田臥勇太×比江島慎
「宇都宮ブレックス」コンビ対談 後編

前編「日本男子バスケがW杯で結果を残せたのはなぜか」>>

「FIBAバスケットボールワールドカップ」で、男子バスケットボール日本代表を2024年のパリ五輪出場へと導いた立役者のひとり、比江島慎。そのワールドカップをアスリート解説者として見た田臥勇太。

B.LEAGUEの宇都宮ブレックスのチームメイトでもある2人による対談は、台頭する若い選手からパリ五輪、そして今シーズンのBリーグへと向かっていく。

田臥勇太&比江島慎はW杯での若手の活躍をどう感じたか「考えら...の画像はこちら >>

【日本とその未来に夢を与えてくれた若手の台頭】

――ワールドカップでは河村勇輝選手(横浜ビー・コルセアーズ)や富永啓生選手(アメリカ・ネブラスカ大学)ら、若い選手が台頭してきました。彼ら若手の活躍をどのように見ましたか? 

比江島 すごいの一言ですよね。僕が21歳、22歳の時に、この舞台でまともに戦えたかと考えたら、絶対にあり得ないです。しかも彼らは初めてのワールドカップですよね。にもかかわらず、あれだけ落ち着いて、自分のプレーをしっかり出しきるなんて、僕には考えられません。彼らの力がなかったら今回の結果はあり得なかったとも思うので、彼らにも感謝しなければいけないと思っています。

――ポイントガードという視点に立てば、富樫(勇樹・千葉ジェッツ)選手、河村選手は、田臥選手のようにサイズの小さい選手です。その系譜の先駆者のひとりとして、彼らの活躍をどう見ましたか?

田臥 時代ごとのバスケットがあって、彼らは今の時代のバスケットのスタイルにしっかりとフィットしているポイントガードです。あのサイズでも負けないシュート力だったり、脚力だったり、スピードだったり、タイミングのずらし方だったりをしっかりと持っています。そういう意味では、日本のポイントガードが世界に通用することを彼らが示してくれたと思っています。小さくてもできることを示してくれたことはうれしく思うし、子どもたちにも夢を与えてくれたなと思うので、立派だなと思いました。

 僕自身も、彼らのプレーを見ていると、バスケットがやりたくなったし、バスケットの楽しさを、彼らだけじゃなく、日本代表のメンバーみんなが今回また教えてくれました。

それを日本中の人に教えてくれたので、こんなにうれしいことはないですね。

【パリ五輪の出場権獲得はすべてのバスケ選手に目標を与えた】

――ワールドカップの結果を受けて、パリ五輪の出場権を獲得しました。それについては、今、どう考えていますか?

比江島 選手として必ず出場したい大会であることはもちろん変わりません。前回のオリンピック東京大会では勝利を収められなかったですし、出場国枠も12カ国と、ワールドカップとは異なり、より難しい大会になってきます(ワールドカップは32カ国出場)。そこで結果を出すことによって、ワールドカップでの結果が奇跡じゃないことを証明できる、すごく大事な大会になります。パリオリンピックに出場して、また結果を出したいなと思っています。

――先ほど富樫選手、河村選手の活躍を見て田臥選手は「バスケやりたいな」という気持ちになったとおっしゃいましたが、パリでは比江島選手と一緒にプレーしたいとは思いませんか?

田臥 それが実現できればすばらしいですけど、僕に限らず、Bリーグの全選手や、富永選手のように海外に留学している選手、それこそ今の高校生にだって、等しくみんなにチャンスを持たせてくれたわけですからね。

今回の日本代表がオリンピックという、目標を全バスケット選手に持たせてくれるなんて、こんなにすばらしいことはありません。全員がそこに向かって、どのカテゴリーもレベルアップしていけば、日本のバスケットの未来はまた明るくなると思います。

――比江島選手はどうですか? 田臥選手と、もう一度、一緒に日本代表のユニフォームを着たいという思いは?

比江島 僕はいつでもやりたいと思っています。

【チームに好影響を与える田臥イズムを受け継いで】

――2016年にセルビアでおこなわれたOQT(オリンピック世界最終予選)で一緒に日本代表としてプレーした時、比江島選手は「田臥選手がルーズボールを追いかける姿勢にすごく影響を受けた」とおっしゃっていました。今同じチームでプレーしていても、やはり田臥選手から受ける影響は大きいですか?

比江島 そうですね。ただ、すべては真似できないです。リーダーシップや、言葉でチームを鼓舞することは、僕の性格的にもあまり向いてないところがあります。

それでも僕が若いころ日本代表で一緒にプレーさせてもらった時に、最年長である田臥さんがいろいろと気を遣ってくれて、僕たちにのびのびプレーさせてくれたことや、何よりルーズボールやリバウンドに執着する姿を見て、最年長がそうした姿勢を見せるとチームにいい影響を与えるというのは強く印象に残ったんです。

 むしろ僕には、そこぐらいしか田臥さんの真似ができなかったので、それに関しては今回必死に、メチャクチャ意識しました。

田臥 そこはだいぶ変わったと思いますよ。ワールドカップの試合を見ていても。必要な時にオフェンスリバウンドに飛び込んで、たとえ取れなくてもボールに触っていましたから。

比江島 若い時はそんなことを全然していなかったです。

その頃のことを今になって考えるとオフェンスばかりを意識して、リバウンドやルーズボールの意識が今よりも低かったと思います。

田臥 リバウンドやルーズボールって気持ちや集中力の問題だと思うんです。それを世界レベルでやればやるほど強く感じると思います。ディフェンスの意識も全然違います。そうしたマコの姿勢を見ていると、その面での成長は本当にうれしいし、日本にとっても絶対必要だと思うんです。(渡邉)雄太や富樫(勇樹)が「マコはできる選手だ」と言うのは、単に得点だけでなく、そうした数字に現れない姿勢を含めたトータルだと思うんです。

リバウンドやルーズボールまでちゃんとできるようになって、「できる選手」のレベルが確実に上がってこそ、世界に通用する選手だと感じます。

【一体感を生み出す「比江島セレブレーション」をBリーグでも】

――最後にブレックスとして10月7日に開幕する今シーズンのB.LEAGUEについて、聞かせてください。現在のチーム状況はいかがですか?

田臥 チームとしてはディフェンス力やリバウンドといった泥臭いところを徹底してやり続けるんですけど、今シーズンからの新しい選手が加わり、オフェンス面でよりスピーディーに、かつシュートの本数を徹底して増やしていこうとしています。そういうところにチャレンジできるチームになっています。

比江島 今年はスタメンでも、セカンドユニットでも、チームとしての質は落ちないと思っています。ブレックスらしいディフェンス力を維持したまま、昨シーズンよりもオフェンスが停滞する時間を減らすことができると思います。ギャビン(・エドワーズ)やD.J(ニュービル)らも入ってきて、相手チームとしても的が絞りにくくなるはずです。昨シーズンよりも戦力がアップしているので、優勝を狙えるチームになっていると思います。

田臥 昨シーズンは序盤戦で遅れを取ってしまいましたが、今シーズンは開幕からスタートダッシュをしないと駄目だと思っているし、できるとも思っています。これまでの練習を見ていても質の高さを感じるので。チームとしての厚みはすごく増しています。シーズンが始まる前からもそう感じられているんです。

――そのスタートダッシュの先に、昨年取り逃したチャンピオンシップ出場と、リーグ制覇があると思います。チームとしてではなく、個人として、今シーズンにかける意気込みを聞かせてください。

田臥 僕はもうチームが勝つことだけを考えています。それは僕がコートでプレーしている時も、ベンチにいる時も、同じです。自分がすべきことに集中して。それを練習からしっかりとやっていきたい。とにかくチームを、という意識なので、そこは誰にも負けずにやっていきたいです。チームの勝利が、イコール個人の目標とも言えます。そのためのスキルアップ、レベルアップを目指す感じですかね。年齢を重ねていくにつれて、それをより強く感じるようになっています。

比江島 僕は日本代表のプレースタイルを意識しながらプレーを続けていきたいと思っています。具体的に言えば、シューターのようなキャッチアンドシュートの動きからの3ポイントシュートは意識しています。ドリブルからの3ポイントシュートは元々得意としているので、そのプレーを継続しながら、いかに動きながらの3ポイントシュートを打てるかを考えています。シュートの距離も少しずつ伸ばすことも意識してやっていきたいと思っています。ドライブでは、ファウルのもらい方を昨シーズン向上できたので、シュートの精度やファウルのもらい方の技術を、さらに磨いていきたいと考えています。

――3ポイントシュートが決まれば「比江島セレブレーション」も出てきますよね?

比江島 それを見にきてくださるファンの皆さんもいるかもしれませんし......でも、どうなんですかね? あれってかっこいいんですか? 僕はかっこいいと思ってやっていたんですけど......。

田臥 辻(直人/群馬クレインサンダーズ)は、いいって言っていたよ。

比江島 いや、辻さんのセレブレーションに比べたらね(笑)。

田臥 ただ、舌を出すのが駄目だって、Bリーグの開幕記者会見で言っていた(笑)。

比江島 ああ。それは僕もわかります。

田臥 (笑)。

比江島 まあ、気分が乗ってきたらやりたいですね。

田臥 あれをやることでチームが盛り上がっていくからね。あれをやる、イコール、チームがいい雰囲気っていうことだから。本当にみんなが一体となる瞬間だし、チームだけじゃなく、ファンの方も一体となる瞬間だし、いいと思うよ。

Profile

田臥勇太(たぶせ ゆうた)
1980年10月5日生まれ。神奈川県出身。ポジションPG(ポイントガード)。
バスケの名門・能代工(現・能代科学技術高校)時代には史上初の「9冠」を達成。その後も第一線で活躍を続け、2004年にはフェニックス・サンズと契約し、日本人初となるNBAのコートに立った。2008年に日本に復帰をするとリンク栃木ブレックスと契約。移籍をすることなく現在も宇都宮ブレックスで、精神的支柱としてチームを支えている。

比江島慎(ひえじま まこと)
1990年8月11日生まれ。福岡県出身。ポジションSG(シューティングガード)。
青山学院大卒業後、アイシンシーホース三河に入団し、2019年からは宇都宮ブレックスでプレーしている。日本代表としては、青学大4年の時に初選出。2016年のオリンピック予選や2019年W杯、2021年に開催された東京オリンピックにも出場し、今年のW杯では最年長として、プレーでチームを牽引した。