【バスケ】富士通・町田瑠唯にふさわしい「史上最高のPG」の称...の画像はこちら >>

【「なんで止められないかというと......うまいからです」】

 32歳。8度のWリーグアシスト王。3度のオリンピック出場。

コートの隅々まで目が届いているかのように次々とパスを決める日本最高のポイントガード(PG)。WNBAでもプレーをした。

 なのに、町田瑠唯という選手に「老獪」や「熟達」といった形容がまったくといっていいほど、しっくりとこない。しかし、だからこそ、町田を日本の女子バスケットボール史上で特別な存在にしている。

 2024-25シーズンのWリーグの頂点を決めるファイナルが、町田の富士通レッドウェーブによる2連覇で終幕した。12月の皇后杯(全日本バスケットボール選手権)でも勝利しており、これで2冠を達成したことになる。

 昨シーズンの富士通は16年ぶりにリーグの頂点に立ったが、それ以前は準優勝に終わることが続き(町田が入団してからの3度のファイナル進出でいずれも敗れていた)、勝負弱い印象を残していた。

 それが一転、2年連続で頂点に立った。動力源は町田だと言っていい。リーグを見渡せばほかにも優れたPGはいるが、町田ほどチームの戦い方をそのまま体現する選手はいない。

 ファイナル開幕前。対戦相手のデンソーアイリスのキャプテン、赤穂ひまわりは攻撃の起点となる町田が要注意であるとした。

それ自体にはなんら驚きはなった。もっとも、町田が相手にとってそうした存在であることは今に始まった話ではない。他チームが手を尽くして対策を施しても、止められなかったというのが実情だ。

 なぜ、町田を抑えることが容易でないのか。そう問われた赤穂は「なんで止められないかというと......うまいからです」と返答に窮した。

 26歳の赤穂よりも9歳年長で言葉に長ける髙田真希にしても、同じ問いについて「なんですかね......」と考えをまとめるための間を取りつつ、次のように述べた。

「(町田とは)一緒に(女子日本)代表としてやることもあるのですが、臨機応変に対応してくるし誰とやっても噛み合うのが魅力的で、一緒にやったことがあるからこそすべてにスペシャルな選手で、難しい部分ではあります。でもあれを40分間続けられるかというとそうじゃないところもあるので、そういったところにチャンスがあるのかなと思いますけど......わからないです(苦笑)」

 ちなみに、その様子を横で聞いていた町田は照れているようにも見えつつ、やはりいつものようにニコニコと少女のような表情を浮かべていた。そんな表情の持ち主が、試合では相手の気持ちを打ち砕くようなノールックパスを決め、自身でも隙をついたシュートをねじ込むのである。

 だが、ファイナルでの町田は思いのほか、苦しんだ。翻すと、デンソーがよく対策を施した。速い展開の攻撃が得意な町田に対して複数のガード陣をひっきりなしにマークさせ、そのうえ、得意の2対2のプレーを封じた。

富士通が敗れた第2戦と3戦。町田はそれぞれ5、7ものターンオーバーをしてしまったのがその一端を示している。

 連敗を喫し1勝2敗とされた富士通は、あとがなくなった。しかしそこからの2戦、富士通の戦いぶりは変化した。「町田頼み」から離れたのだ。

 昨年のファイナルでは赤木里帆や内尾聡菜らが最終戦で活躍したことで優勝を果たしたが、それにより彼女らのような中堅以下の選手たちが自信をつけたことで、チームとしての厚みとたくましさを増した。富士通は町田、宮澤夕貴、林咲希の三巨頭の印象が強い。が、司令塔の町田からすればほかにも頼れる仲間が増えていた。町田は、ほかに任せる勇気を思い出したといったところだった。

 最終第5戦。追いすがるデンソーに対して赤木が次々と得点を重ね、押し返す。デンソーが赤木に対しての対応に苦慮していることを見て取った町田は、自らではなく赤木にボールを集めろとばかりのジェスチャーをしていたのが印象的だったし、仲間を信頼していたことの証左だった。

【童顔とニコニコした表情に中和されてしまう円熟のプレー】

【バスケ】富士通・町田瑠唯にふさわしい「史上最高のPG」の称号 ライバルも「なんで止められないのかというと...うまいからです」と脱帽
勝っても満足しない町田だが、そのプレーは「史上最高のPG」にふさわしいものだ photo by Kaz Nagatsuka

 町田は今シーズン、平均9.4を記録しキャリア8度目のアシスト王となったが、ファイナルでは相手の徹底マークの前に同7.2本に終わった。勝利した第4戦にいたっては3本のみと、彼女としては目を疑うような数字だった。だがそれは、彼女がひとりでチームを回す必要がなくなっていたことを指し示していたとも言えた。

 それでも、要所を締めるのは町田だった。パスを通すだけでなく少しでも隙があれば一気に加速し、レイアップで得点した。得も言われぬ安心感があるから、ほかの選手たちも躍動できた。

 富士通のBTテーブスヘッドコーチ(HC)はアシスタントコーチ時代を含めると10年間、町田とともに歩んできた。「パスがメイン」(テーブスHC)だった町田には常々、自身による得点も狙わなければだめだと説いてきた同HCだが、今の彼女については「点を取りにいくところが非常によくなったと思う。クラッチタイム(試合を左右する終盤の重要局面)での彼女のシュートには自信があります」と話した。

 しかし、真に相手に精神的打撃を与えるのは町田のパスからの得点だ。同じ試合の第4クォーター、残り7分半強。インバウンズプレーから攻撃を開始した富士通は、町田が中央から中に切り込み、相手の3選手を引きつけると、逆サイドの3Pライン外にいた宮下希保にふわりとしたパスをさばいた。

相手のブロックが来てはいたものの、宮下が迷わず放った3Pシュートはリングに吸い込まれ、11点差にリードを広げた。

 瞬間、宮下と町田は目を合わせながら大きな笑みを浮かべた。優勝を、連覇を大きく手繰り寄せるプレーだった。

 映像を見返しても、町田が宮下のことを見ているようには思えなかった。だが、見ていなくてもわかるのだ。

 コート上にいる町田にはどのような視界が広がっているのか、あるいは彼女の目線がどこにあるのか、知りたいと思うことはないだろうか。しかし町田にそのことを聞いても「なるほど、そうなのか」と合点がいくような言葉はなかなか出てこない。やはり、そこは彼女のもつ鋭敏かつ言語化の容易でない感覚的なものだということか。

「才能だよ」

 ファイナル初戦でパスを次々と決め富士通の連続得点を演出した場面について問われた町田が「シンプルに目の前のディフェンスを見て判断をしていた」という、至極もっともな回答をすると、テーブスHCがニヤリとほくそ笑みながら端的にそうつけ加えた。

 スポーツ選手を「才能がある」と評するのは、ともすればその彼、彼女の努力を鑑みないことになりかねない。だが、町田のプレーを目の当たりにして彼女にそれが備わっていないなどとは、とうてい言えないはずである。

 ファイナルが終了して、町田はプレーオフの最優秀選手とベスト5に選出された。

仲間がそうした賞をもらうと喜ぶのに、自身の名前が呼ばれると軽い困惑の表情を浮かべるのが彼女らしい。優勝をしてMVPに選ばれても、口をつくのは相変わらず反省と課題についてばかりだ。

「正直、優勝をしたのも私の力とかではなくて、本当にチームの全員が頑張ったからこその優勝ですし、私のMVPもみんなに獲らせてもらった気持ちでいます。まだまだやることが自分のなかではあるかなと思います」

 町田は昨夏のパリオリンピックに出場した。先発司令塔として出場し日本の銀メダル獲得に貢献した東京大会から一転、全敗を喫し「やりきれなかった」と失意を表した。そんな経験もまた、Wリーグでの優勝を再度、獲りにいく動機を高めたか。

 老獪や熟達といった形容は、彼女の童顔とニコニコした表情に中和されてしまう。だが経験を積み重ね、チームメートを信頼し、Wリーグ連覇を成し遂げた町田というPGが円熟の境地にあるのは間違いない。

 そして2度目の優勝は、彼女を日本女子バスケットボール史における最高の司令塔のひとりだという称号を確固たるものにした。

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