今回の世界陸上でメダルを期待されていた男子4×100mリレーは、パリ五輪1年前と考えると、少し物足りない結果となった。

 予選では、坂井隆一郎(大阪ガス)、柳田大輝(東洋大)、小池祐貴(住友電工)、サニブラウン・ハキーム(東レ)のオーダーで走り、シーズンベストの37秒71(日本歴代4位)でアメリカとジャマイカに次ぐ3位で通過。

 決勝に向けては、3走の小池も4走のサニブラウンも記録向上を確信していた。

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 だが実際には3走の小池が決勝前に、「内側(5レーンを走った予選)から大外になるとバトンの微調整が難しくなる」と懸念していた9レーンを走ることになり、その予感が当たってしまった。

 1走の坂井が、ひとつ内側を走るアメリカのクリスチャン・コールマンに迫られながらも繋ぎ、2走の柳田も耐えた。

 しかし、3走の小池がブランドン・カーンズと2度接触すると、そこから立て直すために力を使ってしまい、ラスト10mのスピードが落ち、4走のサニブラウンが少し振り返ってバトンを受ける形に。「ほとんど加速できない形の走りになってしまった」と、37秒83で5位とメダル獲得とはならなかった。

 かつてメダルを獲っていた頃の日本は、1走でリードして先手を取るのが武器だったが、今回はそれができなかったからこそ起きたアクシデントでもあった。



 だが決勝のタイムを見れば、優勝のアメリカは37秒38、2位のイタリアは37秒62で3位のジャマイカは37秒76と続く。日本は、攻めきっていなかった予選の走りでも、銅メダルを獲得できていたのだ。それくらい、メダルが目の前にあるのは間違いない。

 今大会、リレー前の個人成績としては、100mでサニブラウンは準決勝で9秒97を出して昨年に続く決勝進出。決勝は5位ながらも、前年の「満身創痍の状態」でリレーには出場できなかったのとは違い、まだ戦える状態を維持していた。世界大会の個人戦初出場だった柳田も、準決勝には進出して10秒14を出していた。


一方で、昨年の世界陸上は準決勝に進出していた坂井が、「なかなかハマらない」という状態で予選落ち。終盤に動きがバラバラになって4継への不安が残る走りだった。

【個人のレベルアップとともに必要なこと】

 4継に関しては今年、パリ五輪での金メダル獲得を念頭に置き、個人の走力アップを第一目標にしていた。昨年の世界陸上は予選敗退のため、パリ五輪出場権獲得に向けて、世界リスト上位の記録を出さなければいけなかったが、世界陸上前に代表チームとして戦ったのは、7月23日のダイヤモンドリーグ・ロンドン大会のみだった。

「4継に関して層が薄かったのは事実」

 世界陸上後の総括で、今回の4×100mリレー日本チームについて山崎一彦監督がこう話したように、今回のオーダーはこの4人でこの走順にしかできなかったこともメダルを逃した要因のひとつになった。

 控えには、日本選手権4位の水久保漱至(第一酒造)がいたが、シーズンベストは10秒14で出場した4人とは少し力の差があった。

またダイヤモンドリーグで坂井や柳田、小池と組んで出場権獲得に貢献した上山紘輝(住友電工)は、200mで代表になっていたが世界陸上では予選敗退と調子が上がらなかった。

 200mで準決勝に進んだ鵜澤飛羽(筑波大)か飯塚翔太(ミズノ)の起用も考えられたが、山崎監督が言うように「今回は200mの選手の起用はなかなか難しかった」。200mの準決勝は4継予選の前日、決勝は4継の予選の2時間後というスケジュールで、準備のことも考えると100mの選手のみしか使えないという状況で戦うしかなかった。

 山崎監督は今の状況をこう話す。

「サニブラウンのように(個人で)上のラウンドに進んでいく選手が出てくるのはいいことですが、その場合は疲労などのリスクも出てくる。(世界の)メダルを獲るような選手は2種目に出てリレーも出るが、サニブラウンでさえ(体力を含め)今はそこまで行っていない。

今回2位になったイタリアはリレーに注力していて、それはかつて日本もやっていたことですが、個々の力が上がることで逆に難しくなることもある。今はその過渡期にあるので、そこをひとつ超えていかなければいけないと思います」

 現時点でパリ五輪でもメダル獲得の可能性は見せたが、さらにメダルの色をよくするためには、誰を選べばいいか迷うほどの層の厚さも必要だ。さらにチーム戦略から言えば、リオ五輪当時の山縣亮太(セイコー)とも遜色のない走りができる1走候補が複数いること。 

 そして土江寛裕短距離ディレクターが、「強豪国のエースに引けを取らない8秒台のラップで走れるサニブラウンが2走を務められるようになれば、前半で確実にアドバンテージを得て戦えるようになる」と、口にしていたような状態を作ることも重要だ。

 今回の代表で考えれば、100mで9秒台を持っているサニブラウンや小池だけではなく、ともに10秒02がベストの坂井と柳田が10秒0台で安定して走れる実力をつけることが必要。桐生祥秀(日本生命)や山縣、多田修平(住友電工)らベテラン勢の復調も待たれるが、それを追う若手の登場で新人からベテランまでが切磋琢磨できるチームになることも必須だ。


 気心が知れているというだけではなく、互いに力を認め合って尊敬し、信頼しながらも、ライバルとして激しい闘志をむき出しにして戦う関係性のチームができてこそ、「金メダルを狙う」と、胸を張って言えるようになるだろう。