【練習はできているのに......】
「今回は自己ベスト、13分35秒切りを目指していたんですけど......」
桑田駿介(駒澤大・2年)は悔しそうな表情を浮かべて、そう言った。
7月19日、ホクレンディスタンスチャレンジ第5戦・網走大会(北海道網走市)の男子5000mB組、桑田は13分39秒47の自己ベスト更新を狙ってスタートした。レース前、大八木弘明総監督からは「三浦(龍司)(SUBARU)の後についていけば、自然と自己ベストにつながるからしっかりついていくように」という指示を受けていた。
レースではそのとおり、前週のダイヤモンドリーグ・モナコ大会で自身が持つ3000m障害の日本記録を大幅に塗り替えた三浦の背中を見て走り、自己ベストを更新する勢いで走っていた。
「3500mまではよかったんですが、それ以降、徐々に離れてしまって......。そこで気持ちの切り替えはできたと思うんですけど、まだまだ力が足りなかった。三浦選手についていけたら自己ベストが出たと思うんですけど、そこまでいくことができず、本当に悔しいです」
タイムは13分44秒50のシーズンベスト。蒸し暑いコンディションを考えると、決して悪くない。ただ、本人も話していたように、中盤まではすばらしい走りを見せたものの、後半に落ちてしまった。そして、今回に限らず、今シーズンの桑田のレースにはその傾向がある。
ルーキーイヤーの昨年は、すばらしい走りを見せた。入学まもない5月、関東インカレ男子2部5000mで5位(13分49秒69)に入賞し、周囲をあっと言わせた。その後、持ち前のスピードが高く評価され、田澤廉、鈴木芽吹(いずれもトヨタ自動車)、篠原倖太朗(現富士通)、佐藤圭汰(現駒澤大・4年)らが研鑽を積む「Ggoat」の練習にも参加した。
迎えた駅伝シーズン、10月の出雲駅伝は1区6位とまずまずの走りを見せ、続く11月の全日本大学駅伝では2区17位と失速し、悔し涙をこぼしたものの、12月の日体大記録会10000mで28分12秒02の自己ベストをマーク。箱根駅伝では4区4位と上々の走りを見せた。
だが、2年生になった今シーズン、5月のゴールデンゲームズinのべおか5000mは14分00秒02に終わり、関東インカレは応援にまわった。会場では浮かない表情を見せ、先輩たちも「心の問題」と桑田の状態を心配していた。
その後、6月1日の日体大記録会5000mは13分50秒63で組15位。思うように走れなかった苛立ちからか、レース後の表情は硬いままだった。そして、今回の網走である。課題である後半の走りを改善しようと臨んだが、その思いとは裏腹の結果に終わった。
「練習はできているんですけど、中盤からラストのところで、なかなか粘ることができないレースが続いてしまって......。やってやるという気持ちはあるんですけど、その気持ちに体が連動しないんです。気持ちという面でまだまだ弱いのかなと思いますが、結果が出ないのはもどかしいです」
レースを見ていた大八木総監督も首をかしげる。
「3000mまではいいんだけど、3500mで三浦と離れたあとだよ。1、2周は我慢して走り、最後に上げていくことができれば自己ベストに近いところまで行けたと思うんだけど、逆にどんどん下がってきてしまった。練習がきちんとできているので走れないわけじゃない。
練習では先輩たちに負けないくらいいい走りをしており、消化率も高い。それだけにレースでの走りに期待が膨らむが、結果がついてこない。Ggoatに所属する先輩たちからは「自分たちと一緒に練習しているんだから13分30秒は切れるだろう。それが切れないのは桑田自身に何か欠点があるんじゃないか。今のままじゃGgaotでやる意味はないんじゃないか」といった厳しい声も聞かれた。
「Ggoatのメンバーは、みんな日の丸をつけて走る選手。一緒に練習をしても、試合で結果を出さないと誰も評価しないんですよ。厳しいし、大変だけど、世界を目指す以上、練習だけできても、結果に結びつけないと意味がない。桑田は、苦しんでいるけど、大学にいる間は試練が続くと思いますね」
大八木総監督は、厳しい表情でそう言った。
【箱根含めて3大駅伝は区間賞が目標】
桑田への声が厳しいのは期待の大きさの表れでもある。だが、練習で走れているのに本番で結果が出ないのは、何なのだろうか。いくつか原因は考えられるが、例えば練習を消化することに一生懸命で、レース本番を想定した練習ができていないからなのか。
桑田の性格から普段の練習は全力で取り組んでいるだろうが、レース後半の粘りが薄いことや出力が落ちることを考えると、レース前の練習はもう少し余裕を持ってこなすなど、レースに力を蓄えておく必要があるようにも思える。
「今回は、(三浦選手に)途中までついていけたので、6月の日体大記録会の時よりは内容的に悪くないんですが......。今、結果が出ないのは気持ちの部分が大きいと周囲から見られていると思います。これから夏合宿に入って、一段階強くなっていきたいですし、気持ちの部分で変わったなと思ってもらえるような走りをしていきたいです」
網走でのレースは、自己ベスト更新には至らなかったが、今後につながる気づきがあった。
「三浦選手の走りは参考になりました。外国人選手がペースの上げ下げをしていくなか、三浦選手はペースの変化に惑わされない。つねに一定のペースで走り、相手が落ちてくるタイミングでまたついていくんです。それはすごいなと思いましたし、レースペースが染みついていると思いました」
三浦は13分28秒28をマークしただけに、もし桑田が最後までついていくことができれば、自己ベスト更新はもちろん、13分30秒切りも可能だった。
これでトラックシーズンは終わり、夏合宿に入り、その後は駅伝シーズンになる。
「個人的には3つの駅伝に出て、すべて区間賞が目標ですが、2年目の今年は出雲駅伝が一番難しい壁になってくると思うので、出る前提に準備をしていきたいです。全日本は、昨年はいい走りができなかったですし、箱根は4区のラスト1キロで失速してしまったので、今回は確実に区間賞を狙っていきたいです。
桑田は、決意を秘めたキリッとした表情で、そう言った。
競技人生も普通の人生もよい時ばかりではない。桑田が壁を乗り越えられず、苦しんでいるのは、いずれ駒澤大のエースとなり、さらなる進化と競技人生を豊かにするための修練だが、果たして秋にどんな姿を見せてくれるだろうか――。