また、話がうまくなってきたな──。

 ......と、そんなことを昨日のバスケットボール男子日本代表の公開練習時、金近廉(千葉ジェッツ/SF)と川島悠翔(NBAグローバルアカデミー/PF)のふたりの若者に話を聞いていて、思った。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 金近と川島は現在、それぞれ20歳と18歳でしかないが、以前と比べてずいぶんと言葉が淀(よど)みなく出てくることに気づく。以前と比べて......とは言っても、それは1年前~半年前といった少し前のことでしかない。それほどまでに、若者は短い間に伸びていく。

渡邊雄太のように日本バスケ界の至宝となるか 金近廉(20歳)...の画像はこちら >>
 将来を嘱望される金近と川島は、2月22日・25日に行なわれるFIBAアジアカップ予選のグアム戦と中国戦へ向けての直前合宿に招集されており、試合出場も濃厚だ。

 昨年のワールドカップで48年ぶりに自力でのオリンピック出場権を手にした日本にとって、この予選の2試合はどちらかというと今夏のパリ大会へ向けての調整と、選手間の競争の場という意味合いが強い。

「このままだと8月のワールドカップなど、自分はまだそのレベルに達していないと思いました」

 昨年4月、所属していた東海大学を中退して千葉ジェッツへ加わる決断をした金近は、当時このように話していた。だが、そこからまだ1年も経っていないものの、今シーズンBリーグデビューを果たした男は、自らの成長に自信を深めている。

 金近にしても、川島にしても、話すのがうまくなったというのは、自分たちのプレーに対しての自信の向上の表れだ。

「Bリーグのシーズンが始まって、国際試合(東アジアスーパーリーグ)や天皇杯もあり、本当にたくさんの試合をやっていくなかで自信がついてきています。パフォーマンス的にも、1年前の代表デビューをした自分と比べても、ぜんぜん違うと思います」(金近)

【衝撃的なデビューから一転して代表落選の挫折】

 ワールドカップなどのレベルにはまだ達していないと、若き196cmのスモールフォワードは話していたが、それでも同大会前の合宿に招集されて、直前までメンバーに残った。

 金近がメンバーから外れたことについて、トム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)は「ギリギリだった」と話した。

「ギリギリ」とは「惜しかった」という意味に違いないが、一方でホーバスHCは金近本人に「もっとできる選手だと思っている」と落選時に伝えている。

もちろんそれは、金近の才が大きいからこその言葉だったはずだ。

 昨年2月に行なわれたワールドカップ・アジア地区予選でA代表初出場を果たした金近は、イランとの試合でいきなり6本の3Pシュートを決めるなど、計20得点の衝撃的なデビューを飾った。しかし、ワールドカップ直前の強化試合では、なかなか数字を残すことができなかった。

「あの期間は思うようにプレーができなくて、3Pの確率もあまりよくなかった。うまく修正できませんでした。それでもトムさんがそういう評価をしてくれたので、救われたというか、もう1回がんばろうという気持ちになれました」(金近)

 今シーズンのBリーグでは39試合中37試合に出場(2月20日時点)し、最大の武器である3Pは39.4パーセントという高い確率を叩き出している。

 金近いわく「吉井(裕鷹/アルバルク東京)さんや馬場(雄大/長崎ヴェルカ)さんのように、ペイントの中でディフェンスでもオフェンスでも戦えるような」幅の広いプレーができるようになることで、パリオリンピックの代表選手となれる可能性も大きくなってくるだろう。

 一方、もうひとりの逸材ではある川島は、金近よりも2歳年下で、もちろん経験も浅い。しかし、才能・伸びしろという点では、金近を凌駕する逸材と言っていい。

「前回よりも、もうちょっと自分をアピールできているのかなと思います」

 代表合宿時にそう話す川島の声は、以前ならばもっと細かったはずだと思ったが、今はそのようなことはなく太くなった。こちらも自信の現れなのだろう。

【NBAグローバルアカデミーでもトップの身体能力】

 地元の群馬を離れ、2021年に名門の福岡大学附属大濠高校へ進学すると、1年生から主力として同年のウインターカップで全国制覇。その後はU16アジア選手権でMVPを獲得し、さらにはU17ワールドカップにも出場してきた。

2021年のU19ワールドカップにはチーム最年少の16歳で選出され、金近とともに世界を相手に戦っている。

 高校2年生終了後に大濠高を離れ、オーストラリアに拠点を置き、選ばれし者しか選抜されないNBAグローバルアカデミーに入学。その先の「NBA入り」という高みを視野に入れる。昨秋にはワールドカップメンバー以外の選手で構成された日本代表としてアジア競技大会にも出たが、次は"真の"A代表入りと世界大会の舞台に立つことを目標とする。

 世界から才能の集まるNBAグローバルアカデミーにおいても、川島の身体能力は上位だそうだ。なかでもジャンプ力はトップだという(正確に跳躍力が計測できる機器での計測で約56cmという高い数値を出したことがある)。

 当人は「ウェイト(トレーニング)と(帰国時の)日本食の成果です」と冗談めかしたが、現在の体重は93kgと記されている公式データも上回り、3ケタ前後まで増えているという。

 今は主にパワーフォワードポジションでプレーする201cmの川島にとって、「目下のところ」一番の武器は、自身が「継続して磨いてきた」というドライブインだ。「目下のところ」としたのは、この先、アメリカなど高いレベルの環境でやっていくためには、さらにオールラウンドな力量が必要となってくることを自覚しているから。

 また、日本代表での活躍を見据えても同様だ。ホーバスHCは川島について「上手になった」と評する一方で、「シュートはまだまだ。あのくらいの身長で3Pがあれば3番(スモールフォワード)でピッタリ」と話している。

 ちなみに、2022年開催のU17ワールドカップとU18アジア選手権に出場した川島は、1試合平均でそれぞれ5.9本、4.0本と多くの3P試投数を記録しているが、成功率はいずれも20パーセント台だった。

【アジアカップ予選は成長を見せつける絶好の舞台】

「将来、NCAAでプレーしたいと思っているんですけど、3Pはそういったところでプレーするにしても本当に大事ですし、自分の身長や体格が世界的に通用するかと言われたら、まだまだと思う。渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ)さんのように3Pは絶対に必要ですから、それができれば世界が広がると感じているので、もっと熱心に練習に取り組みたいなと思っています」(川島)

 かつては渡邊も、たとえば高校生にして日本代表候補になった頃は多くの記者に取材で囲まれ、質問を答えるのに苦戦する姿があった。

 そんな彼も、今や雄弁さとリーダーシップが魅力の選手となり、日本代表チームでも周りを牽引し、その人間力でNBAでプレーし続ける存在になった。

 渡邊をベンチマークにする──というのもおかしな話かもしれないが、金近・川島といった若く才能の豊かな若者を見ていると、やがて渡邊のように世界で戦えるプレーヤーになっていくのではないかという期待が膨らむ。

 今回のアジアカップ予選は、パリオリンピック出場を望む金近と川島にとって、自分たちの力量と成長を見せつけなければならない試合となる。