星野伸之が語る来季のオリックス

投手編

 他チームを圧倒する投手力を擁してリーグ3連覇を果たしたオリックス。しかし、今オフは大黒柱だった山本由伸がポスティング制度でメジャー移籍を目指しているほか、11勝を挙げた山崎福也がFAで日本ハムに移籍。

新たな先発ピッチャーの台頭が期待される。

 長らくオリックスのエースとして活躍し、引退後はオリックスの投手コーチも務めた星野伸之氏に、期待の若手や新戦力のピッチャーなど、来シーズンの先発候補について聞いた。

山本由伸・山崎福也の穴を埋めるのは誰か 星野伸之が考える来季...の画像はこちら >>

【山本由伸が絶賛する齋藤響介はどんな投手?】

――今年のオリックスは山下舜平大投手や東晃平投手らが台頭し、リーグ優勝に大きく貢献しましたが、他に星野さんが注目している若手ピッチャーはいますか?

星野伸之(以下:星野) 高卒ルーキーで9月に一軍初登板・初先発を果たした齋藤響介(2022年ドラフト3位/盛岡中央高)に注目しています。特に高めの真っ直ぐに伸びがあって、ホップしているような印象がありますね。それと、真っ直ぐとスライダーの腕の振りが同じなので、バッターは惑わされるんじゃないかなと。由伸も「総合力のあるピッチャー」と絶賛していたようですが、それも頷けます。

―― 一軍初登板となった9月26日の西武戦では、4回2安打無失点。

栗山巧選手から真っ直ぐで空振り三振を奪うなど、西武打線は齋藤投手の真っ直ぐに手を焼いているように見えました。

星野 そうでしたね。しっかりとストライクゾーンに投げ込めていましたし、コントロールもよかったです。中嶋聡監督はフォアボールを出すことを非常に嫌いますが、そこはクリアできているなと。ストライクを取ることを苦にしない感じでした。

 起用法が先発なのかリリーフなのか、という問題もあると思いますが、おそらく先発タイプでしょう。

初登板では4回でマウンドを降りましたが、5回、6回、7回とイニングが進んでも球威が落ちないか。試合後半の大事な場面で、力を振り絞ってギアを上げられるかといったところも、先発の適正を考える上で重要な部分でしょうね。

――球種はスライダー、フォーク、カットボール、カーブがあり、初登板の西武戦の球種の割合は真っ直ぐ約65%、スライダー約17%、フォーク約8%、カットボールとカーブがそれぞれ約5%でした。ピッチングの組み立てをどう見ていましたか?

星野 登板数が少ないですし、球種とそれぞれの割合を見ても、ウイニングショットが何になるかはまだわかりませんね。

 ただ、一軍初登板とは思えない落ち着いたピッチングをしていました。プレーボール直後の初球がすごくいいコースにズバッと決まっていて......今の若い選手は緊張とかしないんですかね(笑)。

今年の開幕投手を務めた舜平大も「そんなに緊張はしなかった」という談話を残していましたし。

――ちなみに、星野さんはプロ初登板の際に緊張しましたか?

星野 そりゃあ、しましたよ(笑)。プロ初登板や開幕戦はもちろん、シーズン中のどんな試合でも緊張していました。でも、齋藤みたいなピッチャーが出てくると、同じ若手の椋木蓮や曽谷龍平らも「負けていられない」という気持ちになると思いますし、いい刺激になるでしょうね。

 やはり今年にプロ1年目のシーズンを過ごした曽谷は、7試合に先発して1勝2敗となかなか勝てませんでしたが、打たれる中ですごくいい経験をしたと思うんです。そして、シーズン最後の試合でプロ初勝利を挙げた(10月9日のソフトバンク戦で6回1安打無失点)。

ひとつ勝てて来年へ向かうことができるのは、気持ちの上ですごく大きいです。

【"ポスト山本"=宮城とは決まっていない】

――山本投手と山崎投手が今年に挙げた勝ち星は合計27勝(294.1イニング)。ふたりが抜ける穴は大きいですね。

星野 それは間違いなく大きいです。その穴を埋める候補はここまで話した齋藤や椋木、曽谷をはじめ、たくさんいますが......由伸ぐらいの信頼度というのは当然難しい。舜平大や東もいいピッチャーなのですが、シーズンを通してローテーションを守った経験はないですから。なので、先発ローテーションを決めるのは難しい作業になると思います。

 それと、由伸は長いイニングを投げてくれていたので、由伸が投げる試合はリリーフを休ませることができていた。特に、長い連戦の最初の試合ではあまりリリーフを使いたくないのですが、来年は先発が短いイニングで降板した時のリリーフのやり繰りが課題になりそうです。

――カードの初戦など、山本投手が務めていたポジションを任せる一番手として考えられるのは宮城大弥投手でしょうか。

星野 実績から考えれば宮城でしょうけど、中嶋監督はあまり"線引き"をしないと思います。実績がなくても、いい球を投げていたらその投手を抜擢するはず。今年の開幕戦に、実績がない舜平大を抜擢したこともそう。

東がいい球を投げていれば、来シーズンは東がそのポジションを務めるかもしれませんし、その都度調子がいい選手を起用していくと思います。逆に、試合で投げさせてダメだと思えばすぐに別のピッチャーを試すでしょうし、思い切ったことをするのも平気な監督なので。

――今年に台頭した東投手はシーズン負けなし(6勝0敗、防御率2.06)。CSでも日本シリーズでも好投して勝ち投手になりました。来シーズンに向けて頼れる存在だと思いますが、どういった部分が優れていますか?

星野 三桁の背番号をつけている時(育成時代)に投球を見たことがあるんですが、カーブをほとんどストライクゾーンに投げ込めていたので、「支配下登録されるのも近いだろうな」と思っていたんです。ただ、予想以上に成長しましたね。

――カーブ以外にもカットボール(約14%)、ツーシーム(約7%)、スライダー(約10%)、シュート(約8%)、チェンジアップ(約8%)を投げますし、各球種の割合がほぼ均等なため、バッターはかなり惑わされるんじゃないかと思います。

星野 どの変化球も精度が高く、ストライクが取れる。さらに150km台中盤の真っ直ぐ(今年の最速は155km)を持っているわけですから、緩急も使えます。左のエースは宮城ですが、右のエースの座は東と舜平大が争うんじゃないかと思います。

【リリーフに回った山本、新加入の吉田の起用法は?】

――先発候補といえば、山岡泰輔投手はどう見ていますか?今シーズンは途中からリリーフに回りましたが。

星野 僕の考えでは、山岡はやはり先発のほうがいいです。今年の山岡は、序盤は防御率がよかった。一緒に勝ち星がつけば気持ちも乗っていけたと思うのですが、山岡が先発の時に打線が打てなかったですね。ローテーションの中で誰かがそうなってしまうのは、ありがちなことではあるんですけど。なので、山岡のピッチング内容が悪かったわけではないんです。

 ただ、他のピッチャーは勝ち星を積み重ねていましたし、精神的に難しい部分があったんじゃないかと。リフレッシュの意味もあってのリリーフ起用だったと思います。

――このオフに黒木優太投手とのトレードで加入した、元日本ハムの吉田輝星投手の先発もありうる?

星野 高校時代に伸びのあるすばらしい真っ直ぐを投げていたので、何が悪くて伸び悩んでいるのかは本人に聞いてみなければわからないのですが......僕から見た感じだと、力み過ぎているような気がします。ここ1、2年はほとんどがリリーフでの起用で、短いイニングを投げていたからそう見えたのかもしれませんが。

 真っ直ぐは150kmを投げる感覚ではなく、145kmぐらいを投げる感覚でいいんじゃないかと。それでバッターが振り遅れる感覚があれば球のキレがある証拠ですし、体力の消耗も少ない。力みが取れたら制球も安定します。その感覚が掴めたら先発も務まるのかなと。先発の場合は常に全力ではなく、要所要所でギアを入れていく意識が大事ですから。

 ただ、先発よりもリリーフに適正がある可能性もありますし、その場合は小木田敦也らを先発に回すことも考えるのか......。そのあたりは中嶋監督の眼力で判断すると思いますが、ほぼ7回まで投げてくれていた由伸がいなくなるので、リリーフは厚めにしておきたいところですし、判断はかなり難しそうです。

――オリックスは若くして完成度が高く、球威のあるピッチャーが次々に出てきています。吉田投手にしろ、現役ドラフトで加入した鈴木博志投手(元中日)にしろ、いい刺激を受けそうですね。

星野 そうですね。球が速くてストライクが入らないピッチャーは他球団にもたくさんいますが、オリックスの場合は球が速い上にコースに投げ切ることができるピッチャーが多く出てきています。口で言うのは簡単ですが、オリックスはそういうピッチャーを育成するためのトレーニング方法や育成メソッドが確立されているんでしょうね。中嶋監督は吉田や鈴木などにもチャンスを与えてくれると思いますし、競争心を持って高め合っていってほしいですね。

(野手編:オリックス打線は西川龍馬の加入でどう変わる? 打順や個々の役割を分析>>)

【プロフィール】

星野伸之(ほしの・のぶゆき)

1983年、旭川工業高校からドラフト5位で阪急ブレーブスに入団。1987年にリーグ1位の6完封を記録して11勝を挙げる活躍。以降1997年まで11年連続で2桁勝利を挙げ、1995年、96年のリーグ制覇にエースとして大きく貢献。2000年にFA権を行使して阪神タイガースに移籍。通算勝利数は176勝、2000三振を奪っている。2002年に現役を引退し、2006年から09年まで阪神の二軍投手コーチを務め、2010年から17年までオリックスで投手コーチを務めた。2018年からは野球解説者などで活躍している。