それはもう、とても、とても、狭き門なのである。
7月7日開幕の東アジアE-1選手権(開催地・韓国)に、日本代表はJリーグでプレーする26人でチームを編成した。
国際Aマッチ出場がふたケタを超えるのは、その長友と相馬、それに2018年ロシアワールドカップ代表のCB植田直通(鹿島アントラーズ)の3人にとどまる。ほぼ半数の12人が初招集というフレッシュな顔ぶれとなった。
今大会は国際Aマッチのカレンダー外の活動となるため、海外組は招集されない。ワールドカップイヤーの前年に開催された2013年と2017年、それにワールドカップ開幕の4カ月前に行なわれた2022年の大会は、国内組が代表入りへアピールする機会との意味合いが強まった。東アジカップの名称で開催された2013年大会は、23人のメンバー中15人が国際Aマッチ出場経験のない選手だった。ザックことアルベルト・ザッケローニ監督のもとでCB森重真人(FC東京/以下・当時)、MF青山敏弘(サンフレッチェ広島)、MF山口螢(セレッソ大阪)、FW柿谷曜一朗(セレッソ大阪)、FW齋藤学(横浜F・マリノス)、FW大迫勇也(鹿島アントラーズ)らがテストを受けた。
中国と3-3で引き分け、オーストラリアに3-2で競り勝ったチームは、ホスト国・韓国との最終戦を2-1で制す。3ゴールの柿谷が得点王となり、大迫も2得点を記録した。
ザックは9月の活動に森重、青山ら東アジアカップで代表デビューを飾った6人を招集した。その後は活動ごとに小さな変更が加えられ、2014年のドイツワールドカップには森重、柿谷、青山、大迫、齋藤が選ばれたのだった。
【前回E-1で得点王に輝いた相馬と町野】
大会名がE-1選手権となった2017年大会は、Jリーグ終了直後に日本で開催された。優勝した川崎フロンターレからCB谷口彰悟、DF車屋紳太郎、MF大島僚太、FW阿部浩之、J1得点王の小林悠がセレクトされ、得点ランク上位のFW川又堅碁(ジュビロ磐田)、FW金崎夢生(鹿島アントラーズ)も招集された。10人が国際Aマッチ出場歴のない選手だった。
チームは北朝鮮を1-0、中国を2-1で下すが、韓国には1-4で敗れた。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は「韓国とは比較してはいけないぐらいの差があった。フルメンバーの代表でも、今日の韓国に勝てたがどうかわからない」などと話した。
ハリルホジッチ監督は翌年4月に解任された。このため、E-1のパフォーマンスとロシアワールドカップのメンバー選考に、どこまで関連性があったのかははっきりとしない。
確かなことがあるとすれば、E-1で国際Aマッチデビューを飾った選手のなかから、ロシアワールドカップのメンバーに入ったのは植田直通ひとりだったということである。その彼も、ロシアでは出場機会に恵まれなかった。
2022年7月開催の前回大会では、GK谷晃生(湘南ベルマーレ)と鈴木彩艶(浦和レッズ)、MF藤田譲瑠チマ(横浜F・マリノス)、FW細谷真大(柏レイソル)、FW町野修斗(湘南ベルマーレ)らが国際Aマッチにデビューした。チームは韓国を3-0で下すなどして、2013年大会以来となる優勝カップをつかむ。
同年11月開幕のカタールワールドカップには、E-1で3得点2アシストの相馬勇紀が選出された。
E-1の出場メンバーでは、川崎フロンターレの右SB山根視来とCB谷口彰悟がカタール行きをつかんでいる。だが、彼らはワールドカップ最終予選から代表チームで足跡を刻んでいた。
山根や谷口はE-1でアピールに成功した立場ではなく、むしろ多くの国内組がテストされながらもカタールに辿り着けなかった事実が浮かび上がる。代表入りした相馬はコスタリカ戦のみの出場に終わり、町野はピッチに立つことなく大会を終えている。
【スカウティングがしやすい日本代表】
つまりは、こういうことだ。
国内組にとって代表への貴重な経路と見なされるE-1だが、実際はとても、とても狭き門なのである。
ましてや近年の日本代表は、海外組のボリュームが一気に厚みを増している。フィールドプレーヤーはどのポジションも序列の3人目までが海外クラブ所属選手と言っていいほどである。
今回のE-1で対戦する香港と中国はそもそも格下で、ホスト国の韓国も国際Aマッチ出場経験のない選手が多くリストアップされている。世界のトップ・オブ・トップで戦えるかどうかを見極める相手としては、率直に言って物足りないと言わざるを得ない。
言い方を変えれば、E-1でのアピールがすぐさま海外組を含んだ代表チームへのアピールにはならない、ということである。E-1で目に見える結果を残したとしても、序列をいきなり変えることにはつながらない、というのが冷静な見方だろう。
各ポジションにそれだけ多くの選択肢があるから、現在の日本代表はチーム編成に困ることがない。北中米ワールドカップのメンバーを決める2026年5月の段階でも、おそらくは森保監督が消去法で選手を選んでいくことはないだろう。
見方を変えて、日本代表が置かれた状況を、ワールドカップで対戦するかもしれない相手の立場に立って考えてみる。
スカウティングがしやすい、と言える。
どのポジションも、スタメンとサブがはっきりしている。日本対策は立てやすいだろう。
相手の分析を上回る「個の成長」や「組織の成熟」があったとしても、選考対象となる選手は多いほうがいい。対戦相手が分析に悩む「Xファクター」となりうる選手の登場が望まれる。そうやって考えていくと、E-1の3試合をぼんやりと眺めるわけにはいかないだろう。
注目選手は誰か。
これはもう、全員と言うしかない。これから対戦する相手にとって、未知の存在となる選手は、どのポジションにも必要だからだ。
【不確定要素を含む選手が少なくないCB】
まず、サイドの選手はどうか。
堂安律(フライブルク)と伊東純也(スタッド・ランス)がいて、菅原由勢(サウサンプトン)、関根大輝(スタッド・ランス)、森下龍矢(レギア・ワルシャワ)らと交えてさまざまな連係を構築できる右サイドにしても、新しい人材の登場は大歓迎だ。三笘薫(ブライトン)と中村敬斗(スタッド・ランス)が競い合う左サイドも同様である。
今回のメンバーなら相馬、久保藤次郎(柏レイソル)、望月ヘンリー海輝(FC町田ゼルビア)、俵積田晃太(FC東京)、佐藤龍之介(ファジアーノ岡山)が両サイドのオプション候補になるのだろう。
センターバックも気になる。
谷口、板倉滉(ボルシアMG)、町田浩樹(ホッフェンハイム)、伊藤洋輝(バイエルン)、瀬古歩夢(グラスホッパー)、渡辺剛(ゲント)、高井幸大(川崎フロンターレ→トッテナム予定)と、クオリティを持った選手は揃っている。鈴木淳之介(湘南ベルマーレ)という新星も登場してきた。
ただ、全員がトップコンディションで競争を繰り広げる、というシチュエーションになっていない。いつも誰かがケガで離脱する、という状況が続いている。アーセナルとの契約が解除された冨安健洋のように、不確定要素を含む選手が少なくないのだ。
CBとしてリストアップされた植田、荒木隼人(サンフレッチェ広島)、古賀太陽(柏レイソル)、安藤智哉(アビスパ福岡)、綱島悠斗(東京ヴェルディ)は、コンビネーションが確立されていないなかでも、やるべきこと、できることを遂行してほしい。
選手たちは7月5日にJ1リーグを戦い、翌6日に各地の空港から開催地の韓国入りした。
コンビネーションをすり合わせる時間はない。ぶっつけ本番と言っていい環境で、チームのタスクを全うしつつ、自らをアピールできるのか。決して簡単ではないシチュエーションで存在価値を示す者が、狭き門をくぐり抜ける資格を得る。