「左利きに不良品はない」

 メキシコ代表のMFアンドレス・グアルダードは、かつて行なったインタビューのなかで、同国にそんなフレーズがあることを明かしていた。彼自身が左利き選手だったことで、ひいき目もあるだろう。

左利きにもハズレはある。

 しかしながら、サッカー先進国で左利きの人材が優先されるのは常識だ。

 今夏、日本ツアーで欧州王者の底知れなさを見せたマンチェスター・シティだが、ジョゼップ・グアルディオラ監督は要所にレフティを配していた。GKはブラジル代表エデルソン、DFはオランダ代表ネイサン・アケー、スペイン代表エメリック・ラポルト、セルヒオ・ゴメス、MFはイングランド代表フィル・フォーデン、ポルトガル代表ベルナルド・シウバ、FWはノルウェー代表アーリング・ハーランドなど、いずれも"世界を制するため"意図的に集められた選手だ。

 左利きはいかに世界を制するのか?

 欧州でも南米でも、"左利き礼賛"の傾向は強い。その根拠はまず、右利きの人口が多数で、左利きが希少という事実である。

少ないということは、違う役割ができるし、状況に適応し、別のリズムを生み出すことができる。

 たとえば左利きサイドバックは、タッチラインギリギリまでスペースを使ってボールを持てる。左利きセンターバックは、右足でボールを持つことで「自軍ゴールに最短距離でボールを晒す」ということがない。攻撃の選択肢を広げ、守備のリスクを減らせるのだ。

 ポルトガル1部リーグ(当時)のマリティモのクラブ強化関係者に話を聞いた時、昂然とこう語っていた。

「左利き枠は、チームに少なくとも4、5人は用意している。

左サイドバック、左センターバック、MF。そして中央に左足で切り込む右アタッカー、左利きストライカー。左利きがいることで合理的な戦いができるし、勝利するために不可欠なパーツだ」

 同じことは、プレミアリーグでマンチェスター・シティと優勝を争ったアーセナルにも当てはまる。

【アーセナル、レアル・マドリードも】

 ミケル・アルテタ監督は攻撃的スタイルの信奉者だが、左サイドバックにウクライナ代表オレクサンドル・ジンチェンコorスコットランド代表キーラン・ティアニー、左センターバックにブラジル代表ガブリエウ・マガリャエス、MFにドイツ代表カイ・ハバーツ、ノルウェー代表マーティン・ウーデゴール、右アタッカーにはイングランド代表ブカヨ・サカを起用。左利きカラーが濃厚なチームとなっている。

 左利き優先は、能動的な"ボールありき"のプレーをするチームに顕著に見られる。

ボールの通路が確保できるだけでなく、左利きが持つ独特なリズムが、相手の守備に風穴を開ける。たとえばFCバルセロナが全盛だった時代、左利きのリオネル・メッシのカットインに一番敏感に反応したのは左利きのジョルディ・アルバで、相手の機先を制して得点シーンを作り出していた。

マンチェスター・シティ、レアル・ソシエダ…「左利き優先チーム...の画像はこちら >>

前線をほぼ左利きの選手で固めてきたレアル・ソシエダの久保建英

 また、昨シーズンのレアル・ソシエダは前線の主力5人全員がレフティだった。左利きが織りなすコンビネーションは見物で、トップ下に入ったダビド・シルバはまさに「魔法使い」の域に達していた(前十字靭帯断裂による現役引退は残念だ)。日本代表の久保建英は、左利きが自由な発想でプレーする環境で、その才能が最大限に解き放たれたと言えるだろう。

「左利きは好きですね」

 サガン鳥栖の川井健太監督が、そう明かしていたことがある。

鳥栖は左利きを重用。左利き同士の共鳴で、堀米勇輝は今やJリーグでトップレベルの創造性を見せるほどだ。

「答えは解明できていないですけど、たとえば左利きの選手って、カットインからシュートの確率が高い。(日本は)右利き文化で、育成から右利き同士は多く対戦経験を積み重ねていますが、マイノリティのアドバンテージがあるのかもしれません。ボランチに左利きの手塚康平を獲ったのも、左方向にボールを配給できることがあったから」

 Jリーグでは、レフティそのものが少ないのが実状だろう。二強と言われてきた横浜F・マリノス、川崎フロンターレに左利きがしっかり陣取っているのは興味深い。

攻撃原理に基づいたチームにおいて、左利きは欠かせないのだ。

 一方、負けないために相手の良さを潰し、リアクション戦術で勝機を見出すチームでは、闘争心で屈強な肉体を旋回させるほうが重んじられる。ディエゴ・シメオネが率いるアトレティコ・マドリードなどは好例だろう。フランス代表アントワーヌ・グリーズマンは左利きだから重用されるのではなく、"戦えるアタッカー"だからだ。

 いずれにせよ、強力なチームを作り上げるには左利きを擁することが定石と言えるだろう。レアル・マドリードも常に左SB、左CB、ボランチ、右アタッカーにはレフティがいる。

今シーズンも左SBにはスペイン代表フラン・ガルシアを補強し、パリ・サンジェルマンに移籍したスペイン代表マルコ・アセンシオの代わりにトルコ代表アルダ・ギュレルを獲得した。

 左利きが世界のサッカーを席巻するのは、それだけの意味があるのだ。

 ちなみに最大の希少種は、右利きでも左利きでもない。利き手、利き足がともに両利きで、フランス代表ウスマン・デンベレはその典型だろう。ただし、生来的両利きはごく少なく、プロ選手の数も限られている。