「コートに立つ以上は足が痛かろうが関係ないんで、もしかしたらドイツにも故障している選手がいるかもしれないですし、そこは言い訳せずにやっていきたい」

 FIBAワールドカップのグループリーグ初戦──。地元開催の日本代表チーム(世界ランク36位)はヨーロッパの強豪・ドイツ(同11位)を相手に63-81で落とした。

 その力の差は点差が示す以上に大きなものだったが、厳しい現実を突きつけられた敗戦の直後、右足の状態が万全ではない渡邊雄太(SF/フェニックス・サンズ)は、その結果に対して自身の故障を一切、言い訳にしなかった。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

渡邊雄太の「言い訳はしない」責任感 ギャンブルに勝てずバスケ...の画像はこちら >>
 強化試合で右足のねんざを負った。その状態がどれほど悪いのかはわからないが、おそらく万全からは遠いなかで、チーム唯一のNBA選手として、かつリーダーのひとりとして、攻守で懸命に「アカツキ・ジャパン」を牽引しようとした。

 試合の出だし。ドイツに嫌な形で得点をされていきなりペースを握られそうになるところを、自身のスティールからのレイアップや2本の3Pで流れを引き留めようとした。

序盤にはドイツのエースガード、デニス・シュルーダー(トロント・ラプターズ)のシュートをブロックもした。

 それでも相手は、引き留めようとする手をいとも簡単にふりほどくかのように、サイズと身体能力の高さを生かして、容赦なく差を広げていった。

 渡邉は第1Qだけで7本もの3Pを放った。「動きのなかで前が空いたから打った」と彼は述べたが、世界大会の経験がない若手も多い日本代表の先頭に立って、鼓舞する意図もあったことを認めた。

 しかし、トム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)体制となって「オフェンスの武器」である3Pという点では、結果はついてこなかった。渡邉は試合を通して計10本の3Pを放つも、リングの間を通したのはうち2本にとどまった。

【渡邊は20得点を奪ったが...】

 チームが開催地の沖縄入りしたあとの練習後、渡邉はペースを速くしながら3Pを多く打ち、それが決まるか決まらないかで成否が異なるチームのスタイルを「悪い言い方をすればギャンブルみたいなバスケット」で、それがハマれば「どのチームにでも勝てる」と話していた。

 その言葉を借りれば、渡邉はギャンブルに勝てなかったということになる。当人もそれを自覚し、ドイツ戦後、このように弁を述べている。

「決めきれなかったのは自分の責任。決めていればもっと展開が変わっていたと思います」

 3Pを高確率で決められなかったのは渡邉だけではない。日本は、強化試合からなかなか目標とする「40%付近」にまで確率を上げられず苦戦を強いられたところがあったが、そこが改善されれば状況は好転するはずだと、ホーバスHCや選手らは努めて顔を上げていた。

 しかしこの日の日本は、3Pの試投数こそ35本と基準とする数字をクリアしてはいたものの、難しい状況で打ったものも多く、かつドイツディフェンスの寄せの早さもあって、沈めたのはわずかに6本にとどまった。

 確率にすれば17.1%。とうてい「ギャンブルに勝つ」ものにはならなかった。

 だが、それはあくまで3Pに限った話だ。渡邉はドライブインからの得点やアリウープでダンクを叩き込むなど、熱量の高いプレーを続け、チームトップの20得点を挙げた。

 4年前のワールドカップでは大敗を喫したあとに「日本代表として恥」だと述べ、2021年の東京オリンピックでも全敗で大会を終えた直後にはタオルを頭に被い、うなだれる場面があった。そして今大会前には、もしチームを来年のパリオリンピックへ連れていくことができなければ代表のユニフォームを脱ぐ意向を示した。

 それくらい渡邉は、いつも代表への思いあふれ、日の丸を背負うことの重さを感じながらコートに立ってきた。チームとして勝つことは十全に理解しているが、NBAでこれまで5シーズンプレーをするなど必然的に日本をリードしなければならない立場にあるなかで、その使命感を全面に出してプレーをしてきた。

【足首ねんざの影響で練習参加はドイツ戦の3日前】

 だが、ドイツ戦でチームを勝利に導くことのできなかったと感じる渡邉に対して、ホーバスHCはそのように責を負う必要などないと、試合後のロッカールームで彼に伝えたという。

「彼のプレーはファンタスティックだったと思います。シュートを決められなかったのは、そうかもしれません。ただ、彼は1カ月前にふくらはぎのケガをし、それを乗り越えてプレーしているのです。

 彼は(8月15日の)アンゴラとの強化試合で足首をねんざし、そこからの10日間、練習に参加できず、それができるようになったのはこの3日前からでした。

彼は試合で十分に活躍できるほどの状態にはないのに、でも、プレーをしたのです。

 彼があれだけの数のシュートを打ったことは、まさに我々が求めていたことです。今日はそれが入らなかった」

 ホーバスHCは、渡邉を慰労するかのような言葉でこう続けた。

「彼のリバウンド、ディフェンス、ブロック......さらに30分ほどもプレーをしています。100%の状態ではないのに30分もプレーをするとなれば、スマートに、冷静にプレーせざるを得ません。彼にはそれができていました。

彼はNBAのベテラン選手なのです」

 ドイツ戦後の取材エリア。どこか悲壮感を漂わせながら話した渡邉。痛い1敗であることには間違いないが、言うまでもなく大会はまだ終わっておらず、今大会でアジア1位となってパリオリンピックへの切符を手にするために、変わらず強い気持ちで前へ進む。

 繰り返しになるが、ドイツ戦で3Pを確率よく決められなかったことについて渡邊は「チームに迷惑をかけた。自分が決めきれるかどうかで日本を勝たせるかどうかにかかってくると思います」と語った。

 ただ、日本代表をあまりにひとりで背負い込む渡邉を、ファンたちも見たくはないだろう。そんな渡邉に、ホーバスHCはこんなメッセージを送る。

「我々はチームで、チームとして勝ちにいきます。ひとりが今日の(ドイツとの)試合の敗戦を背負う必要はありません。彼は本当にいいプレーをしましたし、勝ちたいと思っている人で、そこは本当にすばらしい」

【落ち込んでいる暇はない】

 日本の次戦は、8月27日のフィンランド戦となる。昨年、NBAのMIP(最優秀躍進選手賞)に輝いたラウリ・マルカネン(SF・PF/ユタ・ジャズ)を中心とするチームだ。2次ラウンドへ進出するためにもはや星は落とせず、アジア1位となるためには得失点差が関わってくる場合もある。重要な試合は続いていくということだ。

「フィンランド(世界24位)も(ドイツと)同じように強い。ただ、落ち込んでいる暇もない。しっかり休んで、切り替えて、次の試合は絶対に勝てるようにがんばります」(渡邊)

 シーズン中のそれと違って、世界最高峰の舞台の各試合の持つ意味は言うまでもなく大きい。選手たちは胃の痛くなるような思いで臨んでいるはずだ。

 ホーバスHCらが「ひとりでそこまで背負い込む必要はない」と説いても、渡邉はその痛みを感じながら、変わらず日本を引っ張る覚悟で、このワールドカップのコートに立ち続けるに違いない。