梶谷隆幸×高森勇旗 ベイスターズ同期入団対談(全4回/2回目)

 昨年、18年のプロ野球生活で初めて優勝を味わった一方で、現役引退を決断した梶谷隆幸氏。CS、日本シリーズで躍動するかつての仲間たちを見つめながら、何を思ったのか。

また現役時代、どん底にいた梶谷氏を支えた盟友・高森勇旗氏の言葉とは?

梶谷隆幸からの「もうオレは無理やわ」の電話に高森勇旗は「オレ...の画像はこちら >>

【現役生活18年目で初の優勝も...】

高森 そういえば、去年のベイスターズが日本一になった試合、カジ(梶谷)は見に行ってたんだよな。しかも(ベイスターズファンの)相川七瀬さんのインスタの後ろのほうに映り込んでいたみたいで(笑)。やっぱり持ってるね。

梶谷 気がついた人がいたみたいだね。でもベイスターズ、日本一ってすごいよ。感動したもん。だけどペナントは巨人が優勝したからね。

高森 そうだった。日本シリーズの時は引退会見後だったけど、リーグ優勝の時はまだジャイアンツの現役選手だったもんな。なんなら開幕戦でも大活躍して、優勝に貢献しているしね。

梶谷 いやいや、たかだか1試合だよ。

高森 オレの周りにいた人から「今年ジャイアンツが優勝するとしたら、あの梶谷選手のスーパープレーのおかげです」ってメッセージが複数きたよ。

梶谷 そんなことない。

野球はそんなに甘くないって。もちろん、そう言っていただけることはありがたいことだけどね。

高森 でも、優勝した時はジャイアンツのメンバーの一員としての感慨はあったんでしょ。

梶谷 なんだろう......うれしいけど、喜んでいいのか不思議な感じだったよ。現役を18年やって、チームが優勝したのはじつは初めてなんだよ。だけど、その場所にいられない。しかもベテランが......だよ。これが若い時なら「グラウンドにいないのが悔しい」なんだけど、もう辞めることは決まっていたし、だからと言ってどうでもいいわけじゃない。あの優勝決定の日だけはテレビを見たもん。子どもに「YouTube終わりでいいか。パパに見せてくれ」って言って。

高森 野球を見るのが好きじゃないカジがテレビをつけた。

梶谷 あの1試合だけな。なんかわからんけど、やっぱり見たかった。みんなカッコよかったよ。「おめでとう」って、心はもうファンみたいな感覚だったのかな。「(坂本)勇人、よかったね」とか「(吉川)尚輝、フルで出てすごいよ」とか親みたいに見ていたのかもしれない(笑)。

【複雑な心境だったCSファイナル】

高森 そのジャイアンツとベイスターズがCSファイナルで激突したわけだけど。

梶谷 そりゃ在籍しているジャイアンツに勝ってほしいのは当然だけど、正直、ベイスターズにも頑張ってほしいという気持ちは少なからずあったよ。口が裂けても言えないけどね(笑)。

高森 複雑な心境だよな。

梶谷 最後に牧(秀悟)が決勝打を打った場面も「うわぁ」って声が出つつ、「おぉ~、横浜」みたいな(笑)。

高森 CSはロースコアでベイスターズの起用もピタッとハマって、あの勝ち方しかないというゲームだったよね。

梶谷 完全にトバ(戸柱恭孝)だよ。トバのリードで勝ったと思う。

高森 終盤に山本祐大が離脱して戸柱になったけど、キャッチャーが代わると配球もかなり変わるじゃない。2008年のCSでもジャイアンツはケガの阿部(慎之助)さんに代わって鶴岡(一成)さんがマスクかぶったら誰も打てなくなって、「鶴岡が陰のMVPだ」と言われたことがあった。

梶谷 うーん、覚えてない(笑)。でも、配球が変わるのは絶対にある。しかも今回のトバのリードを見ても一球一球、メチャクチャ丁寧に考えているのが目に見えた感じ。しっかり準備してきたんだろうね。ホントにいいキャッチャーだと思うよ。

高森 さらに日本シリーズではクワ(桑原将志)が躍動してたじゃない。オレの現役最後の年(2012年)、高卒1年目のクワとずっとウエイトやってたんだよ。あのクワが、あのベイスターズを優勝に導くって......立派になったよな。

梶谷 クワはとにかく気持ちがすばらしいのよ。あと守備力もね。

今まで一緒に守ってきた選手のなかで一番捕るのがうまい。「それ捕るんだ」っていうのが結構あったよ。

高森 あの一歩目のスピードとかヤバいね。イップスで内野から外野に行った時、一歩目の判断とトップスピードに入った時の速さを見て「天職じゃん」って思ったことを覚えているよ。ハマスタは狭いから目立たないけどね。

梶谷 (関根)大気もうまかったけど、クワは尋常じゃなくうまかったよな。

高森 外野はそこに梶原(昂希)、度会(隆輝)、蝦名(達夫)ら若手がいて、さらに佐野(恵太)とゴウ(筒香嘉智)でしょ。選手層、厚いよね。

【オレのために野球をやってくれ!】

梶谷 個人的にはカミ(神里毅)に頑張ってほしいけどね。ずっと見てきたけど、人柄もいいから「ライバルを蹴散らしてでも」という感じではない。だけど一発ハマればどえらい数字を残しそうな気がするんだよ。3割20本20盗塁はいける素質はあるしね。

高森 カジの2013年(※)みたいなこともある、と。


※シーズン序盤はボーンヘッドを連発して二軍降格も、8月以降に覚醒してチーム2位の16本塁打を放つなど大活躍。"スーパー梶谷"と呼ばれた。

梶谷 うん。いい時はいいけど、当たらなくなったら当たらない。ムラがあるから監督には使いづらい。オレに似ているんだよね。三振も多いしさ。だから6番ぐらいで自由に打たせたら面白いと思うんだけどね。

高森 カジも最多三振だった2017年に21本塁打、21盗塁。でも次の年から2年連続で41試合に出場を減らして、正直「あっ、カジもうこのへんで終りかな」と感じていたわけよ。

梶谷 ああ。オレもヤバいと思ってた。

高森 2019年にカジがファームに落とされていた時、「もう気持ちが切れそうだ」って電話がかかってきた。オレはずっとカジに「絶対に切れるな」と言い続けてきた。オレは2010年にゴウが入ってきて、完全に気持ちが切れてしまって......二度と戻ってこなかった。いま考えれば何の問題もない。前の年まで結果は残していたんだから、そこで切れずに頑張っていたら、トレードされていたかもしれない。でもオレは、腐ったり、文句ばかり言って、終わってしまった後悔がある。だからカジには「切れかけてもいいけど、絶対に切れるな」ってことをずっと言い続けてきた。

梶谷 あの時、電話で「もうオレは無理やわ」って言った気がするな。ファームでわりと結果を残しても上に行くのは若手ばかりで、期待されていないことが肌でわかったから。今年トレードかクビだろうなとも覚悟していたんだよね。

高森 オレは「頼むから切れるな。どうしても切れるんだったら、オレのために切らすな。オレのために野球をやってくれ!」と哀願するところまでいったもんな。

梶谷 懐かしいな。この話、オレの結婚式の時にも友人代表で話してくれたよね。

高森 でもそうやって話せるのは、カジが気持ちを切らさずに、翌年に大復活を遂げたからだよ。

梶谷 この"切れたら終わり"の意味は、本当の最後、引退を決めた時にわかったんだよ。もうどうにも戻らない。一度切れてしまったら、人は誰が何を言おうがもうダメなんだよな。

【佐伯貴弘からの金言】

高森 あの2019年にカジは気持ちをつなぎ、その翌年はモデルチェンジもできた。さっき神里の話で言った客観的に見て「使いづらい」という状態を、コンスタントに力を出せる状態にする必要があるってことに気づけたわけだ。それってなんで気がつけたの?

梶谷 瀬戸際だったから。だからあの年のオフ、今までの考え方をやめた。使ってくれないラミちゃん(ラミレス監督)に「なんで上げてくれねえんだよ」って家で文句ばっかり言ってたけど、「オレが監督だったらどういう選手を使いたいか」を考えるようになった。オレの場合、足はあるから、コンスタントにヒットを打てたら必ず使いたくなる。だから長打は捨てた。「ホームランはゼロでいい」って、オレ言ってたじゃん。「3割を絶対に打つ」という感覚でやってみると、実際にバットに当たる確率も上がったし、レフト前とか逆方向にヒットが出るようになった。

高森 結果、打率.323を残したんだけど、不思議なものでホームランも19本打つんだよな。

梶谷 そういうものなのかもしれないよね。でも変わったものは、バッティングよりも心構えだったのかもしれない。オレ、前の年のオフに佐伯(貴弘)さんに「食事したいんです」って電話をしたんだよ。佐伯さんの気持ちであり、決めたことをやり続けられる行動力って本当にすごいだろ。その食事の席でも技術というよりも生きる術、人としての道を説いてもらって、すぐに家に帰って全部ノートに書いた。

高森 たとえばどんなことを?

梶谷 びっくりしたのは、佐伯さんは家で扉を開ける時でもバッティングを意識して開けるんだって。「そこまで普段の生活で野球を考えているか。はじめは点でも線に変わる時が来るんだ」って。オレはまだ全然野球に本気じゃなかった、と思い知らされたよね。

高森 かっこいい。でもそこで佐伯さんに電話できたことも、あそこでカジが気づけたからなんだよな。気づけるか、気づけないか。プロ野球選手においてはけっこう重要な分かれ道。あとはカジにとっては、奥さんがかなり重要な役割を果たしてくれたね。「ラミちゃんが使ってくれない」って家で愚痴っていた時に、「なぜあなたは外の状況のせいばかりにして、結果が出ない自分に向き合おうとしないの?」って怒られたんだって。

梶谷 ハハ......めちゃくちゃ怒られたよ。でもよかったよ。奥さんがケツを叩いてくれる人で。そういう意味でも、オレは周りの人たちに恵まれているよ。

3回目につづく>>


梶谷隆幸(かじたに・たかゆき)/1988年8月28日生まれ。島根県出身。開星高から2006年の高校生ドラフト3巡目で横浜ベイスターズから指名を受け入団。13年に16本塁打を放ちブレイク。14年に39盗塁をマークして、盗塁王のタイトルを獲得。20年オフにFA宣言し、巨人に移籍。21年は開幕からレギュラーとして結果を出していたが、7月に死球を受けて右手甲を骨折。9月には椎間板ヘルニアの手術を受けるなど、61試合に出場にとどまった。24年シーズンは開幕スタメンを果たし、ライト守備であわや逆転のピンチを救う超ファインプレーで勝利に貢献するも、ケガには勝てず現役引退を決断した。


高森勇旗(たかもり・ゆうき)/1988年5月18日生まれ。富山県出身。中京高(岐阜)から2006年の高校生ドラフト4巡目で横浜ベイスターズから指名を受け入団。09年にイースタン最多安打を記録し、プロ初安打も記録。12年に戦力外通告を受け引退。翌年よりデータアナリスト、ライター、イベントディレクターを経て、現在は企業のエグゼクティブコーチングを行なう株式会社HERO MAKERS.の代表取締役を務め、一部上場企業を含む30社以上の企業変革に関わる。著者に、『俺たちの戦力外通告』(Wedge出版)、『降伏論』(日経BP)、『勇気が出る旅』(ワニ・プラス)がある。

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