ドゥンガインタビュー(2)

「黄金期」を築いたドゥンガが語る、ジュビロ磐田がJ2に降格し...の画像はこちら >>

(1)◆ドゥンガが日本でプレーしていた当時、「いい選手だな」と思った3人は?>>

――ドゥンガさんがジュビロ磐田でプレーしていた1995年~1998年の間に、いわばチャンピオンとしての礎を築いた磐田は、その後の1999年~2002年にかけて黄金期を迎えます。ドゥンガさんが磐田を離れたあとも含めて、チームの成長や変化をどう感じていましたか。

「変わっていこうとする時、最初はどうしても難しくて大変な時期もあるけれど、勝ち始めると、どんどん自動的に変わっていくようになるものだ。

 痛みはサッカーの一部だけれど、喜びはもっとずっと大きなもの。何より結果が出ること、すなわち、勝つことによって何物にも代えがたい幸福感を味わうことができるからこそ、その痛みを受け入れ、犠牲を払う甲斐があるということが理解できるようになる。

 プレーができるだけでもすばらしいことだし、幸せなことではあるんだけれど、みんなにわかってほしかったのは、勝つのはもっとすばらしいことで、勝ったらもっと幸せになれるよ、ということ。ジュビロの選手たちは、そういうことがわかるようになっていったと思う」

――ただ、磐田は2013年にJ1で17位となり、J2へ降格。その後もJ1定着がままならず、J2降格を繰り返しています。

その現状をどう見ていますか。

「う~ん、そうだな......、チームというのはトップに到達すると、『これで大丈夫だ』と思ってしまって、何かを変えようとか、何かをもっとよくしようという気持ちを忘れてしまうことがある。ジュビロも同じで、だから落ちていってしまったんだろうと、そんなことを考えながら見ているよ」

――ドゥンガさんの現役時代を振り返ると、クラブ別の出場試合数は1988年~1992年に所属していたフィオレンティーナ(イタリア)に次いで、磐田が2番目に多いです。自身のキャリアにおいて、やはり磐田は特別なクラブですか。

「もちろん、特別だ。特にジュビロが自分にとって大事なクラブなのは、自分が選手としてプレーすればいいと思ってここに来たわけではなく、自分の経験のすべてを伝えて、チームや選手が成長するのに貢献したくて来たからでもある。

だから、ここでプレーしていくうちに、ジュビロの選手が日本代表に入ったり、キャリアが上がっていったりすることが、自分にとってはすごく大事なことだったし、うれしかったんだ。

 あの頃は、チームの選手やスタッフはもちろん、シャチョー(社長)も、サポーターも、街の人も、みんながひとつになって勝つんだ、優勝するんだ、という目的に向かっていた。だから、当時の思い出が今も心に刻まれている。

 みんながひとつの目標に向かっていくというのは、やっぱり力を出すには大事なことで、どこかひとつのところだけが頑張っても優勝はできない。だから、みんなが本当にひとつになっていたあの頃はすごくよかった。みんながサポートしてくれるから、選手はプレーをすることだけを考えればよかったんだ」

――そんな磐田がJ2に降格したと聞いた時は、どんな気持ちでしたか。

「とにかく信じられなかった。ジュビロが持つ施設を含めたクラブとしての基盤もそうだし、ジュビロで仕事をしている人たちのことを考えても、あれだけのものがそろっていて2部に落ちるなんて信じられなかったね」

――昨年はブラジルでも、名門クラブのサントスが2部リーグに降格するというショッキングな出来事がありました。どんなに栄華を誇ったクラブでも、その強さを維持するのは簡単ではないということでしょうか。

「簡単ではないね。なぜなら、それらのクラブは、決してひとつの大きなミスによって2部に落ちるわけではないからだ。彼らは、あまり気づかないほどの小さなミスを毎日繰り返し、それがどれだけ大事なことを引き起こすかがわかっていない。

でも、その小さなミスの積み重ねで、最後は2部に落ちてしまうことになるから厄介なんだ。

 加えて言えば、トップにいたクラブが落ちていく時には、その前に"警告の数年"が必ずあって、ジュビロの場合もそうだし、サントスもそうだったけれど、何年か中位にいる時に、『これではいけない』と気づかなければいけなかったんだ(磐田の2007年~2012年のJ1での順位は、9位、16位、11位、11位、8位、12位)。

 たとえば、20クラブ(のリーグ)であれば10位くらいのところに何年かいたら、その間に上位に戻ろうとしなければいけない。そこに注意を払えないと、重なったミスはどんどん大きくなり、気がついた時には(2部に)落ちている。雪だるまみたいにね」

――"警告"を受けている間に、目を覚ませるかどうかが重要なのですね。

「最初に中位になった時には、『まあ、今年はよくなかったけど、来年は巻き返そう』と思う。

でも、それが続くと『ああ、今年も落ちなかったな』と、その状況に慣れてしまい、気がつけば"落ちないために戦うチーム"になってしまうものなんだ」

――かつての黄金期を知る者としては、磐田が"落ちないために戦うチーム"であっては寂しい。今後の磐田に必要なことは、どんなことですか。

「それに答えるのは難しい。ただ、そのためにはまず、一人ひとりが自分のやることに毎日ベストを尽くさなければいけない。簡単なことであっても、昨日よりもっとよくするにはどうするか、何をしなければいけないかを考えて、すべてに全力を尽くしていくことだ。

 誰もが『できる限りのことはやっているよ』と言うかもしれないけれど、できる限りのことではなく、勝つために必要な最大のこと、最高のことをやらなければならないんだ」

――これくらいでいいと思ってはいけない、と。

「どんなスポーツでもチャンピオンを目指したいなら、大事なのは言い訳しないこと。何か悪いことが起きた時、それを正当化せず、毎日ベストを尽くすことだ。

 マイケル・ジョーダンだって、毎日練習を続けたから、あれだけの選手になれた。だから、どのスポーツの選手でも、毎日ベストを尽くして、もっと完璧に近づけようと思ってやらなければならない。

 何かあった時に、「だって、誰々がこうしたから」とか、「だって、何々がこうなったから」とか、自分以外のことに言い訳を求めて自分の失敗じゃないと自身を正当化しがちだが、誰々や何々は関係ない。

 常に自分に目を向け、自分のことを語り、よりよくなるために必要なことをやらなければいけないんだ」

(つづく)◆ドゥンガが指摘する今の日本代表に欠けているモノ>>

ドゥンガ
1963年10月31日生まれ。ブラジル出身。ブラジルの名門クラブでプレーしたあと、イタリア、ドイツのクラブで活躍。ブラジル代表でも奮闘し、1994年W杯ではキャプテンを務めてチームの優勝に貢献した。1995年夏、ジュビロ磐田入り。強いリーダーシップを発揮して、1997シーズンにはジュビロを初のリーグ王者へと導いた。引退後は、ブラジル代表監督など指導者として手腕を揮った。