クラブワールドカップでレアル・マドリードの21歳のスペイン人FW、ゴンサロ・ガルシア・トーレスが際立った活躍を見せている。

 グループリーグのアル・ヒラル戦でいきなりゴールすると、続くザルツブルク戦でもチーム3点目を決めた。

ラウンド16では、イタリアのユベントスを相手にアレクサンダー・アーノルドからの高精度クロスをヘディングで合わせ、貴重な決勝点。準々決勝のドルトムント戦でも、アルダ・ギュレルの左からのクロスに対し、相手ゾーンディフェンスの間に入って右足でピンポイントに放り込んだ。

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 フランス代表のスター、キリアン・エムバペが体調不良のために抜擢されたゴンサロだが、センターフォワードの位置に入って、ここまで大会4得点と期待に応えている。これまでトップチームでの出場機会にはあまり恵まれなかったが、昨シーズンはBチームであるカスティージャ(3部)で25得点を記録。シュートに入るうまさ、落ち着きは垂涎で、生粋の点取り屋と言えるだろう。

 新たに指揮官に就任したシャビ・アロンソ監督が、そのゴールセンスを引き出したということか。

「来年のワールドカップに向け、ゴンサロがスペイン代表リストに殴り込み?」

 スペイン大手スポーツ紙『マルカ』はそう見出しを打ち、ゴンサロへの期待感を滲ませている。1カ月前までは3部でしか実績のないストライカー。代表入りは絵空事に過ぎなかったが、今や現実的な話だ。

 実は「センターフォワード」という選手は、地上から消えかかっている。

 レアル・マドリードにもひとりもいない。当該ポジションの候補となるエムバペも、ヴィニシウス・ジュニオールも、ロドリゴも、それぞれ傑出したアタッカーだが、タイプが違う。

彼らには、ロングボールに体を張ったり、ポストプレーで丹念にボールを散らしたり、敵ディフェンスと体をぶつけあって相手の体力を削ったりといった、センターフォワードとしてのチームプレーは望めない。

 その点、ゴンサロは正真正銘のセンターフォワードである。

【下部組織が育てたストライカー】

 レアル・マドリードの下部組織であるカスティージャは、伝統的に多くのスペイン代表ストライカーを生み出している。直近20年でも、ロベルト・ソルダード、アルバロ・ネグレド、ロドリゴ・モレノ(現アル・ラーヤン)、アルバロ・モラタ(ガラタサライ)、ホセル(アル・ガラハ)など多くのカスティージャ育ちのストライカーがスペイン代表に選ばれ、欧州のトップクラブで活躍を遂げてきた。

 ただ、彼らは必ずしもレアル・マドリードでは大成していない。それはチームがクリスティアーノ・ロナウド、カリム・ベンゼマなど世界最高級のストライカーを獲得してしまうからだろう。しかしカスティージャ出身のFWは、世界のどのクラブでもゴールを量産できる逞しさがある。適応力の高さは出色だ。

 カスティージャでは、ストライカーは平均的な能力の高さが問われる。高さ、速さ、強さ、激しさ、うまさ......どれかひとつでも大きく欠ける場合は弾かれる。チームプレーヤーとして適応するには、弱点がないことが条件なのだ。

 たとえばバルセロナは中盤やサイドアタッカーで有力選手を多く輩出しているが、ストライカー育成には苦戦している。なぜなら、バルサはうまさやコンビネーション力に特化し、スカウティングの時から体格やパワーというアスリートとしての能力は重要視してこなかったからだろう。

プレッシングや空中戦や泥臭いポストワークが必要なチームや状況に適応できないのだ。

 翻って、ゴンサロは身長182センチで跳躍力があり、俊敏性や持久力も平均以上。キックやコントロールの精度も特別ではないが悪くはない。ゴールに近づくにつれ、多くの選手は技術精度が落ちるが、彼の場合は落ちず、フィニッシュワークができる。スペースの認知度が高く、ボールを呼び込むために止まり、相手の裏を取る動きでマークが外せる。ドルトムント戦では右に流れ、2点目の起点のパスを出していた。戦闘力、総合力が高いのだ。

【スペイン代表入りも】

 もうひとつ、カスティージャのストライカーは常勝の気概を持つ。どのカテゴリーでもレアル・マドリードの選手は勝利を義務づけられ、プレッシャーに対する耐性を問われる。トップに上がったFWは、その時点で鍛えられているのだ。

「虎の目」

 その資質はそう括られる。どんな状況でも冷静でいられるか。

言わば、狩りをする肉食獣の本能みたいなものか。

 ストライカーの典型としてよく引き合いに出されるのが、レアル・マドリードの栄光の背番号7、ラウル・ゴンサレスだろう。ラウルは最後まで諦めず、チームに数多くの栄光をもたらした。まさに「虎の目」だった(ただし、ラウル自身はアトレティコ・マドリードのユース育ちで、レアル・マドリードでは17歳の時にCチームからいきなりトップに抜擢されている)。

 ゴンサロは、新シーズンのレアル・マドリードで貴重な戦力になるだろう。来年のワールドカップでのスペイン代表入りも夢物語ではない。

「とはいえエムバペの控えでしょ?」と侮るなかれ。

 それはブラジル代表のロドリゴ、エンドリッキを差し置いてつかんだ立ち位置であり、すなわちスペイン人で1、2を争うストライカーであることを意味する。2023-24シーズンにラ・リーガ優勝、チャンピオンズリーグ優勝の2冠を飾ったレアル・マドリードで、ホセルはスーパーサブだったが、スペイン代表としてEURO2024での優勝に貢献した。

 7月9日(現地時間)、レアル・マドリードは欧州王者パリ・サンジェルマンとクラブワールドカップ準決勝を戦う。事実上の世界頂上対決と言えるだろう。ゴンサロが再びゴールネットを揺らすことができたら―――彼は大会ナンバー1のヒーローに名乗りを上げる。

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