石川祐希は2024-25シーズン、世界最高峰イタリア、セリエAのシル・サフェーティ・ペルージャの主力として、足跡を刻んでいる。日本人初となるCEVチャンピオンズリーグ優勝を経験。
だが、ネーションズリーグ男子2025千葉大会から合流した石川のコンディションは万全ではなかった。右肩の痛みをおしてのプレーが続いた。ドイツ戦、アルゼンチン戦と、コートに立った時の存在感が際立つ一方、コートの外から見守るしかないシーンもあった。続くブラジル戦で登録外になったのは、コンディションを考えたら必然と言えた。
それでも、ドイツ戦はチーム最多の22得点だったし、アルゼンチン戦も終盤はベンチにいながら13得点を決めた。ファイナルがかかったアメリカ戦も、本調子には程遠いながら7得点で勝利に貢献。自分のゾーンに入った時のスパイクは出色で、どんな高さでも、軌道がずれていても、託されたパスはすべて決めきる覇気が漂った。
「トスが上がった以上、僕が決める」
石川は決然として言う―――。
石川は世界的なバレーボールプレーヤーである。それだけに彼が与える効果は絶大で、彼自身の活躍だけの話に収まらない。その点で、ネーションズリーグの日本ラウンドでも存在は欠かせなかった。
コンディション調整が必要だった石川が合流したことにはリスクもつきまとっていた。しかし、今回は新たにロラン・ティリ監督が就任し、新しいメンバーも少なくなく、今後に向けた新体制がスタートしたところで、石川が監督や選手と対話を図れたことは大きな収穫だった。3年後のロサンゼルス五輪を考えた場合、目先の結果以上に有益なことだろう。
【欧州の最前線で戦ってきた賜物】
「(代表は)トスがどれだけ乱れようが、対応してくれる選手がたくさんいて、そこで決めてくれるし、"どうしてほしい"ってことも伝えてくれるので楽しいですね」
日本ラウンドで、休養した関田誠大に代わり主力で戦ったセッター、永露元稀はそう明かし、石川についてこう言及している。
「石川選手とは沖縄合宿からコンビも細かくやってきました。積極的にコミュニケーションをとってくれるのでやりやすいですね。試合じゃないとできない状況もあるので、そこはやりながら克服していきたいですけど。石川選手は『高さはいいから、(トスの)リズムを出して』と言っていたんですが、このリズムのところで、自分が慣れていないところもあったので......。ただ、試合は上げやすかったですし、彼もしっかり決めてくれました」
石川は世界の猛者と敵味方となってやっているだけに、図抜けた適応力の高さを見せる。
「(永露の)組み立てで、自信を持って打てていました。彼も感覚はわかっていないところはあるはずですが、そこは僕がアジャストしないといけない。トスが上がった以上、僕が決めないと。そのなかで、もっと決められたところもあったし、そこはもう少し合わせていきたいですね」
石川はそう語り、決して焦っていなかった。ヨーロッパの最前線で戦う自信や経験の賜物だろう。違った価値観、違ったプレーリズムの選手とコミュニケーションをとって、自分のよさを出す作業を日々行なっているのだ。
7月18日、ブラジル戦で石川は大事を取る形で登録から外れ、チームはセットカウント0-3で完敗している。石川は出場しなかったが、ミックスゾーンで報道陣の質問に丁寧に答えていた。チームを引っ張る意識の高さから戦いを俯瞰し、今後の教訓としているのだ。
「全体的な内容としては悪くなかったと思います」
石川はそう総括し、こう続けた。
「僕たちが1セット目、少しミスが多くなって、そこがもったいなかったですね。2セット目、相手のミドル使われ始めて以降は、ブラジルの流れだったなと思います。3セット目はリードしていたんですが、1点を奪われたあと、連続失点したところがあって、外から見ていて、あそこで耐えられたら、とは思いました。すぐに打ちたくなる焦りはわかるんですけど、冷静な判断も大事なって」
石川は「世界」を想定し、はっきりとこう語っている。
「(定位置の)オーバーのトスではなく、(厳しいポジションから)アンダーで上げるようなコート内のシチュエーションで、アタッカーがうまく打ててないところもありました。簡単ではないですが、そこの精度を高めないと。やっぱり、海外のトップ選手はそういうパスもうまく打ってくるので」
彼が持つ「世界基準」こそ、日本の武器だろう。修羅場をくぐり抜けることで、強さは本物になる。たとえ本調子ではなくとも、石川がチームにいる意味は限りなく大きい。なぜなら、世界のトップ選手しか見ていない風景があるからだ。
7月30日から中国で、ネーションズリーグのファイナルラウンドが行なわれる。前々回は3位、前回は2位だった。