【大学駅伝】早稲田大ルーキー・鈴木琉胤が快走連発の衝撃デビュ...の画像はこちら >>

前編:期待に違わぬ早大駅伝ルーキーズ

三大駅伝では2010年度以来、優勝から遠ざかっている早稲田大だが、今季は各学年にエース級を揃える布陣で期待が高まっている。その前評判をグッと高めているのが実力者揃いのルーキーたちで、その代表的な存在が鈴木琉胤と佐々木哲だ。

中でも鈴木は入学直前から国内外のレースで好記録を連発し、5月の関東インカレ5000mでは留学生相手にがっぷり四つの勝負を挑み、大物ぶりを発揮した。

学生時代の最大の目標は2028年ロサンゼルス五輪と掲げる一方、1年目の今季は9月の東京世界陸上選手権にも可能性がある限り、挑戦していくつもりだ。

【「狙った試合は絶対に外さない、すごくクレバーな選手」】

 今シーズン、学生長距離界で俄然注目度が高まっているのが早稲田大学だろう。

 その要因はふたりのスーパールーキーの存在。

 千葉・八千代松陰高出身の鈴木琉胤(るい)、長野・佐久長聖高出身の佐々木哲。入学早々、その期待に違わぬ活躍を見せている。

「自分が現役の時でいったら渡辺康幸君(現・住友電工監督)もそんな感じでしたけど、自分の身の丈を知っているというか、自分がどういうことをすれば今日はどれぐらいで走れるか、その辺をちゃんとわかっている。狙った試合は絶対に外さない、すごくクレバーな選手ですね」

 花田勝彦駅伝監督がこのように評するのが鈴木琉胤だ。箱根駅伝で数々の伝説を残した早大時代の2学年後輩、渡辺康幸を引き合いに出し、鈴木の才能を絶賛する。

 大学生になる直前の3月、鈴木はトラックで好記録を連発した。3月22日は3000mで高校歴代2位となる7分55秒08をマーク。その1週間後、オーストラリア・メルボルンで臨んだWA(世界陸連)コンチネンタルツアー・ゴールド初戦のモーリー・プラント競技会の5000mでは、高校歴代2位、U20日本歴代3位となる13分25秒59で走った。

「タイムはもちろん上乗せしたいですけど、タイムは追わず、自分がどこまでいけるかを見たい。

垂れて(バテて)しまっても、世界のレベルを肌で感じられるのはいい収穫になりますし、途中までついていけて我慢できるのであれば、そこは自分のストロングポイントになる。どちらにしても、学びのある大会にしたいなって思います」

 オーストラリア遠征を前に鈴木はこのように話していた。周囲は高校記録(13分22秒99)更新を期待していただろう。だが、そんな期待をよそに、鈴木自身は世界のレベルを体感できることに胸を躍らせていた。実際、国際大会ならではのペースのアップダウンが大きいレースとなり、記録を狙うのは難しかった。それでも、高校記録にあと3秒まで迫ったうえに、スパート力が持ち味の鶴川正也(青学大→GMOインターネットグループ)に競り勝って、日本人最上位の6位に入った。高校最後のレースで、鈴木は大器の片鱗を存分に見せつけた。

 そして、大学生になってからも快走を連発。何より大胆なレース運びには目を奪われる。

「大学に入っても、高校でやってきたような積極的なレースは続けていこうと思っていました。そこは絶対に曲げません」

 臙脂のユニフォームに初めて袖を通したのが、4月27日の日本学生陸上競技個人選手権の5000m。今夏、ドイツで開催されるワールドユニバーシティーゲームズの日本代表の座がかかった一戦だったが、鈴木はその言葉どおり、強風が吹くなか序盤から積極的にレースを進めた。

 最後は東洋大2年の松井海斗に敗れ2位に終わり、「先輩たちの意地を見た。大学の初レースで洗礼を受けた」と振り返ったが、大学デビュー戦としてインパクトは相当大きかった。この結果で、ワールドユニバーシティーゲームズの日本代表にも内定した。

【2028年ロス五輪へ向け日々研鑽】

 さらなる衝撃を残したのが、5月11日の関東インカレだ。最終日の5000mに出場した鈴木は、留学生が相手でも攻めのレースを貫き、序盤から先頭を走った。

 1000m過ぎに先頭に立った山梨学院大のジェームス・ムトゥクに激しい揺さぶりをかけられたが、負けじと食い下がった。

「ムトゥクさんがこっちをちらっと見て抜いていったんです。"ついてこい"っていう挑戦状だと思って、食らいつきました。ペースの上げ下げがすごくて、メルボルンよりもきつかったです」

 このレースでは、鈴木のルーキーらしからぬ冷静さも光った。残り1000mを切ってムトゥクとヴィクター・キムタイ(城西大)に後れをとり、一時は勝負あったかに思われた。だが、「あのままいくと、自分の足が持たなかったので、1回落としました」と計算のうえだった。花田監督の「前を追えるぞ」という声を聞いて再びペースアップすると、最後はふたりの留学生とラストスパート勝負に持ち込んだ。

 結局、キムタイにわずかに届かず2位に終わったが、大胆さと冷静さを持ち合わせた、非凡さを発揮した。

 すでに大学長距離界で秀でた存在だが、鈴木自身は現状をいたって冷静に受け止めている。

「いろんな声はいただくんですけど、そういうのは取り払って、チャレンジャーという気持ちで、一つひとつ挑んでいけたらなと思います」と謙虚な姿勢を貫く。

 今季の目標を問われても「そこまで数字にはこだわっていない」と言う。鈴木が見据えるのは大学4年目にあるロサンゼルス五輪。そこに向けて一つひとつ積み重ねていく覚悟だ。

「大学という新しい環境のなかで、自分がやってきたことも少しずつ変わっていきますし、慣れない環境でもあるので、1年目は環境に適応し、今の力を維持できたらなというふうに思っています。1、2年目は"溜め"の時期として、3年目でしっかりと記録を出して、4年目はオリンピックを目指したいと思っています。5000m12分台や10000m26分台を目指しつつ、世界で戦える選手になりたいです」

 こう話すように、長いスパンで、自身のキャリア形成を考えている。

 実は5月中旬の時点で、今秋開催の東京世界選手権に向けたワールドランキングで5000mの日本人最上位に付けているのが鈴木だ。もちろん、その順位は今後大きく変動することが予想されるが、鈴木にも世界選手権のスタートラインに立つチャンスがある。それでも、鈴木は大きなことを口にすることはない。

今季のトラックシーズンはまず、日本代表に選ばれたワールドユニバーシティーゲームズに全力を注ぐつもりでいる。

「日本代表に選んでいただいた以上、そこでしっかりと結果を出して、日本の陸上界を少しでもレベルアップしていければなと思います」

 こう決意を固めている。

つづく

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