W杯予選をどう戦うべきか(前編)

 開催国カタールの連覇で幕を閉じたアジアカップ。日本代表は「優勝候補」「史上最強」の呼び声も空しく準々決勝で惨敗を喫した。

いったい何がいけなかったのか。そんな総括もされないまま、来月にはワールドカップアジア2次予選が再開される。果たして日本は北朝鮮とのホーム(3月21日)、アウェー(26日)2連戦をどう戦うべきなのか。これまで長く日本代表を取材してきた4人のジャーナリストの提言とは――。

「苦戦必至の北朝鮮戦。思いきった登用が必要だ」
杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

 北朝鮮に敗れる可能性はゼロではないと心配するあまり、森保一監督が「ベストメンバー」を編成すれば、いっそう悪循環に陥るだろう。

5戦して3勝2敗に終わったアジアカップ。勝利した3試合、ベトナム戦、インドネシア戦、バーレーン戦も喜べない内容だった。この流れで北朝鮮戦に臨めば苦戦することは見えている。何かを変えなければならない瞬間を迎えている。

 監督交代のタイミングではある。もしユーロ(欧州における大陸別選手権)で優勝候補の大本命がベスト8に沈めば、解任劇は必ず起きるだろう。

メディアから森保監督解任論がチラホラ程度しか聞かれない日本は、そうした意味でバランス的に問題がある国だと言える。

日本代表は悪い流れを断ち切れるか W杯予選北朝鮮戦に向けて識...の画像はこちら >>
 日本サッカー協会しかり。田嶋幸三会長は「ドイツやスペインに勝ったことを、逆にやられたにすぎない」と評したそうだが、ドイツやスペインは監督を解任。けじめをつけた。両国を下し、続投という最高の評価を得た日本代表監督が今度は一転、アジア勢にまさかの敗戦を喫したわけだ。今度は森保監督が解任される番だと考えることに矛盾はない。

 誰かが責任を取るべきなのだ。あと1カ月あまりで任期が切れる会長を対象外とすれば、組織の順番から言えば、森保監督、反町康治技術委員長、山本昌邦ナショナルチームダイレクターの3人になる。

 サッカー的に言うなら筆頭は森保監督で、次に名波浩コーチ、前田遼一コーチになる。アジアカップで日本は何が悪かったのかと言えば、筆者の見解では攻撃だ。キチンとした攻撃ができず、悪いボールの奪われ方を繰り返した。秩序のない攻撃こそが主たる敗因だとすれば、両コーチはその役割を果たせなかったことになる。

「いい守備からいい攻撃へ」を掲げたのはいいが、その逆の追求が甘かった。「いい攻撃からいい守備へ」の概念に欠けた。ボールを奪うことを想定しながらの守備はできても、奪われることを想定しながら攻撃できなかった。言い換えれば、守りながら攻めることはできたが、攻めながら守ることができなかった。能天気な攻め、サッカーIQの低いサッカー。まさに秩序のない攻撃こそが最大の敗因だった。

【実力が互角なら新しい顔を】

 この課題を残したまま次に進むわけにはいかない。問題を解決できるスタッフで臨まないと、過ちは繰り返されると考えるのが自然だ。

 悪い流れを断ち切るためには、メンバーもいじらなければならない。アジアカップに欠けていた要素はセンタープレーヤーだ。センターフォワードはスピード系が多く、1トップ下もポストプレーが得意な選手はいなかった。鎌田大地不在の影響は大きかったのだ。

 前田遼一というかつてのポストプレーヤーがコーチでいながら、その重要性をなぜ監督に説かなかったのか。鎌田らを選外にした理由について森保監督は「所属チームとの兼ね合いを考慮した」と述べているが、これまでの経緯を見る限り、その鎌田評はけっして高そうに見えない。代わりのいない選手という認識が低い様子だ。南野拓実では弱い。久保建英では収まりが悪いのだ。

 もうひとつ、大きな問題は伊東純也。右利きの右ウイングがいなくなると、右ウイングは左利き(久保、堂安律)しかいなくなる。左ウイングは右利きしかいないので(三笘薫、中村敬斗、前田大然)、あらためて伊東の存在が貴重に見える。先のイラン戦(アジアカップ準々決勝)も、筆者はバランス的に右利きの右ウイング不在が響いたと見ている。

 ただし人材が皆無というわけではない。右ウイングには、イングランド2部で好調を維持する坂元達裕(コベントリー・左利き)を使ってみたい。堂安にはない縦に出るフェイントがある。加えて三笘的なクレバーさもある。課題だった得点力も急上昇している。

 ともかく、チームに刺激を与えるためには思いきった登用が必要で、実力が互角なら(48対52程度であっても)新しい顔を選ぶべきだと考える。そうでないとチームは循環しない。

 アジアカップの不成績をあえて前向きに捉えるならば、ヘンにチームが固まらずに済んだと言うことだ。2026年W杯から逆算したとき、ここでの成功体験は仇になる可能性が高い。

 現在は依存するものがない状態。ゼロからスタートをきることができるか。それができなければ森保監督は解任されるべきだろう。それこそが北朝鮮戦の見どころになる。

「欧州カップ戦に出場する従来の主力は招集すべきでない」
浅田真樹●文 text by Asada Masaki

 アジアカップでの準々決勝敗退で、日本代表の周囲にはにわかに重たい空気が漂い始めた。

 だが、身も蓋もないことを言えば、ワールドカップでドイツやスペインに起きたことが、アジアカップでは立場を変えて日本に起きただけのことだ。

 本来の実力はどうあれ、勝つこともあれば、負けることもあるのが勝負事。過度に悲観的になる必要はない。

 むしろアジアカップで本当に痛かったのは、優勝を逃したことよりも、戦力を底上げするための機会として、この大会を生かせなかったことだ。

 日本が戦ったアジアカップ全5試合のうち2試合以上に先発出場した選手は全部で17人いるが、そのなかでカタールワールドカップの登録メンバーではなかったのは、鈴木彩艶、菅原由勢、毎熊晟矢、中村敬斗、旗手怜央の5人。そのうち菅原と旗手はメンバー選考の最終段階まで残っていた選手なのだから、ワールドカップ後に加わったと言える戦力は、実質的には3人だけだった。これではあまりに寂しい。

 過去、日本が優勝したアジアカップを振り返ると、2011年大会は多くの若手選手が起用され、そこでA代表デビューを果たした選手もいたほどだ。その後、長くキャプテンとしてチームを支えた吉田麻也も、この大会が実質的なデビュー戦である。

 また2004年大会では、海外組からの招集がふたりだけに絞られたことで、それまで鬱憤をためていた国内組がここぞとばかりに奮起し、頂点まで駆け上がっている。

 つまり、それまで出場機会が少なかった(あるいは、なかった)選手を起用することで戦力の底上げを図ると同時に、彼らの高いモチベーションを生かして結果につなげる。それこそがアジアカップを戦ううえでの理想だったのだが、今回はというと、ワールドカップでの成功体験を引きずったまま、せっかくの好機をフイにした感が残る。

 しかし、だからこそ、来るワールドカップ2次予選では、その分を取り戻すためにも、従来の主力に頼った戦いは避けたいところだ。

【国内組を中心に戦うメリット】

 特に3月に行なわれる北朝鮮との2連戦は、各国のリーグ戦に加え、ヨーロッパのチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグが開催される週の翌週から行なわれることもあり、そこに絡んでいる選手は厳しい日程を強いられることになる。

 彼らを招集外にすることは、長い目で見れば日本代表にも大きなメリットがあり、今回こそベストメンバーを全員集合させるような招集はすべきではない。アジアカップでのショックから気持ちを切り替える意味でも、一度所属クラブの活動に集中させてあげることも必要だろう。

 北朝鮮との2連戦に臨むうえで参考にしたいのは、一昨年のE-1選手権である。

 この大会で日本は、香港、中国、韓国に3連勝して優勝しているのだが、その登録メンバーはひとりを除いてオール国内組。最後の日韓戦でも、お互いにベストメンバーではなかったとはいえ、よりベストに近い顔ぶれが揃っていた韓国に3-0と快勝している。

 当時のメンバーから、谷口彰悟、山根視来に加え、相馬勇紀、町野修斗がワールドカップメンバーに選ばれたことは、ここでの成果が後押しになったと考えていいだろう。

 国内組中心であれば週末のJリーグ終了とともに多くの選手が揃って国内キャンプを開始できるうえ、慣れ親しんだ環境で準備したうえで、まずホーム(国立)で戦えることのメリットは大きい。

 5日後に平壌で行なわれるアウェーゲームは、さまざまな意味で相当なプレッシャーにさらされることが予想されるが、北朝鮮は日本との時差がなく、国内組の選手であれば移動や時差調整の負担が小さくて済むこともメリットになる。

 もちろん、海外組であっても、小川航基(NEC)や渡辺剛(ゲント)らの新戦力候補にはチャンスがあってもいいが、従来からの主力、特にUEFAの大会に出場するクラブの選手は、一回休みに。

 ワールドカップで世界中を驚かせ、その後も親善試合でドイツを返り討ちにするなど、息つく暇もなく突っ走ってきた選手たちにとっても、日本代表を一度外から見てみることは、頭のなかを整理するいい機会になるのではないだろうか。
(つづく)