パリ五輪後のバレーボール男子日本代表は、3年後のロサンゼルス五輪を見据えて、ネーションズリーグで新たな船出をしている。新たにロラン・ティリ監督を迎え、中国、ブルガリアでのラウンドを経て、日本ラウンドを戦った。

パリ五輪の中心メンバー以外で試合を重ね、底上げを続けてきた。その結果、宮浦健人(26歳、ウルフドッグス名古屋)を中心に予選ラウンドは4位となり、ファイナルラウンド(準々決勝)進出を決めている。

 石川祐希(29歳、ペルージャ)、髙橋藍(23歳、サントリーサンバーズ大阪)、小野寺太志(29歳、サントリーサンバーズ大阪)、山内晶大(31歳、大阪ブルテオン)は日本ラウンドから合流したが、関田誠大(31歳、サントリーサンバーズ大阪)、西田有志(25歳、大阪ブルテオン)、髙橋健太郎(30歳、ジェイテクトSTINGS愛知)などはそれぞれ治療や休養を優先している。チームは進化を遂げるため、"新しい血"を必要としていた。悲願のメダル獲得に向けては、プラスアルファの競争力が不可欠だ。

 ネーションズリーグは、パリ五輪で主力ではなかった選手の台頭が求められた大会と言える。

バレーボール日本代表に「新しい風」甲斐優斗、小川智大...ネ...の画像はこちら >>
 バレーボール男子ネーションズリーグ2025千葉大会、一気にスター候補に躍り出たのは甲斐優斗(21歳、専修大)だろう。

 甲斐は、最年少でパリ五輪の12人のメンバーにも選ばれていた。いきなり現れたルーキーではない。無尽蔵なポテンシャルを持て余していたようなところがあったが、アジャストさせつつある。ドイツ戦では、最後の場面で登場すると、いきなりマッチポイントとなるサービスエースを決めた。長身から繰り出すサーブは迫力満点。

甘いマスクもあって、女性の視線を集めるが、実力も白眉だ。

「後輩では、甲斐選手とかですかね」

 髙橋藍も、インタビューのなかで気になる選手として甲斐の名前を挙げていたほどだ。

 アルゼンチン戦でも、甲斐は途中で出場すると、再びチャンスサーバーとして試合の流れを変えている。長身200センチのスパイクサーブは、全身の力がむちのように伝わり、ボールに強い回転をかけることも、無回転で無軌道に曲げることもできる。相手レシーバーが予測していても、なかなか対応できない。セットカウント0-2から3-2の大逆転勝利につなげた。

【神業的な守りを見せた小川智大】

 続くブラジル戦は、さらに出場時間が長くなった。相手には力の差を見せつけられたが、スパイク力は強豪を脅かしていた。何より、サーブで流れがきそうな気運が漂い、そこにスター性を見出せた。

「(ブラジルは)鋭角なところに落としてきたり、自分たちもつなぎのところで惜しくも取りきれなかったり、そこの差が結果に出ましたが......まだまだ自分ができるという準備はしています」

 セットカウント0-3で完敗したブラジル戦後、甲斐はわずかに悔しさを滲ませながら、こう続けている。

「サーブの部分では自信を持って打てています。これからも、そこは上げていけたらと思っていますね。

(劣勢の展開で)なんとかしたいって気持ちでプレーしていましたし、そこまで差があったとは思っていません。自分が力不足で悔しい部分はありますが、これから調整し、また出場機会を得られるように......」

 もうひとり、新たな風を吹かせたのは、ネーションズリーグ全体でベストディグのランキングで4位につけるリベロの小川智大(29歳、サントリーサンバーズ大阪)だろう。

 小川はもともと山本智大(30歳、大阪ブルテオン)と並ぶ実力者だが、パリ五輪はサポートメンバーとして過ごしている。現地でチーム練習に参加しながら、五輪メンバーがチームスタッフたちと移動する一方、エバデダン・ラリーとふたり一緒に自転車で別の場所に移動。チームを全力でサポートしながらも、忸怩たる思いだったはずだ。

「やはり、小川のディフェンスがすばらしかった。とにかく拾いまくっていた」

 アルゼンチン代表で、SVリーグの2024-25シーズンは日本製鉄ブレイザーズ堺でプレーしたルシアノ・パロンスキーは試合後、そう言って感嘆していた。最多得点を記録したアタッカーの目から見ても、信じられないディグだったという。

 劣勢だったブラジル戦も、小川は髙橋藍あるいは富田将馬(28歳、大阪ブルテオン)と組んだディフェンスシステムを機能させていた。ディグ(スパイクレシーブ)、レセプション(サーブレシーブ)と堅牢さを誇った。しっかりとパスを返すことで攻撃につなげていた。

 そしてファイナル進出をかけたアメリカ戦も、小川は最高殊勲者のひとりだった。

ミドルブロッカーと連係したディグは神業的。堅牢な守りが攻撃を支え、3-0のストレート勝利をもたらした。

「小川選手とはふたりで組んで、やれている手ごたえがあります。(パスが)上がるシチュエーションはしっかりと増えているかなって」

 髙橋もその守備力を称賛している。

「小川選手は非常にディフェンスの幅が広い。レセプションに関しても助かっているところが多いですし、おかげでスパイクに集中できていると感じますね。自分が(レシーブに)行っていたところも小川選手が行ってくれるので、守備範囲が広くて助けられています」

 小川が山本と競争することで、日本のリベロは盤石と言える。ふたりがしのぎを削ることで、防御力は担保されるのだ。しっかりとボールを上げ、攻撃につなげることを戦いの信条とする日本にとっては礎石となる存在だ。

 上記のふたり以外にも、伏兵が台頭した。ミドルブロッカーの西本圭吾(26歳、広島サンダーズ)はブラジル戦でブロックポイントを取り、クイックも次々に決めている。同じミドルブロッカーの佐藤駿一郎(25歳、ウルフドッグス名古屋)もアメリカ戦では要所で205センチの高さを生かしていた。

アウトサイドヒッターの西山大翔(22歳、大阪ブルテオン)もブラジルを相手に途中出場で7点を奪い、スパイク決定率は50%を記録した。

 パリ五輪主力メンバーのアップデートが、ティリ監督の仕事になる。同じメンバーになるにしても、競争がなかったら集団は弱体化するだろう。チームの強靭化には新しい血が必要になる。

 7月30日から中国で始まるネーションズリーグ、ファイナルラウンドは格好の舞台だ。準々決勝、日本はポーランドとの対戦が決まっている。

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