東京ヴェルディ・アカデミーの実態
~プロで戦える選手が育つわけ(連載◆第15回)
番外編:中村忠ヘッドオブコーチングインタビュー(前編)

Jリーグ発足以前から、プロで活躍する選手たちを次々に輩出してきた東京ヴェルディの育成組織。その育成の秘密に迫る同連載、今回から2回に分けてアカデミーのヘッドオブコーチング・中村忠氏のインタビューをお送りする――。

【Jリーグ連載】東京ヴェルディの中村忠が語るアカデミーの昔と...の画像はこちら >>
――中村さん自身も、東京ヴェルディの前身となる読売クラブの育成組織出身です。なぜ中学時代に読売クラブを選んだのですか。

中村忠(以下、中村)自宅から通えるクラブのなかで、たぶん一番レベルが高かったのが、たまたま読売クラブでした。小学校のときの先生が「中学校(のサッカー部)でやるのもいいけど、こういうチームがあるよ」と紹介してくれて、連れてきてもらったのがきっかけです。

 だから、読売クラブがどういうチームなのかもよく知らなかった。『ダイヤモンドサッカー』(※ヨーロッパの試合を録画中継していたサッカー番組)を見ながら、「海外でサッカーをやりたい」「プロになりたい」っていうのが夢でしたから。

 最初は「(自宅から)そんな遠いところに行くのは......」っていう感覚だったんですけど、一回練習に来てみたら、まったくボールに触れなかった。僕も、地元では一番うまいって言われていた選手で、お山の大将だったんですけど、周りがみんなうまくて、まったくボールに触れない状態でした。

――そんなに違うものですか。

中村 僕は中学1年の5月か、6月頃に、ここに初めて(練習参加に)来たんですけど、みんなめっちゃうまくて、結局2週間ぐらい通って、やっと合格が出ました。

 僕が通っていた中学校も、東京都では結構上のほうで、最初は掛け持ちでやっていたので、中学2年のときには(中体連の)都大会で優勝したりしていたんですけど、一度ここで(読売ジュニアユースと)練習試合をやったら10対1ぐらいで負けちゃって(苦笑)。そのぐらいのレベルの差があったので、衝撃を受けたっていうか、ここでうまくなりたいなっていう気持ちだけでした。

――とはいえ、当時はクラブユースが一般的でなく、高校サッカーが全盛だった時代です。進学にあたっては、強い高校への憧れなどはなかったのですか。

中村 読売に入る前はありました。小学生のときは帝京や武南など、そういう(強豪の)高校へ行って、高校選手権に出て、プロになれれば、と思っていました。

 でも、読売に入ったら入ったで、そこからは競争で.........。中学3年のジュニアユースのときには、もうトップチームの合宿にも連れていってもらったりしていたので、途中からは、もう高体連のことは考えなくなっていました。

――読売ユースと言えば、当時はテクニック重視のスタイルで知られていましたが、現在のヴェルディユースにも、その伝統は受け継がれていますか。

中村 そうですね。ただ、やっぱり当時の子のほうが、ギラギラしていたのは事実ですよね。

 当時は、本当にサッカーが好きな子がいろんなところから集まっていて、もうずっとサッカーをやっていましたから。ここに来た瞬間からグラウンドに出て、ボールを蹴って、練習が終わっても、家が近い子たちはギリギリまでやっていたし。

 それで試合に出られなくなった子は(クラブを)やめていき、また新しい選手が入ってくる。

もうブラジルみたいな感じですよ(笑)。僕と一緒に練習参加に来ていた子たちも、ほとんど途中であきらめていきました。

 そういう意味では、今は選ばれた子たちがやっているし、ほとんどやめることもない。洗練された子が多いのかなっていう印象はあります。

――以前、菊原志郎さんがヴェルディユースの監督だったとき、「自分たちのときと比べて、今の子にとってのサッカーは習い事っぽい」という話を聞いたことがあります。

中村 みんな、いろんなスクールでサッカーを始めていて、親もお金をかけて習い事のようにさせているので、(Jクラブのアカデミーに入ることが)ちょっと受験っぽい感じになっているところはあると思います。

 でも、それはもう時代のあり方だから。今は、いろんな誘惑もあるし、勉強も大変だろうし。昔は、「勉強なんかいいからサッカーやってろ」っていう時代だったから(笑)。

 そういった意味では、選手にはまったく責任はないと思う一方で、(選手たちに)「グラウンドに入ったら、ここからは競争だ」って切り替えさせるのは、正直難しい部分です。プロの世界は競争なので、そこに(気持ちを)持っていかなければいけないんですけど......。

 僕ら指導者は、本当にプロを目指すなら、何が必要なのかっていうことは、伝えていかなければいけないと思います。

(つづく)◆東京ヴェルディ・アカデミー出身の最高傑作は?>>

編集部おすすめ