8月16日(日本時間17日)、米イリノイ州シカゴ・ユナイテッドセンターでの『UFC319』で朝倉海のUFC第2戦が行なわれる。
昨年12月に王者アレッシャンドリ・パントージャに敗れて以来、約8カ月ぶりの再起戦。
併せて、2025年7月27日の『超RIZIN.4 真夏の喧嘩祭り』第7試合。『RIZIN WORLD GP 2025 ヘビー級トーナメント』準決勝に臨んだ上田幹雄の2ラウンドTKO負けについて、セコンドの立場から振り返ってもらった。
【朝倉海のUFC2戦目の展望】
――海選手が闘うティム・エリオット選手は、どんなタイプのファイターですか?
「非常に読みにくい、アンオーソドックスなファイターですね。UFCのフライ級11位に、エリオットのような型破りな選手がいることも驚きです。ある意味、自由度の高いフライ級だからこそあのスタイルの選手がいるのかもしれません。
今成(正和)選手のような、予測不能な印象です。ただ、クセもあって、パンチを避ける時や攻撃に入る時、体を右側に倒す傾向が強いです。右側に倒してからタックルに変化したりしますね」
――注意すべき点は?
「エリオットの攻撃は、意外と遠いところから届きます。歩きながら2、3発パンチを振ってからタックルをしかけてきたりします。ですから、海選手は距離設定を間違えないことが大切だと思いますね。
それから、単純な運動量はエリオットのほうが多いかもしれません。ずっと動き続けているので、海選手がそれに反応し続けると相手は乗ってきてやりやすくなります。海選手はどっしり構えて、エリオットに合わせて体の向きだけ変える、くらいでいいのかなと思いますね」
――海選手としては、テイクダウンを防ぐか、倒されてもすぐに立ってスタンドで勝負したいでしょうか?
「そうですね。ただ、立ち際のエリオットの攻撃には注意したいところです。海選手がニュートラルな状態に戻る前に攻撃を連打してくるでしょうから、そこで翻弄されないようにしたい。
海選手は立ち際に無理に正対しようとせずに、バックハンドブローを入れるとか、後ろを向いたまま一度離れてもいいと思います。スタンドでは、パンチの打ち分け、カーフキック、跳びヒザなどの足技を混ぜていくと、エリオットを翻弄できる可能性があると思います」
――海選手にとっては、UFC初勝利がかかる重要な一戦となります。
「勝ちきるためには、連打でペースを上げるより、強い一発、効かせる攻撃を意識したほうがいいのかなと。一発を大事に打ってほしいですね。海選手の力を見せつけての初勝利を期待しています」
【上田vsソルダトキン戦の手応えと誤算】
――続いては、『超RIZIN.4』に出場した上田選手について伺います。髙阪さんはセコンドとして臨みましたが、残念ながら2ラウンドTKO負けとなりました。
「ソルダトキン選手の前戦、『RIZIN LANDMARK 11』は現地(堀江圭功選手のセコンドで帯同)で観戦して、過去の映像も何度もチェックしました。

しかし今回のソルダトキン選手は、簡単に言うと、過去よりも状態がかなりよかった。以前の試合では、だいたい3分くらいで失速したり、リズムが崩れる場面が見られたんですが、今回はそれがなかった。崩れないように自分をコントロールしてきた印象でした。彼自身がこの一戦に向けて、相当な準備を積んできたことが伝わってきましたね。
ヘビー級で勝つために何が必要かを深く考えさせられる内容でした。勝利を目指すのは大前提なんですけど、試合を自分でコントロールできる状態を作るのが一番大事だと思いました。今回は完全に、ソルダトキン選手のコントロール下で進んでしまったので、今後はこちらが主導権を握るための武器が必要だと感じましたね」
――狙っていた展開でうまくいった点、うまくいかなかった点を教えてください。
「打撃でいえば、足技の距離感は合っていたと思います。特に序盤の組みの展開や、テイクダウンされた後で立ち上がる場面は、しっかり対応できていました。寝かされる場面は想定内でしたし、2、3回とテイクダウンされても、立ち上がって打撃に戻す、という練習はしてきたので。そこまではプランどおりだったと思います。
ただ、立ち上がったあとに、強い攻撃を出すという部分が欠けてしまっていたんですよね。特に顔面へのプレッシャー。立ち上がり際、顔面へ打撃を見せられていれば、向こうが『あ、立たれた』と意識をそらした隙にヒットしたかもしれない。その打撃でダウンを奪えなかったとしても、ソルダトキン選手がニュートラルな状態に戻すまでの時間を稼げたりして、ペースを崩せたんじゃないかと。それがうまく出せなかったのが反省点です」
【課題と今後の強化ポイント】
――今回の試合を通じて見えたことは?
「今後に向けて何をやらなければいけないのか、というのがより明確になった試合だったと思います。そもそも、やらないといけないことは、たくさんあります。たとえばUFCのような、海外トップレベルのヘビー級の選手たちにどうやったら近づけるのか、その視点で幹雄のことを見ているんですよ。
当然、そこにたどり着くための段階をひとつひとつ踏んでいく必要がありますし、そのために必要な練習もやっていかないといけない。一度にあれもこれも伝えても身につかないと思うので、『今、こういう動きが必要だ』というのは小出しに伝えています。本人もそれを理解しながら取り組んでくれていますね」
――敗戦後、上田選手はどんな様子でしたか?
「今回の敗戦を通じて、彼自身が何をすべきか、何が足りなかったのかをより明確に感じ取って受け入れています。試合後には、『あの場面ではどうすればよかったのか』『次に同じ状況になったらどう対応すべきか』といった具体的な質問や相談が、本人から出てきていますから。すごく悔しい試合だったとは思いますが、同時に大きな学びと気づきを得たはずです。
――今回のヘビー級トーナメント、上田選手は唯一準決勝に進んだ日本人選手ということで、ファンの期待を一身に背負う形になりました。本人も優勝してライアン・ベイダー選手(元Bellatorヘビー級王者)と闘うことを熱望していたと聞いています。
「私もそれを想定していましたし、だからこそ悔しさも大きかったです。ただ、やはりそう簡単ではないなと思い知らされましたね」
――次戦のタイミングは想定されていますか?
「私も幹雄も今回の試合を経て、『時間をかけて積み上げたい』という意志を持っています。ですから、年内にもう1試合というのは現実的に厳しいかなと考えています」
――ヘビー級で外国人と闘う厳しさを、髙阪さんは身をもって経験されていますからね。
「そうですね。当時、自分の体重は100kgそこそこだったんですが、90kg台の外国人選手と真正面からフィジカル勝負をしようとしても、正直、勝てる気がしなかった。むしろ、80kg台の選手と張り合うくらいが限界で、『これが現実か......』と痛感させられる場面が何度もありました。だからこそ、フィジカルではなく、技術や戦略で勝つための手段を考え続けました。それが、ヘビー級で闘ううえで大事なことなんだと、身をもって知りましたね」
――そんな髙阪さんだからこそ、上田選手に伝えられることも多いのでは?
「そう思います。幹雄も、私がこれまでどういう経験をしてきたかを理解したうえで話を聞いてくれている、という感覚があるんですよ。
――髙阪さんが以前おっしゃっていましたが、打撃、組み、寝技で穴がないことに加えて、勝負できる武器が必要になってくると。
「そうですね。MMAはどんどん進化していますから。創成期から関わってきた自分とすれば、それ自体はすごく喜ばしいことなんですが、今の選手たちは本当に大変だと思います(笑)。自分たちの時代は、一本"柱"があれば、なんとかなっていたこともありました。でも今、上を目指すには総合力が求められます。
ひとつひとつ着実に積み上げていけば、必ず進化は見えてくると思います。少し時間をかけて、しっかりとレベルアップを重ねて、また新しい幹雄の姿をお見せできると信じています」
【プロフィール】
■髙阪剛(こうさか・つよし)
学生時代は柔道で実績を残し、リングスに入団。リングスでの活躍を機にアメリカに活動の拠点を移し、UFCに参戦を果たす。リングス活動休止後はDEEP、パンクラス、PRIDE、RIZINで世界の強豪たちと鎬を削ってきた。