湘南ベルマーレでのプレーを知る人からすれば、「これくらいはできるだろう」との印象だったに違いない。所属クラブでの彼に馴染みのない人からすれば、森保一監督が彼を招集したことが納得できたのではないだろうか。

 鈴木淳之介である。

サッカー日本代表のニューカマー・21歳DFに期待 鈴木淳之介...の画像はこちら >>
 6月10日に行なわれた北中米ワールドカップ・アジア最終予選のインドネシア戦で、鈴木は国際Aマッチデビューを飾った。直前のオーストラリア戦後に渡辺剛と町田浩樹が離脱し、CBの枚数が減っていたことが出場を後押ししたところはあったかもしれない。

 序盤から敵陣でボールを動かす展開のなかで、CBとしてのディフェンス力が問われる場面は多くなかった。守備が不安定だったわけではない。左サイドから侵入される場面はほとんどなく、彼自身も「集中していたので、いい守備ができたかなと思う」と話す。

 ディフェンスの場面が連続するなかでどれだけ対応できるのか、国際舞台の強度のなかでどれだけタフに守れるか、などを見定める場面は限られた。危なげないプレーも差し引いて考えるべきところはあり、ディフェンスに関する評価は次回以降の出場へ持ち越されている。

 では、攻撃の局面ではどうだったか。

 オン・ザ・ボールの局面で、鈴木は持ち味を発揮した。

 ボランチとしてプロ入りし、昨シーズン途中からCBにコンバートされた鈴木は、攻撃への関わりで複数の選択肢を持つことができる。守備ブロックの間に縦パスを差し込むことができて、距離の違うパスを使い分けて、アタッキングサードでラストパスを通すことができる。

 インドネシア戦の11分には、ペナルティエリア手前から左足で緩やかな軌道のパスをゴール前へ通す。湘南のチームメイトでもあった町野修斗のヘディングシュートを引き出した。

「マチくんと目が合って、いい放物線のパスコースが見えたので、ゲームのように狙いどおりに通せました」

 利き足は右でも、左足のキックはナチュラルだ。両足を無理なく使いこなすので、相手のプレッシャーを受けてもプレーが窮屈にならない。それが右利きでも湘南の左サイドを任されている理由で、日本代表でも同じメリットを発揮できることを示した。

【パスのコースがいっぱいあった】

 ラストパスのひとつ前(あるいはふたつ前)のパスも出せる。

 インドネシア戦で言えば、70分過ぎのプレーだ。左サイドでDFラインの背後へ走り込んだ佐野航大へ、柔らかいパスを通してみせた。

 自ら持ち出すこともできる。味方へパスをつなぐだけでなく、ドリブルで運んで、さばいて、もう一度受けることもできる。ドリブルで相手を剥がすこともできる。「ボランチと違って、前からしかプレッシャーが来ないので」と、事もなげに言うから頼もしい。

 インドネシア戦では、ドリブルで運んでいくプレーがいつもに比べると多くなかった。

「緊張した」というのは、その理由に挙げられるだろう。「何日か前から準備はしていたけど、やっぱり先発って言われると前日はなかなか寝つけなかった」と明かす。

 周囲の選手の動きを生かしたところもある。「前の選手が流動的に動いてくれて、パスのコースがホントにいっぱいあった。すごくやりやすかったので、起点になるようなパスも出せました」と、試合後に話している。

 敵陣でボールを動かす時間帯が長かっただけに、CBの彼が前へ出ていくスペースは見つけにくく、無理に出ていくと味方が使うスペースを消してしまう、というところもあっただろう。実戦でのコンビネーションは手探りだったことを踏まえても、やるべきこと、できることを整理して臨んでいたのは評価できる。
 
 6月5日のオーストラリア戦と10日のインドネシア戦では、国際Aマッチ出場の少ない選手、これまで出場したことのない選手が数多く起用された。その評価について問われた森保監督は「こんなにできるんだ、個々がすばらしい特徴を持っているな、という印象が大きいです、その反面、選手によりますが、まだまだこの代表で選び続けるには力をつけてもらわないといけない、というところも、練習、試合のなかで見受けられました」と語った。

 現時点で主力との差は「大きい」としたが、「若い選手はひとつの経験で一気に変わる。今日の試合のなかでも、トライをしながらやれることが増えていると感じさせられた」と評価し、「(海外組が勢揃いした)最強の代表でポジション争いに食い込んできてくれることを、大いに期待できる」と競争激化を歓迎する。

【Jリーグで圧倒的な選手になる】

 鈴木が起用された3バックの左サイドは、これまで町田と伊藤洋輝がスタメンで起用されてきた。

どちらもサイズがあり、鋭い縦パスを通すことができる。伊藤は対角のパスも武器とする。ヨーロッパのクラブで数シーズン戦ってきた彼らは、ディフェンス力においても森保監督の評価をしっかりと勝ち取っている。

 代表定着へのライバルは強力である。それでも、鈴木には彼らと異なる個性がある。日本代表に違うものをもたらせるはずだ。

 7月開催のE-1選手権は、国内組だけでチームが編成される。国際Aマッチデビューを経て、鈴木は「こういう舞台に選ばれるためにも、Jリーグでもっと圧倒的な選手になって、また帰ってこられるようにがんばります」と決意を新たにした。

 インドネシア戦のプレーで、競争に加わっていくための資格は得た。21歳のニューカマーは自らを成長させてくれる苛烈なサバイバルレースに、ここから挑んでいくこととなる。

編集部おすすめ