3月8日、おおきにアリーナ舞洲。会場には6300人以上が詰めかけ、熱気に満ちていた。
メンバー発表が終わって、試合開始直前のひとコマだ。
髙橋藍(サントリーサンバーズ大阪)はネット側で、両手を口にやって息を吹きかけていた。そして両手の肌を擦り合わせる。手のひらから指先までの感覚は、命運を左右するだろう。
一方、西田有志(大阪ブルテオン)はいつものように闘志を燃やしていた。ライトから動物的跳躍で、左腕をしなやかに振る。床に叩きつけられて跳ね上がったボールは、命が吹き込まれたようだった。
「髙橋藍対西田有志の激突」――世間は人気スターの対決を煽り、試合前から興奮度が高まっていた。
パリ五輪でも日本を沸かせたふたりのスターが、それぞれサントリー、ブルテオンという強豪に所属し、SVリーグで首位争いを演じている。単なる1試合以上の価値があった。しかも、大阪のチーム同士の意地のぶつかり合い。両者はチャンピオンシップ進出を決めており、SVリーグ初年度王者をかけて雌雄を決することになるだろう。
民放のゴールデンタイムで放送されたド派手な開幕戦からしのぎを削り合ってきた髙橋と西田。前哨戦の決着はいかに――。
この日の試合結果から言えば、サントリーがブルテオンを3-0とストレートで下している。25-16、25-22、25-19と終始、ペースを握っていた。やや一方的な展開となった......。「非常に難しい試合で、こういう展開はわかっていました。そのなかで打開できなかったのは、このチームの弱さで。修正していかないといけません。相手は必ず自分たちの前に立ちはだかるチームで、どう打開していくのか、ひとりひとりが自覚していかないと」
会見で語った西田は、不甲斐ない負け方に、こみ上げる怒りの感情を必死に封じ込めているようだった。
「(試合開始直前のケガでトーマス・ジェスキーを欠いたが)やることは変わらない。ジェスキー選手がいようがいまいが、チームとして共通認識でやっているはずなので、"抜けたからできない"では勝てない。いないと勝てない、という方向性は変えていかないといけません。
【どこまで能動的に戦えるか】
ブルテオンは主体的に戦うことができなかった。主力の欠場は痛手だったが、サントリーも小野寺太志など主力をケガで欠いているだけに、言い訳にはならない。2セット目、西田が奮起した時間帯以外は、常に後手に回っていた。追い詰めながら、ドミトリー・ムセルスキーの一発に沈む。
「自分も含めて、受け身になりすぎていました」
西田はそう言って、反省を口にした。
「自分たちがやりたいバレーをできるか。やれない時にも、やる努力をする。そこができていなかったと思います。常に打開はできるはずで、アグレッシブなプレーが一番必要。組織として受け身に回ったら勝てない。単調なバレーでぶつかり合ったら相手が上手。アクセントを加えたバレーをしていかないと、打開できないのが現代バレーで。
その言葉は、今後の両者の戦いを左右するポイントになるかもしれない。劣勢を耐えしのぐのと、腰が引けた戦いは違う。どこまで能動的に戦えるか。
髙橋も試合後、西田と対になる証言をしていた。
「ブルテオンを相手に3-0での勝利は大きいですね。何より、いい流れでバレーができたし、自分たちペースだったことが今日の結果につながったと思います。ブルテオンにバレーをさせなかったのが勝因かなと」
髙橋はそうはっきりと言い、こう続けた。
「(ジェスキーの欠場で)打数的には(ミゲル・)ロペス選手が多くなるのは予想していました。ボールが集まったところ、佐藤(謙次)選手が止めてくれて(5本のブロック成功)、決定率も低かったはず。ミドルに対し、しつこくヘルプし、相手にプレシャーもかけていけました。自分たちの戦い方ができたことで、西田選手の攻撃決定率も落とせて......」
髙橋自身、持ち味のオールラウンドなプレーを発揮した。9得点のうち、バックアタックの6本中5得点は出色。
「(サーブは)ロペス選手に対する効果率は高かったのかなって思います。それで相手の攻撃枚数を減らせたし、サントリーはブロックにいい選手が揃っているので、貢献できたと思います。でも、今日は全員がよかった試合で、おかげで自分はレセプション、ディグに集中できました。他の選手が引っ張ってくれて、自分も気持ちが入ったというか」
髙橋はあくまで"チームの勝利"と強調していた。現代バレーは、組織が戦いのベース。それを揺るぎないものにするのがメンタルの部分だ。
「今は明日に対するイメージが一番大事ですね」
髙橋はそう言って、勝って兜の緒を締めていた。その緊張感こそ、「勝負の天才」と言われる所以である。
「今日はいい勝ち方で、自信を持っていいと思います。でも驕ってはいけないし、苦しい状況も想定しておかないと、押されたときに引いてしまうのはよくない。
バレーは、メンタル次第で天秤が一気に転ぶ。西田も、髙橋も歴戦の選手だからこそ、その怖さも面白さも知っている。
翌3月9日、サントリーはブルテオンに3-1で再び勝利した。25-20、26-28、25-21、25-19と、2セット目はデュースの末に落としたが、その後はうまく立て直し、前日の勢いを味方にしていた。その点、髙橋の読みどおりだったか。
一方、西田も17得点で、バックアタックは9得点と、飛行生物のように暴れ回った。サーブは5本失敗したが、それも際どいコースを狙い続けた結果だろう。攻めの姿勢は見せた。敗れたが、やはり首位チームのエースだ。
ふたりの勝負はまだつかない。4月にも再戦があるが、決着は5月のチャンピオンシップになるか。