ロッテOB清水直行インタビュー 前編

今季の佐々木朗希について

 今季、ロッテの佐々木朗希は4試合に先発し、2勝1敗、防御率2.08(4月29日時点、以下同)。QS率(クオリティ・スタート率。

先発投手が6回以上を自責点3以内に抑えた場合に記録される)は75.0と及第点のピッチングを続けている。

 長らくロッテのエースとして活躍した清水直行氏に、ここまでの佐々木のピッチングや昨季との違いについて聞いた。

今季の佐々木朗希は「過去4年とは別人」 ロッテOB清水直行が...の画像はこちら >>

【過去4年と「別人」な部分とは?】

――今季の佐々木投手のピッチングをどう見ていますか?

清水直行(以下、清水) 4試合とも球数は100球前後で、2試合目以降は7イニング投げています。球数やイニングに関しては先発ピッチャーとして順調だと思います。

 あと、いい・悪いは別として、過去4年と比べると「別人が投げている」と言ってもいいくらい違います。出力を抑え、真っすぐは150km台中盤(平均球速155.2km)でスライダーが多めですね(約22%)。

――技術的な部分はいかがですか?

清水 技術的な部分で見るべきポイントは、真っすぐの球速と球質、それとフォークボールの3つだと思います。

 まず真っすぐの球速は、先ほども話したように出力を抑えていますが、「1試合100球以上」の球数で、ローテーションを守って1年間投げ切るための取り組みでしょう。僕の憶測ですが、昨季までは105球ぐらいまでが上限だったのが、今季は115球ぐらいまでと見ているんじゃないかと。120球だとちょっと多いと思うので。
 
 ふたつ目のポイントである真っすぐの球質ですが、僕はここが一番の問題だと思っています。出力を制御していることが影響しているのか、今季は投球フォームがよくない。それが、球質にも影響しているでしょうから。

――どういった部分がよくないのでしょうか?

清水 150km中盤のボールでもバットに当てられることが多く、140km台のフォークボール(平均球速142.6km)も簡単に見極められたりしているので、バッターからボールが見やすくなっているんだと思います。ボールが手から離れる時に左肩が落ちて一塁側に倒れていますし、体が早く開いてしまっているので、ボールの出どころが見やすくなっているはずです。

【今季の佐々木の課題】

――なぜ、そうなってしまっているのでしょうか?

清水 今季からスライダーを多投していることが関係しているかもしれません。縦ぎみに変化させるスライダーも投げていますが、縦の変化(フォークボール)を主体としてきたピッチャーが、それまであまり多くなかった横の変化の軌道をイメージすると、体が早く開いてしまうのかなと。

――ボールの見やすさに関わるとなれば、体の開きは直したほうがいい?

清水 あれだけのボールを投げていてもバッターに見切られているので、直したほうがいいと思います。ベンチから見ている小野晋吾投手コーチがどう感じているかわかりませんし、実際にバッターボックスに立ったわけではないのではっきりとは言えませんが、僕の見立てではやはり直したほうがいいんじゃないかと。

 投球フォームもそうですが、佐々木にとって何よりも大きな課題は「シーズンを通してローテーションを守り、規定投球回(143回)に到達すること」。

今季にそれを達成したら、それを何年続けられるのか。結局、先発としての評価はそこです。それを果たすためには、やはりピッチングを覚えていかなければいけないと思います。

――具体的に、どんなことを覚えなければいけないでしょうか。

清水 真っすぐとフォークでガンガン投げていたのを、出力を落としてスライダーも交えたピッチングスタイルになり、以前のように三振を狙わなくなっています。実際に奪三振率も下がっていますしね(奪三振率9.35。

昨季は13.35)。「そうしなければ体力的に1年間は投げられない」と考えて取り組んでいると思うのでいいのですが、たとえばインコースをしつこく攻める場面や、変化球などでかわす場面など、状況判断を的確にすることも必要です。
 
 また、右バッターに対しては、外一辺倒ではなくインサイドを"狙って"投げることも必要です。ここまでは、左バッターのインサイドには強い球を投げられるのですが、右バッターのインサイドにはあまり投げられていない。そこも課題だと思います。

【「1イニングでも長く」という意志が見える】

――3つ目のポイント、フォークボールについてはいかがですか?

清水 出力を落としたことによって落ちが悪かったり、それを拾われたりするケースが目立ちます。

(4月23日の)ソフトバンク戦では近藤健介をはじめ、何人かのバッターに拾われていました。落ちが悪いフォークボールは、バッターからすると打ちごろの半速球になってしまいますし、痛打されるケースが増えるのかなと。

 しかし大前提として、先発の役割は十分に果たしています。QS率もそうですし、成績的には2勝1敗ですが、全試合勝っていてもおかしくない内容でした。佐々木の場合は、投球の次元が違うので周囲が求めるレベルも高いということですね。

――清水さんは以前、佐々木投手が6、7回に交代する際の吉井理人監督や投手コーチとのやりとりで、「『ご苦労さん』と肩を叩かれて、素直に交代しているように見える」と話していました。

今季はいかがですか?

清水 今季は、1イニングでも長く投げようという意志が見えますね。昨季までは球数制限があって、本人も「このあたりで終わりだな」とわかっていたから、「今日はここまで」と言われた時に「やっぱりな」という感じだったと思います。

 しかし今季は、球数の上限を増やしているはずなので、たとえば6回終了時に「球数がまだ残っている」とわかれば、集中力を切らさずに続投する気構えでいる。そこは昨季と明らかに違う部分です。

 繰り返しになりますが、先発ピッチャーとしての評価の基準のひとつは、規定投球回に到達したかどうか。球速や奪三振率は彼の魅力ですが、本人は先発登板の回数を増やし、規定投球回に達することを優先していると思います。バッターの調子にも左右される勝敗数などよりもわかりやすいテーマですよね。今季のピッチングを見ていると、その部分に注力していることは明白ですし、今後も注目していきたいです。

(後編:吉井理人監督も反省した「継投ミス」をどう見た?「『誰が打たれるか』はとても大事」>>)

【プロフィール】
清水直行(しみず・なおゆき)

1975年11月24日に京都府京都市に生まれ、兵庫県西宮市で育つ。社会人・東芝府中から、1999年のドラフトで逆指名によりロッテに入団。長く先発ローテーションの核として活躍した。日本代表としては2004年のアテネ五輪で銅メダルを獲得し、2006年の第1回WBC(ワールド・ベースボールクラシック)の優勝に貢献。2009年にトレードでDeNAに移籍し、2014年に現役を引退。通算成績は294試合登板105勝100敗。引退後はニュージーランドで野球連盟のGM補佐、ジュニア代表チームの監督を務めたほか、2019年には沖縄初のプロ球団「琉球ブルーオーシャンズ」の初代監督に就任した。