髙橋藍のACLで見せた涙と笑顔 今季ラストゲームで「何のため...の画像はこちら >>
 5月15日、京都。昔ながらの体育館は、満員には程遠かった。
第1回アジアチャンピオンズリーグ(ACL)の前身はアジアクラブ選手権という名称だが、それ自体、周知されていたとは言えず、"手作り感"が透けて見えた。運営も含め、すべてが手探り。SVリーグチャンピオンシップの激闘後だけに、熱気の落差はいかんともし難かった。

 その準々決勝では、サントリーサンバーズ大阪はムハッラク・クラブ(バーレーン)と対戦し、セットカウント3-0で圧勝した。相手が弱すぎるということもあり、選手はモチベーションの作り方が難しかったに違いない。SVリーグ終了後、たった1週間で大会に突入し、疲労も重なっていた。

 しかしサンバーズの12番、髙橋藍は粛々と体を動かしていた。コートに立って、ボールを扱うときの集中力は練習から尋常ではない。ドミトリー・ムセルスキーと組んでのパス交換で、強烈なボールを上から打ち込まれても、彼はきれいなアンダーで返した。ボールを正しい軌道に入れる。それは球体を飼い慣らす魔術を見せられるようだった。

 SVリーグ初代ベストレシーバー賞の称号は飾りではない。

「(京都の)春高予選以来、久しぶりの体育館です」

 髙橋はそう言うと、柔らかい表情になった。

「東山高校1年の時は、洛南高校と43点まで行く死闘をやりました。この体育館から日本代表、イタリアでの挑戦につながっているので、地元ですし、感慨深いですね。高校だけでなく、小中の頃もよくやっていた場所で、懐かしさもあります。まあ、こうして帰ってくると、自分自身も成長しているので、感じる雰囲気も違いますが、気持ちが入って楽しい気持ちでバレーができています」

 チームは序盤、低調だったが、活力を与えたのが髙橋だった。パイプ攻撃を使って、バックアタックで次々に得点。サーブでも崩し、連続ブレイクに成功した。要所でチームに流れをもたらしている。

 会場の観客はまばらでも、髙橋は全力だった。相手が怯んだ時に畳み掛ける"勝負勘"は傑出。彼を突き動かすのは、ナルシズムではない。勝ちたい、負けたくない、という純粋な欲だ。

【敗戦の翌日、完全に気持ちを切り替えていた】

 5月17日、サンバーズは準決勝でカタールのアル・ラーヤンと対決し、セットカウント2-3と、フルセットの末に敗れている。これで上位2チームに与えられる世界クラブ選手権出場という目標を逃した。細かいミスが出て、戦いが不安定になっていた......。

 今シーズンやり遂げたことを考えれば、天皇杯優勝、SVリーグ初代王者で満腹になっていても無理はない。責められはしないだろう。しかし、髙橋の悔しがり方は飛び抜けていた。チームメイトたちが心配し、次々に声をかけたほどだ。

「この悔しさを次につなげられるように......」

 試合後、マイクの前に立った髙橋の声は震えていた。涙をこらえるため、格闘していたのか。彼の負けず嫌いは、凡人のレベルではない。体内に飼っている巨大な感情の怪物を、強力な理性で封じる。彼の正体は、その陰と陽、どちらも強い点にあるのかもしれない。

 その証拠に、次の日の試合で完全に気持ちを切り替えていた。

 5月18日、3位決定戦ではイランのフーラード・シールジャーン・イラニアンと対戦し、セットカウント3-0で勝利を収めている。心身ともに難しい試合だった。すでに世界クラブ出場権への道を絶たれ、疲労も積もっていた。

 だが、髙橋はすでに負けを糧にしたように、勝負心を燃やした。力むわけではない。むしろ解き放たれたようだった。トリッキーな技のオンパレードで、バレーボールを楽しんでいた。相手のエース、フランス代表イアルバン・ヌガペトも顔負けの背面ショット、左手打ち、フェイントなどを繰り出した。サーブもショートサーブ、ストロングサーブを打ち分け、崩すだけでなく、エースを取った。

 ACLの3試合で、どんな状況であっても、彼はコートに立つ限り、戦う準備を整えられることを証明した。

「メンタルの難しさはあって、(3位決定戦は)気持ちがダウンしていたところはありました」

 髙橋は正直にそう明かしている。

「でも、何のためにバレーしているのか、を考えて。シーズンのラストゲームで、仲間のため、もありますが。プロとしてバレーボールをやっているなか、1試合もムダにできない。1試合でも、自分は成長できると思っているので。あとは、プロとしてお客さんのためですね。会場に来ていただいた方はもちろん、テレビで見てくれる方々も裏切れない。難しい試合でしたが、自分はバレーを好きでやっていますし、(この大会に)来られなかった選手の分まで戦う使命がありました。やるべきことをやったまで、です」

 その勲章か。髙橋はACLの「ドリームチーム」、ベストアウトサイドヒッターに選出されている。サンバーズでの長いシーズンが終わった。

「このシーズンは自分にとって成長できるものになったし、次のシーズンにもつながるはずで......」

 そう語る髙橋は、戦うたびに強くなる。

編集部おすすめ