アジアカップ決勝トーナメント1回戦。日本の対戦相手は韓国ではなく、バーレーンとなった。

 韓国の日本に対するライバル心がどれほどなのかは定かではない。しかし、アジアナンバー1を懸けたこのアジアカップで日本に後れを取ることはできないのだろう。韓国も日本同様、この大会に可能な限りのベストメンバーを送り込んできている。

 欧州組は26人中12人。22人の日本に比べ占める割合こそ低いが、この中にはキム・ミンジェ(バイエルン)、イ・ガンイン(パリ・サンジェルマン)、ファン・インボム(レッドスター/ツルヴェナ・スヴェズダ)と今季のチャンピオンズリーガーが3人含まれている。ソン・フンミン(トッテナム)を加えた看板選手の比較では日本といい勝負、あるいはそれ以上になる。

 だがグループリーグ(グループE)の成績は2位(1勝2分け)。グループDで2位に終わった日本にお付き合いする恰好となった。

 グループDで1位通過を果たせば、決勝トーナメント1回戦で日本と対決することになる。韓国の2位通過は、ライバル国との早期の対決を避ける、意図的な作戦だった可能性もある。

 グループリーグ3戦目の相手は、2戦を終えて2敗と、その時、最下位に沈むマレーシアだった。韓国が1-0で折り返した前半の試合内容を見る限り、両者の間には大きな力の差が存在していた。

 だが後半、マレーシアが試合を2-1と逆転する。同時刻に行なわれているヨルダン対バーレーンの途中経過を踏まえると、韓国はこのまま終わればグループリーグを3位抜けすることになる。それではいくらなんでも格好悪いと踏んだのか、試合を3-2と逆転した。瞬間、グループ首位となり、決勝トーナメント1回戦で日韓戦が実現しそうなムードになっていた。

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 しかし、後半のロスタイムはたっぷりあった。事件が起きたのは通算105分。
UEFAクラブランキング2位のバイエルンという、韓国選手のなかにあって欧州の最上位クラブでスタメン出場を続けるキム・ミンジェが、軽率な、あるまじきフィードミスを犯す。シューターへのタックルも甘かった。3-3。韓国の2位通過はこの瞬間に決まった。

【大きいソン・フンミンの存在】

 実はヨルダンと戦った2戦目も怪しかった。前日、日本はイラクに敗れていた。

日本のグループ2位は決定的な状況になっていた。韓国がもしヨルダンに勝てば、3戦目の相手がグループ内で最弱のマレーシアであることを考えると、1位通過の可能性は濃厚となる。日本との対戦を避けるためには、勝つわけにはいかない。そんな思惑は、後半のロスタイムで2-2に追いつく試合展開と深い関係にあるように見えた。

 いずれにせよこの結果、日韓両国が直接対決する可能性は2月10日(現地時間)ルサイルで行なわれる決勝戦以外になくなった。お互いそこまで辿り着けるのか。

 英国ブックメーカー各社は、1番人気に日本、2番人気に韓国を推す。決勝対決の可能性は高いと踏んでいる。

 日本と韓国の1番人気、2番人気の予想は、開幕前と変化なしだ。だが、たとえば最大手のひとつウィリアムヒル社は、当初3.25倍対6倍だった両国の関係を、グループリーグを経たいま、2.62倍対4.5倍に変更している。より拮抗した関係にリセットした。筆者の印象も同様。

決勝で戦えばいい勝負になるのではないかと見る。

 布陣と選手の適性がマッチしたサッカー。森保ジャパンとは対照的なチーム。韓国をザックリと言えばそうなる。左ウイングに起用された南野拓実が居心地悪そうにプレーしたり、1トップ下に起用された久保建英が、左右に流れたり、大きく前後に移動するようなことがない。4-2-3-1がピッチ上にくっきりと表われる、均整のとれたサッカーだ。

 ポジション移動はある。エースのソン・フンミンは通常、大型の1トップ、チョ・ギュソン(ミッテラン)あるいはオ・ヒョンギュ(セルティック)の下(脇)でプレーするが、戦術的交代で左ウイングに移動するパターンが目立つ。3戦目のマレーシア戦ではトップ下で先発したが、後半、戦術的交代とともに左ウイングに移動した。

 先述の南野やかつての香川真司がそうであったように、無理に移動させられた感じではない。ソン・フンミンは本職の左ウイングのように、つまり三笘薫然とプレーする。1トップ脇でプレーする時とは、全く別種のテイストを発揮する。中央でも左サイドでも大黒柱になれている。つまり戦術的交代を機に攻撃のカラーは大きく変わる。韓国のいちばんの強みだと見る。

【FWは韓国、SBは日本】

 マレーシア戦では、左に回ったソン・フンミンに代わり、途中出場のファン・ヒチャンが中央でプレーした。プレミアリーグのウルブス(ウルヴァーハンプトン)でスタメンを張る実力者である。よってソン・フンミンが左に回っても、真ん中の攻撃はパワーダウンしない。

 1トップも先述のように大型のふたりを擁す。日本にはない魅力であることは言うまでもない。メリハリが利いているというか、バランスが取れているというか、彼らの存在が、立体感のあるオーソドックスな攻撃的サッカーを可能にさせている。

 右ウイングにはソン・フンミンに迫る実力者イ・ガンインが張る。左利きの右ウイングである。ここ1、2年の伸びは半端ではなく、安定感、プレーに幅が出ている。PSGではいまや不動のレギュラーだ。"韓国の久保建英"と言いたいところだが、クラブの格でレアル・ソシエダはPSGに劣る。久保はかつての同僚イ・ガンインに半歩リードを許した状態にある。代表チームでプレーする両者を比較すると特にそう感じる。ハマっているかハマっていないかの差になるが、これは小さな問題に見えて、サッカー的には大きな問題だ。

 守備的MFの2枚、イ・ジェソン(マインツ)とファン・インボムも好選手だ。特にチャンピオンズリーガーであるファン・インボムは、そのグループステージ、マンチェスター・シティ戦で魅せた、マンオブザマッチ級の高いパフォーマンスが印象に残る。来季はレッドスターから、リーグランク上位国の上級クラブへ出世を果たしているに違いない。

 日本は韓国にFWのタレントの数では負けていないが、バランスで劣る。中盤は互角。勝る点があるとすれば、サイドバック(SB)か。左のウ・ソヨン(蔚山)、右のキム・テファン(蔚山)あるいはイ・キジェ(水原)より、日本のSB陣のほうが若干今日的に見える。

 たかがSB、されどSB。サッカーはSBで決まる。欧州でよく耳にする格言を当てはめると、光明は見えてくる。

 もうひとつ特質すべきはポカの数だ。日本がグループリーグで許した5失点のうち、3失点がセットプレーからだったのに対し、韓国はミスというか、ポカが原因の失点が目立つ。マレーシア戦で犯したキム・ミンジェのプレーにそれは象徴される。2位通過を図るための手段という疑いは捨てきれないものの、韓国によくありがちなミスとも言える。

 冒頭で述べたように「日本とは好勝負になる」が筆者の見解だ。

 最後に韓国代表の監督であるユルゲン・クリンスマン。2006年ドイツW杯で、開催国ドイツ代表を率い、優勝を託されながら3位に終わった監督だ。その後任で2014年ブラジルW杯を制したヨアヒム・レーヴに比べると印象は薄い。だが、それまでドイツに蔓延していた守備的サッカーを攻撃的サッカーに転じた人物として、爪痕を残している。

 攻撃的サッカー系の監督に的を絞って探した2010年南アフリカW杯後の日本代表監督候補にも一瞬、クリンスマンの名前が挙がったことがある。久しく外国人を代表監督に据えていない日本にとっては、因縁を感じさせる相手になる。決勝戦が日韓戦になることを祈りたい。