FC東京に所属する長友佑都のプレーが、にわかに輝きを取り戻している。右サイドバックとして堅実な守備を見せ、クロスでゴールを演出。

浦和レッズ戦などは勝利の立役者になっていた。その積極性がすべて吉と出つつある。

「E-1選手権の前後から、プレーが変わってきた」

 チームメイトも対戦相手も、39歳になる長友の変化に驚嘆の声を上げる。

 長友は日の丸を背負ってピッチに立つにふさわしい選手として、時間を巻き戻したのだろうか?

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 ホーム開幕戦での長友のプレーは惨憺たるものだった。左ウイングバックで先発するが、高い位置でボールを受けても、撹乱するランニングや決定的な左足クロスはなし。結局、ボールを戻すだけだった。

 その後は次第にベンチが定位置になっていた。

 かつての長友は左サイドをアップダウンし、敵に主導権を与えないサイドバックだった。2010年南アフリカワールドカップ、2014年ブラジルワールドカップ、2018年ロシアワールドカップ、2022年のカタールワールドカップに出場。2011年前後はワールドクラスのサイドバックで、その実績は他を凌駕。カタールワールドカップでも、"自分の得意を最大限に出し、衰えを極力出さない"という老練さを見せていた。

 だが、今シーズン前半戦、長友は圧倒的だったスプリントと持久力も平均以下で、サイドで優位性を保てなくなった。

また、技術の拙さが明瞭に出た。左サイドでは右利きだけに左足でボールを持てずに幅が取れず、ボールを受けても展開が乏しく、主体的サッカーを目指すなかでは限界を露呈。慌てた末にパスミスからカウンターを食らうシーンもあって、空回りしていた。

 下位に低迷するクラブでもサブの長友が日本代表に選出されるのは、控え目に言って不可解だった。

 ところが、長友は右サイドバックとして(FC東京が4バックに変更)、息を吹き返している。コンディションがよくなったからか、あるいはE-1選手権優勝によってメンタル面で覚醒したからか、動きに活気が戻った。ピッチに立つ姿には自信が満ち、守備で相手に間合いを取らせず、攻撃ではクロスの精度が増した。歴戦の猛者と言うしかないが、メンタルモンスターである。

【メンタル面では突出しているが...】

 先日の湘南ベルマーレ戦では、後半アディショナルタイムで同点にされた試合後は誰よりも悔しがっていた。純粋な負けず嫌いが、すり減っていない。今も勝ち続けるために、頭と体を全力で動かしている。

 もっとも、「アメリカ遠征の代表メンバーにふさわしいサイドバックか?」と問われたら、「イエス」とは答えられない。

 アメリカでのメキシコ、アメリカ戦は本大会を想定した戦いになる。

実践的なアプローチが欠かせない。端的に言えば、主力でどこまで戦えるのか、試金石になるはずだ。

 本大会に向け、森保一監督がウイングバックを使うのか、サイドバックを使うのか、それはわからない。しかしどちらにせよ、新たな戦力を発掘する場にすべきだろう。長友の実力は把握できているはずだ。

 最近ではメンタル面で突出した長友の存在を賛美し、リーダーシップを求める声もある。現場でピッチに立つ彼の姿を見ていると、それもわからないではない。「26人のひとりだったら(ロシアワールドカップまでは23人だった)、チームにもたらすポジティブな要因が多い」と本大会のメンバー選出を肯定する意見は多くなっている。

 ただ、それは最新の代表の戦い方を無視した楽観論だ。

 コロナ禍以後、5人交代が可能になり、総力戦の様相を呈している。たったひとりも余剰人員などいない。森保ジャパンの「ワールドカップ優勝を狙う」が大風呂敷だとしても、「ワールドカップベスト8」の目標を達成するには、今まで以上に試合を多く勝ち抜かなければならない。

 たとえばEURO2024で優勝したスペイン代表の道のりは、まさに総力戦だった。代表メンバー26人中、ピッチに立たなかった選手は第3GKであるアレックス・レミーロのみ。ひとりも全試合先発はしていない。主力を温存しながら、力を使いきった。22人が先発出場を果たし、ダニ・オルモ、ミケル・メリーノ、ミケル・オヤルサバルなどは、決勝ラウンドに入ってから交代出場で試合を決めるゴールを記録した。

【左右にタイプの違う選手を】

 森保ジャパンもあらゆる局面を想定し、ピッチで切れるカードを準備すべきだろう。

 長友以外に、タイプの違う選手を揃える必要がある。

 たとえば左サイドの起用で総攻撃に回る場合、左足キックに長けた中山雄太(FC町田ゼルビア)、新保海鈴(横浜FC)、守りを固める場合、センターバック的な町田浩樹(ホッフェンハイム、左膝前十字靭帯断裂で長期離脱だが)、瀬古歩夢(ル・アーヴル)、角田涼太朗(横浜F・マリノス)、ケガからの回復を待つのなら伊藤洋輝(バイエルン)、冨安健洋(所属なし)は有力だろう。右サイドだったら、菅原由勢(ブレーメン)、関根大輝(スタッド・ランス)、毎熊晟也(AZ)のほうが有望だし、むしろ酒井宏樹(オークランド)のほうが期待できる。

 余っている枠などひとつもない。

 かつて「世界」を知る選手が少なかった代表チームは、中山雅史や松田直樹のようなパーソナリティの強い選手を必要としていた。しかし今や欧州の最前線で日常を戦う選手たちは、当時と同じではない。

ひとりひとりがリーダーになれる選手の集団だ。

 必要なのは、むしろ指揮官である森保一監督の求心力ではないか。それを補うため、長友が必要だとしたら本末転倒だ。

 来年のワールドカップで40歳になる長友は、ひとりのプロ選手として脱帽するレベルではある。気持ちの強さも、Jリーグでは抜きん出ている。その明るさが愛されるのも承知である。

 しかし、衰えが明らかなベテランに頼らざるを得ないとすれば―――本大会のシミュレーションも厳しいものとなるだろう。

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