川井健太監督(サガン鳥栖)インタビュー(前編)

 川井健太監督(42歳)がサガン鳥栖を率いて3シーズン目になる。チーム戦力予算がJ1で下から1、2番目のチームながら、強豪とも堂々と撃ち合い、残留という結果を叩き出してきた。

多くの選手を成長させ、J1のより資金面で恵まれたクラブに数多く送り出している。

 川井監督のプレーコンセプトは、停滞感のあるJリーグで数少ない希望と言える。新シーズン、川井・鳥栖はどんな戦いをするのか?

――監督就任3年目、どう戦うつもりですか?

「ベースとなる考えは、監督就任1年目から変わっていません。ボールを大切に、ボールとともに前に行く、相手に主導権を握らせたくない、というもので、そこは変わらないですが、Jリーグ全体の傾向や外的要素でのアップデート、もしくは変化させることは必要かなと思っています」

――たとえば、どのような変化を?

「シンプルに、アタックのバリエーションを増やしたいですね。たとえば単純にクロスは2種類、基本的にインスイングとアウトスイングがあると思うんですが、そこからゴールを狙えるような選手たちも(補強で)そろったので」

――昨年のインタビューで、監督は「昔は得点を"感覚"と片付けていましたが、ロジックでとれる。定説を覆したい」と言っていました。

たとえばマルセロ・ヒアン(横浜FCから移籍)はゴールを決めてきた実績があるFWではなく、仮説・実証になりそうです。

「ヒアンは思っていたよりもいいですね。彼は本能型のFWだと思いますが、しっかりしたマークの外し方、ポジショニングから教えると、ゴールがとれそうな感じがします。ヴィニ(ヴィニシウス・アラウージョ、FC今治から移籍)も面白くて、スペインでもやっていた選手ですが、テクニカルで賢い。(モンテディオ)山形で半年ほど一緒にやったのですが、J1でもやれると思いますよ。ペナ(ルティエリア)でのシュート技術が高い。

一番の魅力は献身性。ラテン系の人というのは、献身が情熱になるんですよ。周りを動かすものがあって、僕とは性格が逆のタイプです(笑)」

【どのクラブも高い順位を求められるが...】

――守りの面では、センターバックも多く補強しましたね。昨シーズン、センターバックはJ2から新加入の山崎浩介が定着し、成長を遂げました。

「攻撃は後ろから始まるものだと思っているので、センターバックのところも去年は我慢したところがあったし、今年は補強しました。山崎はJ1が初めてだったので、最初は慣れないところもありましたが、後半戦からはしっかりとできていましたね。

その点は(昨シーズンの新加入だった)河原(創)も同じです」

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――昨シーズン、10得点を記録した小野裕二(アルビレックス新潟に移籍)が果たしていたリーダーの役割は大きかったはずです。

「そこはスタッフ間でも話しています。『一般的に各ポジションにリーダーシップを出せる選手がいたらいいね』と。それでチームの士気が上がることもあるので。ただ、リーダーシップのある選手を取ってくるのではなくて、難しい問題ですが、パーソナリティも作ればいいんじゃないかと、僕は思うんです。何人か集まったら、自然にリーダーって出てくるじゃないですか? もちろん、最初からリーダータイプって人もいるはずですが、出てくると思っているので、心配はしていません」

――個人的には、監督の価値は選手の成長に準じると思っています。

その点、長沼洋一の覚醒は特筆に値します。新シーズンは左サイドでの起用が有力のようですが。

「洋一に関しては、これくらいできるよね、とは思っていました。ただ、昨年10ゴールをとったから、今年も10ゴール以上かって言うと、そうではない。彼にも話しましたが、『数字に出ないところで、もっと貢献してほしい』と。彼は成長していますし、ハイスペック(どのポジションもできる装備がある)な選手です」

――報道では、「4位以内を目指す」とありました。

「明確に順位は言っていないです。『過去最高のチーム順位(5位)に近づければ』と答えたのが切り取られた形で(苦笑)。日本ではどのクラブにも高い順位が求められる。そこはヨーロッパと違うところで、(戦力次第で)『残留』でも十分に評価されるのですが......」

――「3年目の集大成」とも言われますが、欧州では「監督の旬は3年」とも言われます。

「気持ち的には1年目とまったく変わらないです。僕は今年と前年を比較しないので、『前年よりよくしたい』とよく言いますけど、自分の場合はあまりない。

もちろん既存の選手がいるから、1年目からやらないといけないことを、すでに出せる点で効率はいいかもしれません。ただ、ひとりの人間としては『真新しい気持ちのゼロから』。『3年目の集大成ですね』と言われると、言葉に乗って『そうですね』と答えることもありますが、あまり思っていません(笑)」

――監督のストレスからは脱しているように見えます。

「楽しみでしかないです。負けてダメなら終わる、というのは毎年同じことです。1年、2年と残してきたことがあるし、いろいろなチャレンジもしてきました。それがチームの財産になるかどうかは、その後でわかることですね」
(つづく)

Profile
川井健太(かわい・けんた)
1981年6月7日、愛媛県生まれ。現役時代は愛媛FCでプレー。指導者としては環太平洋短期大学部サッカー部監督を皮切りに、愛媛FCレディースヘッドコーチ、日本サッカー協会ナショナルトレセンコーチ、愛媛FCレディース監督、愛媛FC U‐18監督、愛媛FC監督、モンテディオ山形コーチを経て、2022シーズンからサガン鳥栖監督に就任した。