3月5日、レアレ・アレーナ。チャンピオンズリーグ(CL)ラウンド16、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は本拠地にパリ・サンジェルマン(PSG)を迎えたが、1-2とキリアン・エムバペの2得点で敗れている。
しかし、ラ・レアルのエースとしてピッチに立った久保建英の出来は、決して悪くはなかった。
ファーストレグに続いて、右サイドから攻撃を牽引。マーカーに入ったポルトガル代表DFヌーノ・メンデスの先手を取っていた。そして前半28分、ルーズボールの競り合いから先に体を入れてコースに入り、腕を使ってきたヌーノ・メンデスのイエローカードも誘発。これによって動きを封じ、コツコツと敵にダメージを与えていた。
前半アディショナルタイムには、右サイドでアマリ・トラオレのパスを受ける。思いきって寄せられないヌーノ・メンデスを完全に外し、鋭くカットイン。力強く左足を振って、ファーポストをかすめる一撃を放っている。ワールドクラスの香りがほのかに漂っていた。
「久保はとてもわんぱくで、ラ・レアルのチャンスを唯一、拵えていた。ボールロストもしていない。スペイン大手スポーツ紙『アス』も、敗れたチームの中で及第点を与えていたほどだ。
後半に入ってから、久保は周りとのリズムがなかなか合わずに孤立していた。しかし後半15分、アンデル・バレネチェア、ベニャト・トゥリエンテスが投入されたあたりから、再び攻撃の起点になっている。ヌーノ・メンデスを途中交代に追い込んでいる。
終了間際には右サイドで複数の選手を引きつけ、左足アウトで技巧的パス。それを持ち込んだトゥリエンテスのシュート性クロスを相手GKが弾き、こぼれ球をミケル・メリーノが左足で蹴り込んだ。
久保は、「スター軍団」PSGを相手にしても十分に脅威を与えていた。勝者になってもおかしくはないパフォーマンスだった。「悪くなかった」のは間違いなかった。
しかし、PSGには「世界最高」の濃厚な匂いをそこら中に放つ選手がいた。
【別格だったエムバペ】
「エムバペ、違うレベル」(『アス』)
「エムバペ、ベスト8に値する働き」(スペイン大手スポーツ紙『マルカ』)
「エムバペ、アノエタ(レアル・ソシエダのスタジアムの古くからの呼び方)の人々に夢見ることすら許さず」(スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』)
各紙の見出しが表わしているように、キリアン・エムバペは異次元の存在だった。ボクシングでたとえるなら、久保がジャブやコンビネーションのうまさで玄人を唸らせ、ボディブローで確実に相手の足を削って苦しみを与える一方、エムバペは一発のパンチでノックアウトするパワーを持っていた。
エムバペを擁するPSGの軍門にくだり、久保のCLは終わりを告げた。もっとも、ベスト16という結果は悲観することではない。むしろ、祝福すべきだろう。
グループリーグ、ラ・レアルは昨シーズンのファイナリストであるインテルを抑えてトップ通過したが、その躍進の中心は久保だった。ダビド・シルバが引退し、アレクサンダー・セルロートが移籍するという計算外のなか、開幕からチームを引っ張ってきた。
久保は主力としてベスト16まで勝ち抜き、それは中村俊輔、本田圭佑、長友佑都、内田篤人、岡崎慎司、鎌田大地といった過去の日本人チャンピオンズリーガーとほぼ同じ境地に達した。22歳という年齢で、ここまでたどり着いた選手はいない。控え目に言って、快挙である。
しかし、エムバペが映し出した現実もあった。W杯で2度ファイナリストになっているフランス人スーパースターは、来季レアル・マドリードへ移籍することが確実視されている。
はたして、久保はその領域に迫れるのか?
現時点でひとつ言えるのは、"挑戦権を得られるまでの選手になって、初めてのCLを終えた"ということだろう。
ラ・リーガは残り11試合。ラ・レアルはストライカー陣の不調が著しく、ブライス・メンデスも下降線で、来季のCL出場権の獲得はかなり厳しい。ただ、もし久保がその状況を好転させることができれば、過去の日本人選手をも凌駕し、エムバペと並ぶ立場になるのかもしれない。