クラブワールドカップでレアル・マドリードの21歳のスペイン人FW、ゴンサロ・ガルシア・トーレスが際立った活躍を見せている。
グループリーグのアル・ヒラル戦でいきなりゴールすると、続くザルツブルク戦でもチーム3点目を決めた。
新たに指揮官に就任したシャビ・アロンソ監督が、そのゴールセンスを引き出したということか。
「来年のワールドカップに向け、ゴンサロがスペイン代表リストに殴り込み?」
スペイン大手スポーツ紙『マルカ』はそう見出しを打ち、ゴンサロへの期待感を滲ませている。1カ月前までは3部でしか実績のないストライカー。代表入りは絵空事に過ぎなかったが、今や現実的な話だ。
実は「センターフォワード」という選手は、地上から消えかかっている。
レアル・マドリードにもひとりもいない。当該ポジションの候補となるエムバペも、ヴィニシウス・ジュニオールも、ロドリゴも、それぞれ傑出したアタッカーだが、タイプが違う。
その点、ゴンサロは正真正銘のセンターフォワードである。
【下部組織が育てたストライカー】
レアル・マドリードの下部組織であるカスティージャは、伝統的に多くのスペイン代表ストライカーを生み出している。直近20年でも、ロベルト・ソルダード、アルバロ・ネグレド、ロドリゴ・モレノ(現アル・ラーヤン)、アルバロ・モラタ(ガラタサライ)、ホセル(アル・ガラハ)など多くのカスティージャ育ちのストライカーがスペイン代表に選ばれ、欧州のトップクラブで活躍を遂げてきた。
ただ、彼らは必ずしもレアル・マドリードでは大成していない。それはチームがクリスティアーノ・ロナウド、カリム・ベンゼマなど世界最高級のストライカーを獲得してしまうからだろう。しかしカスティージャ出身のFWは、世界のどのクラブでもゴールを量産できる逞しさがある。適応力の高さは出色だ。
カスティージャでは、ストライカーは平均的な能力の高さが問われる。高さ、速さ、強さ、激しさ、うまさ......どれかひとつでも大きく欠ける場合は弾かれる。チームプレーヤーとして適応するには、弱点がないことが条件なのだ。
たとえばバルセロナは中盤やサイドアタッカーで有力選手を多く輩出しているが、ストライカー育成には苦戦している。なぜなら、バルサはうまさやコンビネーション力に特化し、スカウティングの時から体格やパワーというアスリートとしての能力は重要視してこなかったからだろう。
翻って、ゴンサロは身長182センチで跳躍力があり、俊敏性や持久力も平均以上。キックやコントロールの精度も特別ではないが悪くはない。ゴールに近づくにつれ、多くの選手は技術精度が落ちるが、彼の場合は落ちず、フィニッシュワークができる。スペースの認知度が高く、ボールを呼び込むために止まり、相手の裏を取る動きでマークが外せる。ドルトムント戦では右に流れ、2点目の起点のパスを出していた。戦闘力、総合力が高いのだ。
【スペイン代表入りも】
もうひとつ、カスティージャのストライカーは常勝の気概を持つ。どのカテゴリーでもレアル・マドリードの選手は勝利を義務づけられ、プレッシャーに対する耐性を問われる。トップに上がったFWは、その時点で鍛えられているのだ。
「虎の目」
その資質はそう括られる。どんな状況でも冷静でいられるか。
ストライカーの典型としてよく引き合いに出されるのが、レアル・マドリードの栄光の背番号7、ラウル・ゴンサレスだろう。ラウルは最後まで諦めず、チームに数多くの栄光をもたらした。まさに「虎の目」だった(ただし、ラウル自身はアトレティコ・マドリードのユース育ちで、レアル・マドリードでは17歳の時にCチームからいきなりトップに抜擢されている)。
ゴンサロは、新シーズンのレアル・マドリードで貴重な戦力になるだろう。来年のワールドカップでのスペイン代表入りも夢物語ではない。
「とはいえエムバペの控えでしょ?」と侮るなかれ。
それはブラジル代表のロドリゴ、エンドリッキを差し置いてつかんだ立ち位置であり、すなわちスペイン人で1、2を争うストライカーであることを意味する。2023-24シーズンにラ・リーガ優勝、チャンピオンズリーグ優勝の2冠を飾ったレアル・マドリードで、ホセルはスーパーサブだったが、スペイン代表としてEURO2024での優勝に貢献した。
7月9日(現地時間)、レアル・マドリードは欧州王者パリ・サンジェルマンとクラブワールドカップ準決勝を戦う。事実上の世界頂上対決と言えるだろう。ゴンサロが再びゴールネットを揺らすことができたら―――彼は大会ナンバー1のヒーローに名乗りを上げる。