<浮かれていない>
それが、ミックスゾーンを通る選手たちに共通していた点だろう。この日の勝利そのものに、大きな意味はない。
「8大会連続のサッカー男子五輪出場」
今年7月に行なわれるパリ五輪への予選突破に向け、濃密な日々を送っているのだ――。
3月25日、小倉。U-23日本代表は、U-23ウクライナ代表を迎えている。結果から言えば2-0での勝利だった。
日本はウクライナが嫌がることを徹底していた。
では、パリ五輪欧州代表の狭き門を突破したウクライナを、日本は上回ったのか?
「噛み合わせがよかった」勝敗に関して言えば、そこに尽きるだろう。逆に3日前に対戦したアフリカのマリとは、相性が悪かった。身体能力のアドバンテージで押されたほうが、日本の選手たちは後手に回る。
「(前戦で敗れたのは)マリは身体能力の強さのところで。ウクライナはどちらかというと、日本と似ているプレースタイルでした。つなげてくるから、はめやすかったです」
後半3分、先制点を決めた佐藤恵充(ブレーメン)も、簡潔にそう語っていた。
もっとも、勝利は勝利で誇るべきである。
「内容は修正する点がまだたくさんありますが、前半は積極的に前から行けました。シュートも多かったですし、その精度のところは課題ですが......」
主力と言える藤田譲瑠チマ(シント・トロイデン)はそう言って、こう続けている。
「高い位置でボールを奪って、何度もチャンスを作り出せました。得点はなかなか入らなかったですが、ハーフタイムにも『焦れずに行こう』とみんなで話して、いい雰囲気でプレーできました。それぞれのポジションの選手がお互い話せているし、まとまりができてきて、うまく(プレスを)外されても、プレスバックでボールを奪い返してくれたり、プラスに捉えられる試合でした」
【ほぼ2軍だったウクライナ】
マリ戦と違ったのは、荒木遼太郎(FC東京)の存在か。トップ下に近いインサイドハーフとして攻撃を牽引。ゴールに向かう迫力があって、数少ない「予感」のある選手と言える。
「荒木はパス精度が高いし、スペースで受けるうまさもあるから、自然とボールが集まる」(MF藤田)
荒木は、ライン間でプレーする技術やタイミングに長けている。
もうひとり、その荒木と交代で入って2得点目を決めたMF田中聡(湘南ベルマーレ)も、パリに向けたキーマンになるかもしれない。ライン間にボールを入れるのも、自ら入るのもうまい。戦術的スキルが非常に高い MFだ。直近では浦和レッズ戦でアンカーとして出場、名だたる選手たちを翻弄するようにラインを破るパスを連発し、自らもフィニッシュに絡んでいた。
ふたりのように、楽しみな素材も出てきつつある。
ただし、ウクライナ戦の勝利で「日本はやっぱり強かった」という"祝祭"ムード"は危険である。
そもそも、ウクライナは2軍に等しい陣容だった。欧州のパリ五輪予選にあたる2023年のU-21欧州選手権、準決勝のスペイン戦(開催国フランスをのぞき欧州の五輪出場枠はこの大会の上位3カ国)の先発11人で、今回先発出場したのはDFオレクシー・シチのみ。フル代表がEURO2024出場をかけたプレーオフを戦っていることもあって、"発掘型"の編成で、主力は招集できなかったのである。
チャンピオンズリーグ(CL)にも出場していた国内最強のシャフタール・ドネツクのアルテム・ボンダレンコ、ヘオルヒー・スダコフ、ダニロ・シカンなどは日本戦に帯同していない。
そしてポルトガルの名門ベンフィカの正GKで、CLでは久保建英のレアル・ソシエダとも対戦していたアナトリー・トルビンも、今回はメンバー外。フル代表のレギュラーの座を、レアル・マドリードの正GKアンドリー・ルニンと争う逸材である。ちなみにベンフィカの第3GKが、この日先発した小久保玲央ブライアンだ。
今後も、日本は地に足をつけた戦いをすべきだろう。
来月、カタールで開催されるU-23アジアカップで、日本はパリ五輪出場をかけて戦う。中国、UAE、韓国と同じグループ。ウクライナとは違い、「引いて守ってカウンター」の日本対策を講じてくるはずで、ウクライナ戦とはまったく違った試合展開になるはずだ。
日本はそこで勝機を見出せるか。ひとつの救いは、選手自身が「テストマッチはあくまでテスト」と割り切っている点だろう。
「モチベーションはどの試合も一緒。いつでも選ばれたら、その準備はできている」
荒木の泰然とした言葉は、決戦に向けて頼もしい響きがあった。