【女子選手のみのGⅠ開催】
思惑、作戦、展開。
3日間かけて争われる駆け引きの詰まったレースを制し、佐藤水菜(神奈川・114期)が2025年最初のGⅠ開催「オールガールズクラシック」の王座に輝いた。
オールガールズクラシックは、その名のとおり開催期間中は、女子選手のレースのみが実施されるガールズケイリンの祭典。
第3回となる今年の舞台は岐阜競輪場。距離は最もメジャーな周長400mで、クセが少なく標準的なバンクと言われているが、予選では強く吹く風が勝負の大きなファクターに。バックストレッチでは追い風となり選手のスピード感を狂わせ、ホームストレッチに入ると強い向かい風となって限界まで自分を追い込む選手のバランスを揺さぶる。レース後の選手は口々に風の影響を分析した。
そんな強風が吹きつける環境でも「風はあるけど、いいバンクコンディション」と言ってのけたのが、初日の「ティアラカップ」(※)で1着となった佐藤だった。23年秋の松戸開催でオールガールズクラシックのタイトルを獲得している佐藤は、約3カ月ぶりのガールズケイリン参戦となる。並行して取り組む自転車競技とは異なるギアとセッティングに体を適応させながらのレースとなったが、実力者ぞろいの特別競走に完勝。ここでも間違いなく「大本命」であることを印象づけた。
※ガールズグランプリ2024の1~3着の選手と、選考期間内の獲得賞金額上位者を加えた計7名による特別競走。この7名は2日目の準決勝に進む
【準決勝では児玉が勝ち切る】
順調さを極める佐藤に対抗しうる存在として最も注目されたのが、1年前に地元久留米でのオールガールズクラシックを優勝した児玉碧衣(福岡・108期)だ。初日で昨年終盤の停滞ムードを払しょくする9車身差での圧勝劇を披露。走行後には「今年一番の出来」と振り返り、唯一「連覇」への挑戦権を持つ立場として最高の仕上がりをアピールした。
そんなふたりの"女王経験者"による対決は、2日目の12R、準決勝で早速実現する。3番手につけた児玉に対して佐藤は車間を空けて5番手でラスト1周半へ。最後方からの久米詩(静岡・116期)の仕掛けに合わせて佐藤が上がっていくも、常に後方を気にしていた児玉が前に入るようにスパート。それならばと佐藤は大外から強襲したが、ゴール線を先に駆け抜けたのは僅かの差で児玉となった。
準決勝1位通過となった児玉自身が「抜かれたと思った」と振り返るほどの大接戦も、直接対決での先着は大きな意味を持つ。佐藤も「一番面倒くさい位置になって、(仕掛ける)場所もタイミングもなかった」と反省を口にした。1発勝負のレースを除けばここ数年常に1着を並べてきた佐藤にとって久々の2着での勝ち上がりは、十分に波乱と言える出来事だった。

【600mのロングスパート】
そんな布石が打たれた状態で迎えた本番。前日までとはうってかわって風はおさまり、最高のコンディションでレースはスタートする。昨年の決勝に続いて小林莉子(東京・102期)が先頭に立つと、児玉は2番手に。佐藤はその後ろの位置に着けたものの、細田愛未(埼玉・108期)、そして石井貴子(千葉・106期)に次々と並びかけられ、結果的に前日と同じ5番手まで位置を下げた。
前哨戦の再現かと思われたラスト1周半、打鐘を受けて全体が緩んだタイミングを見逃さず佐藤がスルリと先頭まで躍り出る。反応した児玉、そして梅川風子(東京・112期)も進出を開始するが、佐藤は後ろを振り返りつつペースを落とさず先行し続ける。
残り1周、まだ時折後ろを見ている。残り300m、まだ見ている。残り200m、遂に梅川が踏み込みかけると、佐藤も反応し猛然とラストスパート。残り600mから先頭に立ち続けたとは思えないような底力でスピードを上げると、一瞬並んだかに思われた梅川も、内を狙って仕掛けた児玉も、最後は佐藤の背中を見つめるしかなかった。


【チャレンジを止めない決意】
レース後の会見では「100点満点」とレース運びを回顧した佐藤。「自分は500mならめちゃくちゃ強い自信があって、600mから行けると判断した」「ある程度長い距離で戦ったほうが勝率が高い」と狙いをつけた先行策とロングスパートだったことを明かした。
準決勝の2着についても「やるせないよりも、こういうこと(負け方)もあるんだと思った」と振り返った女王。ガールズケイリンでは無双状態にあるからこそ、モチベーションとなる「自身の成長」を感じづらかったというトップ選手ならではの苦悩を吐露することもあった。そのうえで、前日の敗戦によって「自分が成長できる実感があって、ケイリンが楽しいと思えた。今後の人生に大きな糧になった」と笑顔を見せた。
これで早くも年末に平塚競輪場で開催される「ガールズグランプリ2025」への出場権を獲得。
「今年は新しいことにチャレンジして行こうと思っているので、体力面も強化して自転車競技との二刀流だけではなく、三刀流、四刀流で活躍して、GⅠも全部獲りたい」
強気な発言も、ガールズケイリン初のグランプリスラムも、彼女なら実現可能かも知れない。そう思わせるだけのすごみと強さが、今の佐藤には備わっている。
