ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

――3歳牝馬三冠レースの最終戦、GI秋華賞(京都・芝2000m)が10月15日に行なわれます。本来の舞台となる京都で3年ぶりに開催される今年、春の二冠を圧倒的な強さで制したリバティアイランド(牝3歳)が牝馬三冠を達成するかに、大きな注目が集まっています。

大西直宏(以下、大西)秋華賞はその話題で一色と言えますね。近年は超一流馬が牝馬から出てくることが多いですが、リバティアイランドも傑出した能力の持ち主であることに疑いの余地はありません。

 そして、今回のレースに向けての雰囲気、期待感からして、アーモンドアイ(2018年)やデアリングタクト(2020年)が牝馬三冠を達成した時と酷似しているように感じます。アーモンドアイ、デアリングタクトともに単勝は1倍台前半のオッズでしたが、おそらくリバティアイランドも同様の支持を集めるでしょう。

 GI桜花賞(4月9日/阪神・芝1600m)、GIオークス(5月21日/東京・芝2400m)で、皆がこの馬の驚異的な強さを見ていますからね。ほとんどの競馬ファンはリバティアイランドの「三冠達成は当然」と考えているのではないでしょうか。

――大西さんはいかがですか。リバティアイランドに不安を感じる部分などはありますか。

大西 正直に言って、弱点は見当たりませんね。桜花賞では馬が行く気にならず、後方からの競馬になりましたが、オークスでは一転、6番手につけて流れに乗った競馬で圧勝しました。

 もしポジションを取りに行けない馬のままであれば、京都の内回りコースには一抹の不安を覚えたと思います。でも、オークスで自在性があることを証明。

ああいった競馬もできるのであれば、今回の舞台も難なく対応できるでしょう。

 デビュー2戦目のGIIIアルテミスS(2着。東京・芝1600m)で脚を余して敗れた経験がありますが、主戦の川田将雅騎手はあの一戦を教訓にして、以後(他馬から)包囲される状況を避けるように騎乗しているように思われます。その意識があれば、どんな枠順からでもしっかりと対応してくれるのではないでしょうか。

――誰もが認める強い馬が1頭いる場合、他のジョッキーはどういった意識でレースに臨むのでしょうか。

大西「負けてもともと」という開き直った気持ちから、思いきった乗り方ができやすくなります。

僕も一度、秋華賞で三冠馬が誕生したレースに騎乗したことがあります。スティルインラブが勝った2003年のレースです。

 その時、僕は12番人気の伏兵マイネサマンサという馬に騎乗。跨って具合のよさを感じたので、「一発を狙ってみよう」と思いきって逃げて5着入線を果たすことができました。

 4コーナーを回るところで(後続を)引き離せたので、本気で一瞬「勝てるかも」と思いましたが、やっぱりスティルインラブとアドマイヤグルーヴ(2着)は強かったですね。それでも、2頭に不利などがあれば、勝つチャンスもあったと思います。

 その経験から、気楽な立場で思いきった騎乗ができる馬に乗った際は、予想外の結果をもたらす可能性があることを知っています。今年の秋華賞でサプライズがあるとしたら、こういうパターンではないかと睨んでいます。

――では、今年の秋華賞でそういった可能性のある馬、特に注意を払っておきたい穴馬候補はいますか。

大西 僕が注目しているのは、グランベルナデット(牝3歳)とコナコースト(牝3歳)の2頭。どちらも、前走で人気を裏切ってしまった馬です。

三冠牝馬誕生に注目の秋華賞 一発に期待なら思いきった騎乗がで...の画像はこちら >>
 グランベルナデットは、前走のGII紫苑S(9月9日/中山・芝2000m)で1番人気に推されながら10着と大敗を喫しましたが、2番手から抜け出した春のリステッド競走・忘れな草賞(4月9日/阪神・芝2000m)の勝ち方が強く印象に残っています。

 同馬は、前々でスタミナを生かす騎乗で真価を発揮するタイプ。前半1000mが58秒1のハイペースで前崩れの展開となった紫苑Sは、明らかに流れが向きませんでした。この一戦だけで見限ることはできません。

 春の時点で、鞍上の松山弘平騎手が同馬の能力を高く評価。人気がなくなる今回は思いきった騎乗を見せる可能性があります。逃げ馬不在の組み合わせですから、場合によっては逃げる競馬をしても面白いかもしれません。

 コナコーストは、桜花賞でリバティアイランドに僅差の2着と奮闘。その結果から、オークスでは3番人気に推されましたが、同レースではスタートで出遅れて位置を悪くしてしまい、先行力を生かすことができず7着に敗れました。

 しかし、桜花賞まで鞍上を務めていた鮫島克駿騎手に手が戻る今回は、積極的な競馬を仕掛けてきそう。直線で早め先頭に立って押しきりを図った桜花賞の時のように、早め、早めに運んで逆転を狙ってくるのではないでしょうか。

 秋華賞ではこの2頭に一発の魅力を感じています。そして、今回の「ヒモ穴馬」にはより大穴への期待を込めて、グランベルナデットを指名したいと思います。