リバプールのプレシーズンの初戦となった横浜F・マリノスとの親善試合で、16歳のリオ・ングモハが躍動した。彼のほかにも、欧州のトップレベルでは10代の選手が次々に台頭しているが、日本では同じ状況が生まれにくいのだろうか──。
とてつもない才能を感じさせる16歳のアタッカーが、日産スタジアムに集まった6万7032人──Jリーグ主催試合における最多入場者数──のフットボールファンを沸かせた。プレミアリーグ王者リバプールの一員として生まれ故郷の横浜に凱旋した遠藤航や、推定移籍金約228億円で新加入して早速ゴールを決めたフロリアン・ヴィルツに注目が集まったが、彼らと同等かそれ以上のインパクトを放ったのが、2008年8月生まれのリオ・ングモハだ。
7月30日に行なわれた横浜FMとのフレンドリーマッチで、60分に遠藤がフィルジル・ファン・ダイクと交代してキャプテンマークを引き継ぐと、その3分後にングモハは他の6選手と共にピッチに送り出された。コーディー・ガクポに代わって左ウイングに入ると、別次元の加減速を交えたドリブルで相手を翻弄。スピーディーな突破で赤に染まったスタンドからどよめきを引き起こすと、73分には単独で持ち込み、鋭いシュートを放ったがGK木村凌也に阻まれた。その後も積極的にボールを欲しがり、受けたら果敢に仕掛け続けると、87分に歓喜が訪れる。ハーフウェー付近からドリブルを始め、ボックスに近づいた時には左右に複数の選択肢があるにもかかわらず、対峙する敵を瞬間的に外して右足を振り抜き、チームの3点目を決めた。腰回りの筋肉は成人のそれだったが、ゴール後にアップでスクリーンに映し出された表情には、まだまだあどけない少年の面影を残していた。
【「まだまだ成長の余地を残すが、あれほど活躍したなら称えられるべき」】
「16、17、18歳の若手が試合で活躍するのを見るのは、いつだっていいものだ」と試合後にリバプールのアルネ・スロット監督は語った。
「ただし、今日の試合ではマッカ(アレクシス・マカリステル)やカーティス(・ジョーンズ)にパスを出すべき時があったので、まだまだ成長しなければならないところがある。とはいえ、16歳の選手があれほどのインパクトを残せたなら、称えられてしかるべきだ」
フットボールの本場の人々は、若手が少し活躍したくらいで、異常に騒いだり、持ち上げたりすることはない。どんなに大きな才能を宿している原石でも、丁寧に磨き上げなければ、第一線で光り輝くことはないとわかっているからだ。就任1年目にリバプールをプレミアリーグ優勝に導いたこのオランダ人指揮官も、努めて抑制したトーンでチームに現れた超新星について語っていた。
ただし、スロット監督こそ、およそ1年前にチェルシー・ユースから加入したングモハをファーストチームに引き上げ、今年1月のFAカップのアクリントン・スタンリー戦でシニアデビューさせた張本人だ。この時、ングモハは16歳135日で、イングランド随一の名門クラブの最年少先発出場記録を塗り替えている。
そして、このプレシーズンツアーにも帯同し、初戦で衝撃的なパフォーマンスを披露した。しかも、この日は前線の主力のひとりだったルイス・ディアスのバイエルンへの移籍が正式に決定。28歳のコロンビア代表を移籍金約129億円で放出して、下部組織上がりのイングランドU-17代表と世代交代できるなら、これほど理想的なことはない。
それにしても、なぜチェルシーはこんなに特大のタレントを手放したのか。3年前にクラブを買収したアメリカ人オーナーたちはこれまで、手当たり次第に若手を獲得してきた。その一方で、2023年夏にはその2年前のチャンピオンズリーグ優勝に主力として貢献したメイソン・マウント──チェルシー・ユースの出世頭だった──をマンチェスター・ユナイテッドに放出するなど、自前で育てた選手を軽視しがちだ。ディストレスト債券(経営破たんや経営不振による財務危機に陥り、行き詰っている企業に対する債権)などで巨額の財を築いた投資会社を中心とする経営陣としては、獲得の際に移籍金がかかっていないアカデミー出身者を売却するのが、もっとも実入りの良い商売と考えているのだろう。ファンの心情などは二の次にして。
実際、チェルシーは今夏にパルメイラスから18歳のエステバンを獲得しており、前線の若手をまたひとり増やしている。クラブW杯では移籍先のチェルシーを相手にゴールを挙げたように、このブラジル人アタッカーも欧州での活躍が期待されている。
【バルセロナ、パリ・サンジェルマン、アーセナル、トッテナムにも】
また、移籍情報サイトで市場価値がもっとも高いスペイン代表FWラミン・ヤマルは18歳になったばかりで、同じくFCバルセロナには最終ラインの中央にこちらも18歳のスペイン代表DFパウ・クバルシがいる。チャンピオンズリーグ王者パリ・サンジェルマンには、19歳のフランス代表MFワレン・ザイール=エメリがおり、今季こそプレミアリーグ制覇を狙うアーセナルには、どちらも18歳のイングランドU-21代表FWイーサン・ヌワネリと、イングランド代表DFマイルス・ルイス=スケリーがいる。20歳の高井幸大が移ったトッテナム・ホットスパーにも、共に19歳のイングランドU-21代表MFアーチー・グレイと、スウェーデン代表MFルーカス・ベルバリが在籍している。
ざっと上げただけでも、真のトップレベルには10代の選手がこんなにいる。ちなみにリバプールが快勝したこの日のボールボーイは、横浜市内の高校のサッカー部の生徒たちで、ヌモハより年上だった可能性もある。この違いについて、試合前半、横浜FMのゴールを守ったGK朴一圭は次のように語った。
「日本にも若くてよい選手はいると思うんですけど、(あまり試合で見られないのは)文化的なところがありますよね。僕は若手をもっと積極的に起用したらいいのに、と思います。こんな大観衆の前でプレーすれば、当然ながら緊張するので、それを早い段階から経験できれば、けっこう変わると思うんですよね。
もちろん、(ングモハの)能力は高かったですけど。やっぱりトップスピードであれだけの技術を繰り出せるところが、すごいなと。そこが大きな違いですよね」
いつだって、新鋭の台頭には胸が高鳴るものだ。