元武相高校野球
金の国・渡部おにぎりインタビュー 後編

(前編:先輩、ヤクルト塩見泰隆らとの野球部生活>>)

 武相高校時代、1学年上の塩見泰隆(ヤクルト)と中軸を組み、井口和朋(日本ハム)とバッテリーを組む強打の捕手だった若手芸人・渡部おにぎり(金の国)。インタビュー後編では、「まさか」の展開になった高校最後の夏、その後の人生について語った。



元高校球児、渡部おにぎりがベンチから見届けた「まさか」のラス...の画像はこちら >>

『R-1グランプリ2022』ファイナリストになった、元高校球児の「金の国」渡部

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「高校最後の夏」について触れると、渡部おにぎりはこの日初めて顔を曇らせた。

「あれは人生のなかで忘れることのない出来事でした」

 2012年7月12日。武相は神奈川大会1回戦で敗退している。初戦から強豪・日大藤沢と激突するくじ運の悪さもあったが、何よりも熱戦に突如幕を下ろすラストシーンが物議を醸した。

 この試合、渡部は4番・捕手でスタメン出場し、4打数2安打と活躍している。だが、最後はベンチでチームの敗退を見届けた。
直前の9回表の攻撃で代走を送られ、途中交代していたからだ。

「ウチは1-2で負けていたんですけど、9回表に僕がヒットで出塁して。なんとしても追いつくために代走が出て、なんとか2-2の同点になったんです」

 9回裏の守備には、2年生の控え捕手が渡部の代わりにマスクをかぶった。そして、問題のシーンが訪れる。

 一死満塁の一打サヨナラのピンチ。打者が高い内野フライを打ち上げた。
その瞬間、審判団は「インフィールドフライ」を宣告。フライはショートが捕球し、この時点で2アウトになった。

 ここで武相の内野陣がマウンドに集まった。投手がランナーに背を向けて打ち合わせをしていると、一塁側スタンドから歓声が上がった。三塁ランナーがスルスルと飛び出し、本塁を陥れたのだ。インフィールドフライはボールインプレー。
つまり、タッチアップによるホームインが成立する。

 球審がセーフのコールをし、試合終了を告げる。武相の選手たちはパニックに陥った。武相サイドの「タイムを取った」との抗議を受け、審判団は長い協議に入った。

自分が捕手だったとしても......

 スタンドからは怒号も飛び交い、球場は異様な雰囲気に包まれた。ベンチ前でたたずむ渡部は、徐々に冷静さを取り戻していた。



「最初はあやふやだったけど、冷静に見るとインフィールドフライが成立しているよな。やばいな。判定は覆らないだろうな......」

 協議の末、球審がマイクを持って三塁ランナーの生還と試合終了を告げた。

 仲間の熱くなる思いは痛いほどに伝わっていたが、渡部は「わかりやすくタイムを取らないといけなかった」と考えている。その一方で、「もし自分が捕手だったとしても、きちんと対応できていたかはわからない」という思いもある。

「インターネットで『キャッチャーが悪い』と2年生の子が叩かれてしまって、かわいそうでした。
でも、僕が出ていたとしてもテンパっていたので、ちゃんとできたかどうか......。今でも考えてしまいますね」

元高校球児、渡部おにぎりがベンチから見届けた「まさか」のラストゲーム。今は芸人として「全国区」を目指す

グラブは高校時代に使っていたもの

 その後、渡部は神奈川県内の大学に進学して野球を続けたものの、目標としていたプロ野球の世界は近づくどころか遠のく一方だった。渡部は野球部を2年で退部し、芸人を志してワタナベエンターテインメントの養成所に入所。そこで現在の相方である桃沢健輔と出会い、お笑いコンビ「金の国」を結成した。

「ネタは完全に相方が作ってくれています。コントではいつも僕に見合った役を考えてくれて、本当にありがたいですね。
R-1にしても、僕のピンネタなのに桃沢くんがネタを書いてくれているんです」

 R-1グランプリ本戦に向けて、渡部は「なんとか結果を残したい」と意気込む。その雄姿はきっと高校時代の仲間にも届くだろう。

 仲間たちもそれぞれの人生を生きている。当時バッテリーを組んだエースは堅実な職業に就き、3月には結婚式を開くという。

 武相野球部での経験が芸人としてどのように役立っているか。そう聞くと、渡部は「これはボケでもなんでもないんですけど」と前置きしてこう続けた。

「ちゃんと大きな声を出せるのはアドバンテージだなぁと思いますね。面白いかどうかは別にして、意外とできない人も多いので。あとは苦しい練習を乗り越えるために、少しでも明るく笑いを求めた経験は今に生きているんじゃないかなと思います」

 出川哲朗、パンチ佐藤、堤下敦、そして新たな武相OBエンターテイナーとして名を連ねる渡部おにぎり。高校時代には届かなかった「全国区」が、芸人として今や手が届く位置にある。勝負のR-1グランプリ本戦は3月6日に迫っている。

(おわり)

■渡部おにぎり
1994年8月14日生まれ、神奈川県出身。お笑い芸人。ワタナベエンターテインメント所属。本名・渡部恭平。武相高校時代は捕手として、1学年上の塩見泰隆(ヤクルト)、井口和朋(日本ハム)とともに活躍。横浜商科大学進学後も野球部に所属したが、退部して芸人を志し養成所に入所し、桃沢健輔とお笑いコンビ・金の国を結成。2022年、『R-1グランプリ2022』ファイナリストになった。公式Twitter>> 「金の国玉転がしチャンネル」>> 「金の国渡部おにぎりのにぎにぎちゃんねる」>>