『Ice Brave』千秋楽レポート後編(全3回)
7月13日、新潟。アイスショー『Ice Brave』の千秋楽公演はにぎわっていた。
【溶け合うようなアイスダンス】
そして、新しい挑戦の象徴がアイスダンスだった。
「アイスダンスで、(本田)真凜と一緒に滑ることができて」
宇野はリンクの上で、共演した本田真凜のほうを向いて言っている。本田は少し照れたような顔をしていた。ふたりにとって、アイスダンス挑戦は簡単ではなかったはずだ。
「初心者スタートでしたし、想像よりも難しかったです。成長しきれない、やりきれないっていう悔しさも経験しました。でも、皆さんにお見せしたい、恥ずかしくないというナンバーができました。今日も楽しさが余って、気づいたらツイズルを多く回りすぎてしまいましたが(笑)」
アイスダンスの演技力は、初回の愛知公演の時よりも上がっていた。呼吸を合わせるのがどれだけ難しいか。観客の声援を浴びるたび、ふたりを突き動かした。
この日もショー後半、宇野と本田のアイスダンスカップルは異彩を放っていた。『Wild Side』のリズムに乗り、距離感も近い滑りで、スケーティング一つひとつの精度は上がっていた。ダンススピン、ツイズル、リフトなどは安定。溶け合うような演技で、観客を世界に引き込むことができた。
「僕自身、アイスダンスは公演を重ねて、断然よくなっていると思います。初回公演からいいものにしたい、もっとよくしたいとやってきました。高みを目指して失敗するところもあったんですけど、だからこそもっとうまくなりたいって気持ちになりました。競技が終わってもそういう意思があるのはうれしいし、満足していますね」
宇野は言う。彼が練習からスケートを突き詰めているのは、現役生活と変わらない。
【ふたりの根底にある敬意】
本田もパートナーとして、その本質をリスペクトしているからこそ、足並みを合わせられるのだろう。昨年3月のインタビューで、本田に競技者としての宇野について尋ねたことがあった。
ーー宇野選手は、逆境を跳ね返すことによって、リンクで笑みを漏らす"王者の風格"を手に入れたように見えますが、いかがでしょうか?
本田は間髪入れずに答えていた。
「宇野選手以上に、スケートの試合に緊張しないという選手は他に見たことがありません。

ふたりのダンスは、根底に敬意があるのかもしれない。その土台があるからこそ、日々成長できた。ふたりの切磋琢磨が表出していたのが、前半にそれぞれがソロで踊ったパートだ。
前半の見せ場、本田はソロで『天国の階段』をスパニッシュギターの哀愁に合わせて舞っている。タンゴのプログラムからの流れで、赤いドレスを身にまといながら、フラメンコの激情と高潔さを表現し、スパラルや指の動きの一つひとつに色気が漂わせている。そして宇野がケガを押した戦いで全日本選手権優勝を勝ち獲ったプログラムを踊りきった。
つづいて宇野はソロで『ブエノスアイレス午前零時/ロコへのバラード』を滑り、それは愛を込めた手紙を綴る風情があった。重心が低いスケーティングは出色で、得意のクリムキンイーグルで歓声も浴びた。
そして、まだ競技者としても十分に世界上位を狙えるジャンプをアクセル、トーループ、ループなど次々に高い精度で成功させ、曲の高揚感を高めていた。
このつながりは、アイスダンスとはまた違った"ふたりの物語性"を感じさせた。次の挑戦の序章につながるのかもしれない。
【続編は新しいものを取り入れたい】
「皆さんを驚かせられるようなスケーターになって、また戻ってきたいと思います」
宇野はそう言って、次の挑戦に挑む。彼は周りと関わって、作品をつくり上げる快感に目覚めてしまった。それはグループで滑るパートも、ステファン・ランビエールとのデュエットもそうだが、本田とのアイスダンスは特別なものがあるだろう。
「『Ice Brave 2』については、どうしようってまだ何も決めていなくて。『1』がよかったから、よりいいものにしたいし、いいものを変えたくないけど、新しいものも取り入れたい。でも、いいものがありすぎて迷いそうだなって(笑)。まだ決まってないことを多くて、(7月)18日に少しでも詳細を発表できるように、いろいろ考えたいですね」
宇野は言う。本田とのアイスダンスがどんな展開を見せるか。それもひとつの焦点だ。

終わり