競輪学校(現日本競輪選手養成所)に入学。ここで順調に力を伸ばし、在校成績1位、卒業記念レースでも優勝と同期のなかでトップの結果を残した。

その要因として天性の運動能力とセンスがあったことは間違いないが、柳原はそれだけが理由とは考えていない。

「競輪学校時代、誰よりも自転車に乗った自信があります。私は天才肌の選手ではありませんし、小学校でソフトボールをしていた時から、上に行くには人の何倍も努力をしないといけないと感じていました。自転車競技の経験が少ないのですから、なおさら周りより頑張らないといけないと思っていたんです」

 練習が自分を支えているという思いはガールズケイリンの頂点に立った今も、変わることはないという。

ガールズグランプリ昨季女王、柳原真緒 最高のメンタルを作り上げられた要因を告白「すべてで勝ちたい」

ファンからの人気も高い柳原

 冒頭に本人がブレイクの要因として口にした「勝負に勝てるメンタル」はどのように作り上げたのか。これも「練習」をキーワードに挙げる。

「常に他の選手の動きをイメージし、この選手はこうした動きをしてくるはず、それに対して自分はどう動くかを考えながら練習しています。他の選手の動きは常にチェックしていますし、それを基にシミュレーションする形です。それを繰り返しながら、自分自身の体の状態も上げていきます。結果を出すためには練習で自信をつけることが必要なのは言うまでもないですが、最も大切なのはやり残したことのない状態を作ってレースに臨むこと。それだけの練習ができればメンタルは自然と安定してきます」

 2022年のガールズグランプリはその最高のメンタルを作り上げられたレースだった。初の大舞台で緊張することは自分でも予想していたため、雰囲気に飲み込まれないよう、ひたすらイメージを作り、心の準備を繰り返した。

その結果、「やることはやった。あとは走るだけ」という泰然自若の境地に辿り着き、落ち着いた精神状態でスタートラインに立てたという。

「その状態を作れれば、レースの勝負所では自然と体が動きます。いい時というのは本当にゾーンに入っていて、ここだと思った瞬間にペダルを踏むだけです」

 さまざまなシミュレーションをしたうえで万全の自信を手にし、本番では自分の感覚を信じる。それが自分のスタイルだと柳原は話す。

【すべてで勝ちたい】

 グランプリを制覇し、頂点に立った。

だが自分が一番だという自覚はまだない。

「レースで勝ちましたが、脚力で勝ったという意識はありません。競輪学校の同期だった佐藤水菜は今、自転車競技の日本代表として世界の舞台で活躍していますし、まだ勝ったという意識はないんです」

 また柳原がデビューしてから背中をずっと追いかけ続けてきたガールズケイリンのトップレーサー、児玉碧衣の凄さにも改めて気づいた。児玉はガールズグランプリで3連覇した経験を持つ。プレッシャーがあるなか、メンタルをキープし、勝ち続けることがどれだけ難しいかを自分がグランプリを獲ったことで知った。頂点には立ったが、まだ終わりではなく、その先にさらに高い山がある。

ガールズグランプリ昨季女王、柳原真緒 最高のメンタルを作り上げられた要因を告白「すべてで勝ちたい」

柳原はさらなる高みを目指す

「私は勝負に関しては勝つか負けるかのどちらかで考えていて、1番でなければ2番も3番もいりません。そしてレースで勝つのはもちろんですが、それ以外のレース内容などすべてで勝ちたいと思っているんです。その物差しは自分のなかにしかないものなんですけど、本当に心から勝ったと思えるレースができるように、これからも頑張っていきたいと思っています」

 驕りや慢心はない。柳原は変わらずこれからも1番だけを目指し続ける。

【Profile】
柳原真緒(やなぎはら・まお)
1997年5月18日生まれ、福井県出身。身長164cm、体重68kg。中学・高校と陸上競技の投てきに励み、高2で日本ユース陸上競技選手権大会JOCカップ砲丸投げ5位、高3で国民体育大会やり投げ4位と好成績を残した。ケガの影響もあって自転車競技に転向して実績を積み、日本競輪学校(現日本競輪選手養成所)に入学。2018年、21歳の時にデビューし、翌年からガールズケイリン特別レースに出走。2022年にガールズケイリンコレクションいわき平ステージで優勝すると、その年末のガールズグランプリ2022で初出場・初優勝の快挙を成し遂げる。