2年前の世界陸上選手権に初出場を果たすなど、女子三段跳トップクラスのジャンパーとして成長を続ける髙島真織子(九電工)。今年の日本選手権ではハイアベレージの記録を残し、6連覇中だった森本麻里子(オリコ)を抑えて初優勝を遂げた。
昨シーズンは好調な立ち上がりを見せながらケガによりパリ五輪出場に挑めず悔しさだけが残ったが、今シーズンは自身の技術に磨きをかけ、東京世界陸上出場に着実に近づきつつある。
【好調の要因はダブルアーム】
日本選手権初日(7月4日)の女子三段跳決勝では6回目の自己最高13m92を筆頭に、13m90と13m84、13m83を跳ぶ安定感を見せて初優勝を果たした髙島真織子。日本陸連が設定する開催国エントリー設定記録の13m97には届かなかったが、世界陸連制定の世界ランキング(出場枠36、現在26位)での出場の可能性を大きくした。
「14mを跳んで日本記録(14m15)の更新を目標にしていたけど、本当に純粋に......これまで4~5回出ても森本麻里子さん(オリコ)になかなか勝たせてもらえなかった日本選手権で初優勝できたのはすごくうれしいです。
ただ、森本さんの日本記録はすごく高い壁だなというのをあらためて感じたし、2本目に13m90を跳んでからはそこ(日本記録)を目標に一本一本跳んでいたので、届かなかったのはちょっと悔しいです」
こう話す髙島だが、昨年のパリ五輪シーズンは悔しいものとなった。
2023年に自身初の世界陸上選手権出場を果たし、自己記録も日本歴代3位の13m82に伸ばした髙島は、2024年に突入。2月下旬からはニュージーランドとオーストラリアに遠征し、3月に自己記録を1cm更新し、追い風参考ながら14m08を跳び、好調なシーズンインを見せたかに思われた。しかし、4月の織田記念でウォーミングアップ中に右ハムストリング(太もも裏の筋肉)の肉離れ。パリ五輪出場に向けた挑戦さえもできなかった。
その悔しさを胸に昨年の9月23日の全日本実業団から復帰すると、今年は1月にカザフスタンとフランス、2月下旬からはニュージーランドとカザフスタンに遠征し、東京世界陸上出場に向けて精力的な動きを見せていた。
そして4月の織田記念では、「昨年、ウォーミングアップでケガをしたのでちょっと複雑というか、『乗り越えなきゃいけないな』と思ってきたけど雨だった去年と違って晴れていた。(会場に)来る時に少し右ハムがうずいたりしていたし、ここにくるまでは万全でないところもあったけど、感覚的にはすごくいい流れでこられていたので、記録は出るだろうという気持ちでした」と話したように、公認では13m71だったが、追い風2.3mの参考記録では13m96をマークし優勝を果たし、いい滑り出しを見せた。
好調の要因は、踏切2歩目のステップをそれまでのシングルアームから、両手を上に振り上げるダブルアームに変更したことにあった。
「ちょっとカッコいいので、いずれはダブルをやってみたい気持ちはあったけど、去年の秋に片峯隆先生に変えろと言われて、ちょっと燃えました(笑)。本当はあと1年待ってほしいと思っていたけど、先生には『絶対ダブルでいけ』と言われて。インドアの時はあまりうまくいってなかったけど、必死で練習してここまでなんとか持ってこられたので、今は本当に先生に感謝です」
ダブルアームにしてからは上半身と下半身の連動を意識するようになった。足を使えない時期に上半身のトレーニングをしっかりやったことも生きてきた。シングルアームの頃はステップが低くなる癖もあったが、上半身でうまくリードして跳べるようになったダブルアームでは、ステップとジャンプ(踏切3歩目)も以前より浮き上がるようになり、織田記念でも6本目はわずかにファールだったが、14mを超える跳躍を見せていた。
【世界陸上の舞台・国立競技場でつかんだ自信】
髙島は5月のゴールデングランプリでは記録こそ13m66にとどまったが、14m20台を持つ海外勢を抑えて優勝。その経験も今回の日本選手権では生かすことができた。
「私の体感では国立競技場のタータンは助走では真っ直ぐ上に撥ねる感覚があるので、前に進むためにはうまく調整していかなければいけない。そこは探り探りやったけど、これで世界選手権に向けて2回試合ができた。今回、まったく違うタイプの練習拠点でも、うまく国立をイメージした練習に取り組んで結果につながったので、そこがひとつの自信になりました」
また、世界陸上に向けては、こう意気込む。
「今回の日本選手権は世界選手権のリハーサルのイメージで出場したけど、1本目が12m台と記録が残せなかったのは詰めが甘かったかなと思います。ただ2本目で13m90を出せたのは自信になったし、そこから13m80~90台を跳べる高いアベレージを残せたことも自信になりました。
ただ、もう一段階上げていかないと世界選手権では決勝に残れないと思うので、そこは次の課題だと思います。今回14m台まで届かなかったのは、織田記念から少し思うように跳躍練習が積めてないこともひとつの原因と思うので、ここから2カ月、しっかり調整して跳躍練習も積んで世界選手権に向かいたいと思います」
世界陸上参加標準記録の14m55は、現時点でもまだ世界で7名しか突破していない高い壁だ。そこに向けては「かなり遠い記録だけど、三段跳はハマったらけっこう記録が出る種目でもあるので、そこはもちろん目指しています」と意欲を口にするが、現実的な目標は、今年になって見え始めてきた14m15の日本記録突破だ。
「今回は、織田記念の時よりすごく自然な流れで跳躍動作はできたかなと感じています。織田の時はまだ『形をしっかり作ろう』というイメージがあってぎこちないところがあったけど、そこから考えたらいい流れだったと思う。やっぱり世界選手権で決勝に残るとなったら14m10~20あたりは必要になってくるので、その辺の記録を世界選手権までにはしっかり出したいです」
世界大会初出場だった2023年の世界陸上は「出場するのがやっと」という状態で、予選で13m34しか跳べずに全体34位という結果だった。だが今年は地元開催の世界陸上で「しっかり練習積み、調整も確実にできて挑戦できるかな」と期待を高める。
「親もチケットを買っているので、出ないわけにはいきません」と明るく笑う髙島。2度目の大舞台に自信を持って臨もうとしている。