J1は残り12試合、残留争いが熾烈を極めつつある。第26節はその乱戦ぶりを物語っていた。
18位の横浜F・マリノスが、13位の清水エスパルスを混戦に引きずり込むように3-1と勝利し、"降格圏から抜け出た"と思われた。しかし、17位の湘南ベルマーレが、15位のFC東京戦で後半アディショナルタイムに追いつき引き分けに持ち込む。さらに19位の横浜FCが優勝を争うヴィッセル神戸に金星。20位のアルビレックス新潟も川崎フロンターレに引き分け、貴重な勝ち点1を奪い取った。
13位から20位までのチームが、降格を避けるためにしのぎを削る。順位がまったく入れ替わる可能性も否定できない。どこも決め手がないのだ。
8月16日、平塚。湘南がホームにFC東京を迎え撃って、最後に追いついて2-2で引き分けた戦いは象徴的だったと言える。
プレーデザイン、戦術的な意図が見えたのは湘南だった。就任5年目の山口智監督が植えつけてきたプレーモデルは、斬新ではなくとも、実直で効率的である。プレスひとつとっても方向づけがはっきりしているから、FC東京からムダなくボールを回収できていた。
「組織で戦う、というところで秩序を保ち、それぞれが責任を持ちながら、個を生かす、というところまでできました」
FC東京戦後、山口監督はそう言って胸を張った。
「その戦いを愚直に90分間続けたことが、最後の勝ち点1につながりました。前半から相手陣内でサッカーができましたし、後半も交代した選手を含め、やり続けてくれました。奪ったあとの攻め急ぎなど、もっと相手を見るべきで、課題もありましたし、守りのところでは焦らなくてもいいところもあった。単純にFKのファウルはいらなかったし、PKを与えた場面も冷静さが必要でした。ただ、90分を通してやったことが、(終了間際に追いつく)結果につながったと思います」
【湘南がギリギリでねばれる理由】
後半に入った石橋瀬凪は左サイドからドリブルで相手ラインを押し下げ、そのブロックの前を使うパスで、何度もチャンスを作り出していた。1点目も彼が押し下げた後、松本大弥がフリーでパスを受けてミドルを放ち、こぼれ球を押し込んでいる。左右からの揺さぶりは激しく、トレーニングを重ねた攻撃のイメージを感じさせた。それが終盤の同点劇につながった。
湘南は、GK上福元直人、DF畑大雅、鈴木淳之介、FW福田翔生などをシーズンは半ばで失いながら、チーム力を保っている。
ただ、湘南は直近のリーグ戦10試合は、4分け6敗と勝ち点獲得に苦労している。どこが相手でも(柏レイソル戦を除けば)互角に戦っているが、21失点で守備の脆さが目立つし、最後のところで仕留めきれない。率直に言って、戦力的な劣勢は否めないだろう。ギリギリの戦いが今回も続くはずだ。
一方、FC東京は戦力的には恵まれている。
長友佑都を筆頭に、森重真人、仲川輝人、橋本拳人など代表歴のある歴戦の猛者に、俵積田晃太、佐藤恵允、野澤零温、北原槙のような新鋭を揃えた混成軍。そこに、マルセロ・ヒアンのように使い方によっては強力な武器になるカードを擁する。そして夏には、GKキム・スンギュ、DFアレクサンダー・ショルツ、室屋成を次々に補強した。
なかでも、浦和レッズから期限付き移籍の長倉幹樹は非凡なストライカーと言える。南米、特にアルゼンチンのFWを思わせる攻守の激しさや駆け引きのうまさを感じさせる。
しかし、FC東京は選手に恵まれているが、組織としてチームを機能させることに苦労していた。バックラインからつなげようとしては、簡単にプレスにハマってしまう。どうにか敵陣に入っても、どう崩すのか、そのコンセプトが伝わってこない。練度が乏しく、個人任せで、やがて相手の勢いに押し込まれた。最後はリードを守ろうとするあまり下がり過ぎ、守る人数を増やす人海戦術しか打つ手がなかった。必然的にブロックの前のスペースを敵に明け渡し、それが後半アディショナルタイムの失点を生んだ。
「気合が足りない」「集中力が足りない」......そんな精神的な問題ではない。戦術的に能動性が足りず、失点は起こるべくして起こった。
湘南対FC東京は、残留争いの縮図と言えた。どちらも上位に浮上する決定打はない。清水から新潟まで勝ち点差は11ポイント。混戦必至だ。