8月1日のトレード・デッドライン(トレード期限)が目前に迫り、さまざまな噂や憶測が飛び交っている。

 なかでも最も注目されているのは、もちろん大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)の動きだ。

日本に限ったことではなく、全米のメディアとファンが見つめている、と言っても過言ではないだろう。

大谷翔平「真夏のトレード」をシミュレーション 残留でオフにF...の画像はこちら >>

大谷翔平はエンゼルスに残るのか、離れるのか?

【新たな契約は700億円以上?】

 ここから、どんなシナリオがあり得るのだろうか。

 まず、エンゼルスがトレードで放出しなかった場合、大谷はオフにフリーエージェント(FA)となる。

 シーズンが終わるまでにエンゼルスとの契約を延長し、FAにはならないというシナリオは、限りなくゼロに近いと見ていい。大谷と代理人は、急がなくていい。エンゼルスと他球団からそれぞれ提示された契約の内容を比較検討したあとに、エンゼルスと再契約を交わすことも可能だからだ。

 FAになった大谷に対し、エンゼルスはクオリファイング・オファー(QO)を申し出る。

これは、その選手が在籍していた球団が提示することのできる「1年間の再契約」だ。

 提示する金額は、年俸上位125人の平均額。昨オフは14人のFA選手が1年1965万ドル(約27億4000万円)のQOを申し出られ、そのうちのふたり──マーティン・ペレス(テキサス・レンジャーズ)とジョク・ピーダーソン(サンフランシスコ・ジャイアンツ)が受け入れて残留した。

 大谷は、エンゼルスからのQOを断るだろう。どう考えても、大谷がQOを受け入れる意味はない。

 今シーズンの大谷の年俸は3000万ドル(約41億8000万円)。

QOの金額はまだ確定していないが、2000万ドル(約27億9000万円)前後だろう。しかも、大谷が手にする新たな契約の総額は、5億ドル(約698億円)~6億ドル(約837億円)に達してもおかしくない。

 ちなみに、契約のMLB史上最高総額は、マイク・トラウト(エンゼルス)の12年4億2650万ドル(2019年~2030年/年平均3554万1667ドル)だ。延長契約を除き、FAになった選手の契約に限ると、アーロン・ジャッジ(ニューヨーク・ヤンキース)の9年3億6000万ドル(2023年~2031年/年平均4000万ドル)が最も高い。

【再契約の道は残っている?】

 断られるのがわかっているにもかかわらず、エンゼルスがQOを申し出るのは、大谷がいなくなった際の補償を得るためだ。大谷がQOを断り、他球団と契約を交わすと、エンゼルスは翌年のドラフト指名権をひとつもらえる。QOを申し出ていないと、補償はゼロだ。

 たとえば昨オフ、ウィルソン・コントレラスはシカゴ・カブスからFAとなり、QOを断ったあと、セントルイス・カージナルスに入団した。契約は5年8750万ドル(2023年~2027年/年平均1750万ドル)だ。

 それによりカブスは、今年のドラフトで3巡目の前に位置する指名権(全体68位)を与えられた。一方、コントレラスを手に入れたカージナルスは2巡目の指名権を失った。

 エンゼルスは大谷にQOを断られても、再契約の道は残る。

 昨オフにQOを断った12人のうち、ジャッジとアンソニー・リゾ(ヤンキース)、ブランドン・ニモ(ニューヨーク・メッツ)の3人は、それまで在籍していた球団と再契約を交わした。

 一方、残りのシーズンをエンゼルスで過ごすシナリオと比べると、こちらが実現する可能性は高くないものの、今夏のトレードで他球団へ移籍した場合も、大谷はオフにFAとなる。

 その移籍先の球団とシーズンが終わる前の延長契約がまずないのは、エンゼルスが大谷を放出しない時と同様の理由だ。入団交渉の相手が1球団ではなく複数の球団となれば、競争の原理が働き、大谷はより好条件の契約を得ることができる。

 また、移籍後にFAになった大谷は、QOとは無関係だ。

 球団がQOを申し出ることができるのは、過去にどの球団からもQOを申し出られたことがなく、FAになるまでシーズンを通してその球団にいた選手に限られる。エンゼルスから移籍すれば、大谷は後者に該当しないので、QOの対象から外れる。

 かつてはルールが異なり、何度かQOを申し出られた選手もいた。ヤンキース時代の黒田博樹は2012年のオフと2013年のオフに続けてQOを提示され、どちらも断ったあとに1年契約でヤンキースへ戻っている。

【ナ・リーグ移籍でも本塁打王?】

 移籍を経てFAになってからの大谷の動きは、トレードで移籍せずにエンゼルスからのQOを断ったあとと同じだ。移籍先の球団、エンゼルス、それ以外の球団、いずれとも交渉できる。

 夏のトレードで放出され、オフにその球団に戻った例としては、アロルディス・チャップマン(現テキサス・レンジャーズ)が記憶に新しい。

 2016年の夏、低迷していたヤンキースはFA直前のチャップマンをシカゴ・カブスへ放出し、グレイバー・トーレスら4人を獲得した。

その秋にカブスでワールドシリーズ優勝メンバーとなったチャップマンは、オフに5年8600万ドル(2017年~2021年/年平均1720万ドル)の契約でヤンキースへ戻った。

 なお、大谷がトレードで移籍しなかった場合と移籍した場合を比べると、ポストシーズン初出場の可能性は後者のほうが高まりそうだ。現時点のエンゼルスは、ポストシーズン進出圏外にいる。ポストシーズンまでエンゼルスより遠い位置の球団が、大谷を獲得しようとするとは考えにくい。

 大谷を入手すれば、投打とも大きなプラスになるとはいえ、保有できるのはFAまでの数カ月にすぎない。"レンタル・プレーヤー"である大谷の見返りに、エンゼルスが求めるであろうプロスペクト(若手有望株)を手放すのは、かなりのリスクを伴う。

 なお、ア・リーグのエンゼルスからナ・リーグの球団に移籍すると、大谷がタイトルを獲得する可能性は低くなる。各リーグで記録したスタッツによりタイトル・ホルダーは決まるからだ。

 もっとも、仮にナ・リーグの球団に移ったとしても、移籍までのホームランの本数がシーズン終了の時点でもア・リーグ最多のままなら、大谷はナ・リーグの球団にいながらア・リーグの本塁打王となる。さらに、移籍前のパフォーマンスだけでア・リーグのMVPを受賞することも、あり得なくはなさそうだ。