ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

――今週は、牡馬クラシック第1弾のGI皐月賞(4月14日/中山・芝2000m)が行なわれます。本命不在の「大混戦」という下馬評ですが、メンバーをご覧になって、大西さんはどんな印象をお持ちですか。

大西直宏(以下、大西)近年のクラシック戦線は、直前のトライアルを経ずに本番へ直行するパターンが増えていて、年々予想の難易度は増しています。今年もそういった臨戦の馬が多く、かなりの混戦だと考えています。

 こういった面々が争う場合、最も難しいのが"展開面"の読みです。昨年も「どういう展開になるのか」と、相当頭を悩ませました。それにしても、まさか前後半で3秒以上も違う前傾ラップになるとは思っていなかったので驚きました。

 どの馬にもチャンスがある混戦となった場合、ジョッキーたちのなかで勝ち急ぐ気持ちが生じるため、思わぬペースになることがしばしばあります。

したがって、今年も展開をどう読むかが、馬券的中への大きなポイントになるのではないでしょうか。

――展開で言えば、今年の3歳中距離重賞ではスローペースのレースが目立っていました。

大西 ステップレースでは、どうしても「(馬に)競馬を教え込みたい」という騎手の意識が働き、折り合いを重視した競馬が多くなりがちです。そうした影響もあると思いますが、今年は確かに全体的にスローで流れる競馬が多かったですね。

 特にGIII共同通信杯(2月11日/東京・芝1800m)とGIIスプリングS(3月17日/中山・芝1800m)がそうでした。極端なスローペースとなって、ともにラスト2ハロンで1ハロンずつ10秒台を刻む"ヨーイドンの競馬"。

それは、非常に珍しいことです。

 こういう競馬での成績がクラシックにつながるのか? その点、僕は懐疑的な見方をしています。

――展開を読むうえでは、各々のジョッキーがどんな作戦でくるのか気になるところですが、皐月賞では初めてコンビを組む人馬が多いので、それもまた読みづらいのではないですか。

大西 まさしく今回、それが頭を悩ませる最大の要因です。今年のメンバーでデビューからずっと同じコンビで臨むのは、たったの3頭しかいません。人馬の信頼関係(=騎手の騎乗馬に対する理解度)が築かれていないレースでは、極端なペースになりやすいので、余計に注意が必要です。

 それでも、今年の皐月賞は前哨戦の傾向からして、僕はハイペースではなく、スローペースで流れる可能性のほうが高いのではないかと考えています。

――実際にスローの展開になったとしたら、注意すべき穴馬はいますか。

大西 メイショウタバル(牡3歳)が逃げる競馬をしたら、とても面白い存在と考えています。

 同馬に注目したのは、2走前の1勝クラス・つばき賞(2月17日/京都・芝1800m)の時でした。前半は押し出されるような形で前に出て、途中から他馬がスローを嫌って先頭に立ちました。

 メイショウタバルはそれをやり過ごして、中盤は2~3番手をキープ。

そこから、4コーナー手前で再び先頭を奪い返して、後半4ハロン45秒4という速いペースを押しきり勝ちしました。なかなか味のある競馬で、機動力の高さを感じさせました。

 前走のGIII毎日杯(3月23日/阪神・芝1800m)では、最初から最後までハナを譲らず、逃げきる競馬でしたが、中身はとても濃かったと思います。僕がとりわけ驚いたのは、ラスト2ハロン目の1ハロンで"10秒9"という目を見張るラップを刻んだことです。

 重馬場でタフな馬場状態のなか、逃げた馬が残り2ハロンという時点でこれだけの速いラップを刻めるのは、それだけ余力があったということ。この馬のスピード持続力を証明しています。

大混戦の皐月賞は前哨戦の傾向からスローペースを想定 注意すべ...の画像はこちら >>
――大西さんは1997年の皐月賞をサニーブライアンで制しています。それも"逃げ→2番手→3角先頭"という出入りのある展開を押しきっての優勝でした。

大西 純粋な逃げ馬だと、一旦自分のリズムを狂わされると集中力をきらすことがあります。でも、サニーブライアンはそれまでに差す競馬も経験していたので、一介の逃げ馬ではありませんでした。

 そしてメイショウタバルも、2走前のレースから自在性の高さを見せており、サニーブライアンと同様のタイプに感じます。

 しかも、前走の毎日杯では逃げる競馬をしながら、"差す競馬"をして快勝。

たとえるなら、昨年のGI菊花賞を勝ったドゥレッツァが見せた競馬に近いですね。

 今回鞍上を務める浜中俊騎手とは手が合っており、過去2戦2勝。この馬の長所を引き出す乗り方ができるジョッキーです。

 こういう機動力の高い馬がラクに主導権を奪って、逃げる競馬ができれば、かなりチャンスがあると考えています。ということで、この馬を皐月賞の「ヒモ穴」に指名したいと思います。