J1リーグ2024シーズン
天野 純インタビュー(横浜F・マリノス/MF)◆後編
前編◆横浜FMの天野純が味わった歓喜と辛酸>>
2023年、韓国Kリーグの全北現代でプレーしていた天野純は、苦しいシーズンを終えたあと、横浜F・マリノスへの復帰を決めた。2024年、チームは元オーストラリア代表のハリー・キューウェルを監督に迎え、新しいスタイルでスタートした。――F・マリノスへの復帰は、いつ頃決めていたのですか。
「最初は、蔚山のあと『戻ろうかな』と考えていたんです。でも、全北からオファーがあったので、自分がどれだけできるか、チャレンジしました。
(韓国に来て)3年目、レンタルで延長するかどうかという話になったんですが、その時にはF・マリノスに戻ることを決めていました。2年やったし、年齢的(32歳)にも絶対に戻らないといけないと思っていたので」
――韓国での経験を、チームにどう還元していくのでしょうか。
「(韓国での)2年間で自分の何が成長したのか、言葉で表現するのは難しいですね。正直なところ、やってみないとわからない。
でも、ベルギーでの経験は活きたし、今回も優勝に貢献したことでの自信とか、メンタル的な強さを得られた。それがどうプレーに出るのか、自分を見てもらう人に評価してもらえればいいかなと思います」
――F・マリノスのキャンプで練習しているなかで、自分のなかに変化を感じたりしましたか。
「余裕ですかね。いろんな経験をしてきているので、プレーでの余裕が育まれてきたのかなと思います」
天野は3年ぶりにF・マリノスのキャンプに参加した。
一方、チームのスタイルは変わりつつある。F・マリノスといえば流動的な攻撃が特徴だったが、キューウェル監督はポジショニングを細かく設定している。流動性を若干制限しつつ、攻撃の再現性を求めている。
――ビルドアップの際のポジショニングなど、かなり細かいと聞いています。実際、プレーしていて、どう感じていますか。
「ポジショニングへのこだわりがある監督ですので、今は言われたところと、どこまで許容されるんだろうというのを、監督の反応を見ながら試している感じですね」
――具体的には、どういう制限がかかるのですか。
「2シャドーでいうと、下がってボールを引き出す動きについては、あまりいいと思っていないようなので、『相手のボランチとセンターバックの間にポジションを取って、ボールを待っているように』と言われます。でも、出し手との距離が遠くなってしまうケースもあるので、そこは自分が落ちたほうがいいと判断した時は下がって受けに行きますけど、『そこで我慢するように』と結構厳しく言われますね」
――天野選手は、ボールに触れていたいタイプですよね。
「そうですね。今のスタイルだと我慢する時間が長くなりそうですけど、自分で考えてプレーするのもサッカーじゃないですか。監督の求めることプラス、自分のよさを出していけるように今、模索中です」
F・マリノスの前線には、昨季22ゴールで得点王に輝いたアンデルソン・ロペス、左にエウベル、右にヤン・マテウスの外国籍トリオが並び立つ。
――以前からですが、F・マリノスは昨季も攻撃は外国籍選手への依存度が高かったです。
「昨年は、攻撃のところでは"前3人にお任せしますので、行ってらっしゃい"みたいなところが多く、逆に前線の連係で崩すシーンが少なかったので、攻撃が面白くなくなってきているなと思いました。単独突破もいいけど、攻撃の面白さって、即興で、コンビネーションで崩していくところにあると思うので、そこを作っていくのが自分の役割だと思っています。とにかく、前の外国籍選手に頼り過ぎないようにしていきたいですね」
――AFCチャンピオンズリーグ(ラウンド16)のアウェーのバンコクユナイテッド戦では、サイドからクロスに対してボックス内に3、4人が入っていく、得点の可能性を高める攻撃が見えました。
「サイドからのクロスに対して、3、4枚が入るように言われています。バンコクとの試合で、2点目の渡辺皓太のゴールは、まさに練習どおり。ニアでロペスが潰れて、ファーの皓太が決めたんですけど、そういう厚みのある攻撃からゴールが生まれるのはチームのフォーメーション、攻撃の特徴でもあると思います」
チームのシステムは、4-3-3、4-1-2-3を併用していく感じになりそうだ。天野は2シャドー、あるいはインサイドハーフでのポジションを任されることになる。3年前はトップ下で、主に攻撃での貢献が求められたが、今シーズンは攻守両面で強度の高いプレーが求められる。
――2シャドーも、インサイドハーフも、攻撃だけではなく、守備も要求されます。
「そうですね。トップ下の時は守備をサボるわけじゃないですけど、前からコースを限定して、あとは(後ろに)任せるみたいな感じだったんです。でも、今シーズンはポジションが違って守備に気を遣うので、攻撃とのバランスを考え、なおかつ自分のフィジカル面を上げていかないといけない。いざ攻撃という時、体力面での余裕がないと違いを生み出せないので」
――攻撃の際は、他の選手との違いを見せていくことが重要ですね。
「それが、このチームで自分が求められているものだと思うんです。最後のクオリティの部分、得点に直結するパスや自らのゴールとか、見ている人がワクワクするようなプレーをしたいと思っているし、しないといけないと思っています」
――そのために今シーズン、取り組んでいることはありますか。
「日本に帰って来てからいろんなトレーナーの方に見てもらう機会が増えたんですけど、一番大事だなって思ったのが、スプリント能力です。秋本真吾さんというスプリントコーチに見てもらって、フォームや足の運びなど教えてもらいました。筋力アップもしているので、それがどんな形でプレーに反映されるのか、個人的に楽しみにしています」
――今季、天野選手が目指すものは何になるのでしょうか。
「まずは、チームの優勝ですね。Jリーグでリーグ優勝の経験がなかったんですが、蔚山で優勝して、こんなにいいもんなんだって思ったんです。それをF・マリノスで実現したい。
個人的にはJリーグのMVPを獲りたいですね。僕は、これまでベストイレブンに入ったことがないんですけど、アウォーズを見ていると『いいなぁ』と思ったんです。特にMVPは輝いていて、カッコいいなぁと感じたので、絶対獲りたいですね」
天野は1月、横浜FCとの練習試合で中村俊輔と少し話をした。「韓国どうだった?」と聞かれ、自身のことなど近況報告をした。そのなかで中村が35歳の時に獲得したMVPの話もしたという。「今、いくつなの?」「32歳です」「まだまだいけるじゃん」と背中を押された。
――中村俊輔さんに言われて、さらに火がついた感じですか。
「俊さんに『まだいけるよ』と言われて、そのとおりだなって思いました。俊さんは僕の目標なんですよ。スペインから帰国してF・マリノスに戻って来てからの俊さんって、すごかったじゃないですか。
そうして、35歳の時、MVP(2013年)を獲った。自分も俊さんのように凄みのあるプレーを見せてチームを優勝に導き、なおかつ抜群の貢献度を結果として残す。そうしてMVPを獲る。そのために、自分は韓国から帰ってきたんです」
(おわり)
天野純(あまの・じゅん)
1991年7月19日生まれ。神奈川県出身。横浜F・マリノス所属のMF。2014年、順天堂大から横浜F・マリノス入り。2019年夏、ベルギーのロケレンに期限付き移籍するも、経営悪化で同クラブが破産。2020年には横浜FMに復帰した。2022年、韓国の蔚山現代へ期限付き移籍。チームのリーグ優勝に貢献した。翌年は同じく韓国の全北現代でプレー。そして今季、横浜FMに戻ってきた。