川崎フロンターレの高井幸大は、日本サッカーの未来を背負うセンターバックと言える。
Jリーガーで日本代表に入るべき選手は、今や片手で数えられるほどしかいない。
日本代表のセンターバックは、吉田麻也(LAギャラクシー)、冨安健洋(アーセナル)が年齢やケガなどで選外になっている状況で、板倉滉(ボルシアMG)が中心と言えるか。しかし遅かれ早かれ、高井がバックラインを統率すべきだろう。日本サッカー史上最高のセンターバックとなる素養を備えているからだ。
「プレミアリーグの強豪、トッテナムが高井獲得で合意か」
そうした報道が世間を賑わせているのも、何ら驚きはない。クラブからは移籍を前提とした離脱が発表されており、「7月5日の鹿島アントラーズ戦がラストマッチ」と言われている。欧州の新シーズンに合わせての移籍はベストタイミングだろう。誤解を恐れずに言えば、Jリーグでやるべきことはすでに終えている。今はより厳しい状況で、タフな相手とマッチアップを繰り返し、進化を遂げるべき時だ。
はたして、高井は欧州で化けることができるのか?
今や、日本人選手は欧州の最前線で活躍を見せている。イングランドでは冨安のほか、三笘薫(ブライトン)、遠藤航(リバプール)、鎌田大地(クリスタル・パレス)、田中碧(リーズ)、スペインでは久保建英(レアル・ソシエダ)、浅野拓磨(マジョルカ)、ドイツでは板倉のほか、堂安律(フライブルク)、佐野海舟(マインツ)、町野修斗(キール)、フランスでは南野拓実(モナコ)、中村敬斗(スタッド・ランス)、イタリアでは鈴木彩艶(パルマ)、ポルトガルでは守田英正(スポルティング・リスボン)、オランダでは上田綺世(フェイエノールト)など、欧州主要7大リーグに日本人があふれている。
ただし、ポジション別に見ると、アタッカー、中盤は人材豊富だが、センターバックはGKと並び、苦戦を余儀なくされている。現在、主要リーグで継続的に活躍しているのはドイツの板倉のみだ。
【出色のパッサーとしての能力】
歴史的にも、日本人センターバックは欧州組が少なく"アキレス腱"だった。そんななかで吉田はオランダ、イングランド、イタリア、ドイツで実績を積み、続いて冨安が名門アーセナルで台頭した。ただし、冨安は実力と裏腹にケガが多すぎる。その後も町田浩樹(ユニオン・サン・ジロワーズ→ホッフェンハイム)、瀬古歩夢(グラスホッパー)、渡辺剛(ヘント)などが続くが、戦場はベルギー、スイスだ。
他のポジションと比べて日本人センターバックの欧州での活躍が目立たないのはなぜか。
それはセンターバックが、相手に対応することが基本となるポジションだからだろう。言い換えれば、最低条件で「体格」が求められる。サイズの小さな日本人は劣位になる。長身のストライカーに向けてロングキックを放り込まれて競り合いに負けるような高さでは通じない。
もうひとつ、現代のトップレベルのセンターバックは敵の攻めを弾き返すだけでは物足りない。プレスを受けても、悠然とボールをつなぐことができる、もしくは自ら持ち上がってパスをつけられる。そんなボールプレーヤーとしてのセンスも欠かせないのだ。
このふたつの条件を同時にクリアしている高井は、特筆すべき存在と言えるだろう。
高井は身長192センチで、現在の日本代表では一番の長身である。Jリーグでは制空権を確保。競り合いに強さを見せ、ヘディングでのゴールも決めている。何より、ボールコントロール、キックの技量が高い。繊細で、品すら感じさせる。後方からのプレーメイクは彼の最大の持ち味だ。
「(パスは)いつも意識している」
高井は言うが、ビジョンを具現化できるのは最大の才能だろう。直近の東京ヴェルディ戦でも、ゴール前の山田新に通したスルーパスは出色だった。予知能力のように、走り出した味方の足元につけられるパスは瞠目に値する。
次世代で「世界最高のセンターバック」と目されるスペイン代表の20歳、ディーン・ハイセン(レアル・マドリード)は、高井とタイプが似ている。
昨シーズン、ハイセンはプレミアリーグ、ボーンマスで一気に頭角を現し、レアル・マドリードに入団した。194センチの長身だが、際立つのはコントロール&キックだろう。少々のプレスははがせるし、ボールを持ち出すことによって、ライン間にパスを打ち込める。クラブワールドカップでは、すでにシャビ・アロンソ監督の信頼を受け、後方のプレーメイカーとして「皇帝」の風体を見せている。
ポテンシャルで言えば、高井はハイセンに続く。それだけに、プレミアリーグで場数を踏み(もしくはレンタルで他のクラブで武者修行する可能性もあるだろうが)、そこで"やられる"という感度を上げられるかどうかがカギになる。
たとえば東京Ⅴ戦でも、俊足のアタッカーに前を取られ、一瞬の隙でシュートを打たれていた。あるいはボールの目測を誤って相手にシュートを許す場面があった。
高井は日本サッカーの希望である。